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細かなサインをキャッチし安心できる場・関係をつくる ― 養護教諭による支援と支援者をつなぐ取り組み[中編]

細かなサインをキャッチし安心できる場・関係をつくる ― 養護教諭による支援と支援者をつなぐ取り組み[中編]
2019年2月2日 pulusu2

病気と子育て子どもの生活─声をきいてください
取材記─by Suzuki Yo & pulusualuha


細かなサインをキャッチし、安心できる場・関係をつくる―養護教諭による支援と、支援者をつなぐ取り組み

【前編】いつでもSOSが出せるように準備しておく―A先生の支援事例から
【中編】安心でき、自分を認められる“基地”―B先生の支援事例から
【後編】チームクリフの養護教諭向けワークショップの開催―それぞれの場で、“その場しのぎ”をつくりだそう

*本文中の事例は個人が特定されないように変更を加え、お二人のお名前も匿名[とくめい]にしています。


 

【中編】安心でき、自分を認められる“基地”――B先生の支援事例から

 

子どもにも親にも、安心できる保健室に

 

B先生は、ベテランの養護教諭です。B先生はいままでさまざまな学校に勤務してきましたが、離婚の危機や親の精神障がい、DVなどの背景があることから不安定さを見せる子どもたちと出会ってきました。また、精神障がいのある母親から、普段のかかわりや子どもの健康相談のなかで、相談を受けることも多いそうです。
実はB先生はお母さんに精神障がいがあり、そのことを幼少期から恥ずかしいと感じて育ちました。学校ではそのことを誰にも話せず、いつも明るく元気にふるまって過ごしていました。そんなB先生が安心できる居場所は保健室でした。休み時間のたびに温かく迎えてくれる養護教諭の先生のお手伝いをし、生活の気晴らしにもなっていました。なので、ご自身の職業を選ぶときは、迷わず養護教諭の道を選んだB先生です。
「保健室を子どもにとっても、親にとっても、安心できる居場所にしたい」と語ります。

 

子どもへの支援では、以前、次のような例がありました。
C君(高校生)はお母さんと中学生の妹と暮らしていました。お母さんは精神障がいがあって働けず、生活保護を受けていました。C君は知的を伴う発達障害があり、家事は妹が主に行っていました。あるとき、お母さんが妹に暴力をふるい、虐待通報でお母さんは精神科に緊急入院となり、C君は障がい者施設に入所しました。施設職員や行政のケースワーカーとのやりとりは担任が行い、B先生は学内のケース会議で報告を受け、必要な支援を担任教師と分担しました。M君は環境の変化やお母さんと会えない寂しさからパニックを起こすことが増えたため、担任教師と状態を共有しながら、教室に入れない時は保健室で受け入れ、パズルや塗り絵をして落ち着いた時間を過ごすようにしました。また、施設で入浴できなかったときに学校のシャワー室で体を洗うなど身の回りの支援も行ったそうです。

 

ふだんの生活から気づき、安心できる場・関係をつくる

 

このような緊急性のあるケース以外にも、ふだんの学校生活の中での細かなサインや会話から子どもの抱える困難に気づけるようにつとめ、安心でき、自分を認めてもらえる場所や関係をつくっています。
「子どもはその保護者しかいないという環境のなかで、けなげにがんばっているからこそ、不安定さが出てくる」とB先生は指摘します。たとえば忘れ物の多さや提出物が出されないこと、遅刻、服装の汚れ、また外見はきれいでも虫歯の多さが目立つこともあるそうです。
「そのような部分に気づいて学校でできることをサポートして、せめて学校にいる間は子どもにとって楽しい思い出をつくってあげたい。その子の居場所を確保して“今日も学校に来てよかった”と感じてほしいと思っています。親に精神障がいがあるかどうかに限らず、いろんな家庭の事情を抱えながらも、それを表に出さず学校にくる子はたくさんいますから」

 

このようなかかわりを積み重ねるなかで、通知表がオール1の“ほめどころが難しい”ような成績でも、B先生に見せにくるようになった子どもがいました。B先生はそんな通知表からも、子どもの成長を見つけ、フィードバックしたそうです。
「1学期より欠席が少なくなったね! がんばって学校に来たんだね」
「友達と仲良くなることが得意だって書かれているね。こういう部分は人柄に関する部分で、素質があるってことなんだよ。素敵だね!」
1から2になった教科があれば「すごいじゃない! ねえ、成績アップしたのは何かがあったの?」…

 

悩みをうちあけることなく、いつも高いテンションで明るくふるまっている女の子もいました。B先生が、何かのきっかけに「あなたは、水鳥みたいに優雅に泳いでいるけど、実は水面下では足をバタバタさせて、もがいているんじゃない?」と探りながら聞くと、「よくわかるねー、先生」と言って涙を流し、すっきりした顔で教室に戻ったそうです。

 

こんなふうにB先生と深くかかわっていた子どもたちでも、卒業後、偶然街で出会ったときに、知らないふりをする子どもがいます。
B先生はその子どもの気持ちをこう語ります。
「子どもにとって苦しかった時代は、“封印したい時代”でもあるんです。私自身も無理して明るくふるまっていた“闇の時代”は思い出したくないと思っていたときがありました。だから、同窓会に誘われても参加を躊躇したときもありました。子どもだってそうだと思い、知らないふりをしています。子どもには、『あの先生がいたからやってこれた』と感じてもらうよりも、『自分でがんばってきた』という気持ちを大切にしてほしいです」

 

どんな支援があればよいか―早めの段階での支援が必要

 

これから、どんな支援ができたらよいと思っているか、B先生に聞きました。
「子どもはいま置かれている状況のなかで、どんな支援が受けられるかについての知識がありません。ですから、保護者のことを否定せずに温かく話を聞いたうえで、『あなたには逃げるところがある』『こういう方法もある』と伝えることが必要だと思います」
「子どもたちが保健室に来て悩みを打ち明けてくれたとしても、その子が毎日学校を登校していて、不登校や非行・いじめなどの明らかな行動が生じないうちは、学校全体として動かないことが多いです。気がかりな子どもたちを、早い段階でチームで支援できればよいのですが、実際には個人情報保護の問題もあり、共有が難しいこともあります。もし、学校内の職員で気がかりなことや問題を共有し、連携できたとしても、そこから先、どう外部機関につなげていったらよいかがわからない。せっかく話を聞いても、その子の支援にフィードバックしていく力が、学校はまだまだ弱いと感じます」

 

保護者へのかかわり―試行錯誤のなかで

 

B先生は、たくさんの保護者とかかわってきましたが、頼りにされることが多く、過去には距離が近づきすぎてしまうことが多くあり、試行錯誤してきたそうです。かかわるなかで大切にしていることを、次のように語ります。
「知識があっても精神障がいを抱えている保護者の対応は難しいし、学校はゆっくり対応する時間も力量もない。そもそも、そこまでの役割が必要なのかという気持ちもあります……。そのようななかでも、しっかり話を聞き、気持ちを受容したうえで、堂々巡りしてしまう話を交通整理しています。そして、時間を区切るなどお互いの距離をとり、自分で考えてもらうことを大切にしながら“最終的には、保護者のあなたががんばるのよ”という思いを含めたメッセージを伝えます。5~7年での職場異動も、保護者と依存的な関係になりすぎないためには大切だと感じます」
また、教員は多忙化のなかで、疲弊しているため、職員をサポートする場面も増えているそうです。「支援する人が元気でなければなりませんね。人はどうしてもネガティブな気持ちに引きずられやすいので、仲間同士でシェアしていくことが大事だと感じます」

 

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