「子ども情報ステーション by ぷるすあるは」精神障がいやこころの不調、発達凸凹をかかえた親とその’子ども’の情報&応援サイト

精神疾患のある親と暮らす子ども・家族への理解を深め可能性を広げる支援のためのツール〜事例検討のやり方を学ぼう!【チームクリフWSレポート】

精神疾患のある親と暮らす子ども・家族への理解を深め可能性を広げる支援のためのツール〜事例検討のやり方を学ぼう!【チームクリフWSレポート】
2023年7月3日 office

─by Suzuki Yo & pulusualuha

■ワークショップの目的

 

2023年3月23日、ワークショップが行われました。
主催は「チームクリフ(TKLF:TEAM KIDs LIFE FUTURE)」。
科学研究費補助金(基盤研究(C)研究課題番号16K04149 研究代表者長沼葉月)をうけ、精神障がいのある親と暮らす子どもたちの「生きる」と「未来」を応援し、子どもや家族の支援者を対象としたワークショップの開催、調査研究にもとづく情報発信などを行っている団体です。
(詳細は 》チームクリフ のページ参照)

 

精神疾患のある親と暮らす子どもへの支援に悩む支援者が、ほかの支援者とチームを組みながら支援策を考えるための方法のひとつに、「事例検討」や「ケースカンファレンス」があります。
このワークショップでは、子どもや家族の強みを探しながら理解を深め、視野を広げて可能性や対応を探っていくための「事例検討のやり方」を学びました。

 

ワークショップはオンラインと現地参加のハイブリッド形式で実施。市役所や子ども家庭センターなどに勤務する行政職員や学校カウンセラー、放課後デイサービス、母子支援施設スタッフなど、アーカイブ参加も含めて60人以上の方が参加。午後いっぱい時間をかけて、2つのタイプの事例検討について、体験しました。

 

前半は、ケアマネジメントの第一人者である野中猛氏が開発した

「野中式ケア会議」の方法を中心にした事例検討

後半は、高齢者虐待防止を目的に「安心づくり安全探しアプローチ研究会」が開発した

カンファレンスシートを使った事例検討

を学びました。

<私は精神保健医療に関する取材に携わってきました。並行して、この春から精神保健福祉士として精神障がいのある人たちの就労支援も始めました。どんなふうにひとりひとりの人の状況や気持ち、次のステップを考えていけばいいのか、模索しています。
以下、ワークショップに参加した感想を交えながら、レポートします。>

 ■子どもや家族の理解を深める事例検討の実際

 

前半は、事例検討の方式のひとつである「野中式ケア会議」を体験するワークショップでした。
まず、牛塲裕治さん(福井県立大学)から、事例検討を行う意味や、事例検討のプロセスで大事にすべきことなどについて、わかりやすくポイントを解説していただきました。
「参加者が事例の親子をイメージして想像力をつけ、支持的に接すること」「事例提供者にダメ出しをするのではなく、元気になってもらうために行うこと」「支援者の価値観を押し付けるのではなく、家族にとっての幸せを探るプロセスであること」など、最初に事例検討の目的の核心部分を学びました。


・事例検討・ケースカンファレンスの違いや目的
・事例検討を行う意味(事例を解決するヒントが得られる/未知の事例に出合うことができる/アセスメントの視野が広がる/仲間の存在に勇気づけられる/チームワークが高まる)
・本来は本人たちを交えた事例検討会が理想
・事例検討プロセスで重視すること など

※野中方式のケア会議を学ぶための参考図書をこのコラムの最後に紹介しています


 

その後、4~5人のグループに分かれて、牛塲さんがファシリテーターを務める形で、実際に事例検討を行いました。

 

①ジェノグラムを書いて家族関係を“見える化”する

 

事例提供者(以下Cさん)から提供していただいた事例は、精神疾患がある母親と、一緒に暮らす2人の子どもの事例でした。
まず、Cさんが家族関係やそれぞれの状況を簡単に説明すると、牛塲さんがホワイトボードに家族関係(ジェノグラム)をさっと書き出していきます。すると、頭の中でこんがらがっていた全体の登場人物と相関関係が整理され、よく見えてきました。

 

②チームで事例提供者への質問を出し合う――みんなの視点で多角的に

 

最初の限られた情報をもとに、家族それぞれが生活していくために必要な支援を考えていくために、家族の状況を想像するために必要な情報や、理解を深める手がかりになりそうなことを出し合っていきます。

 

私が参加したグループでは、次のような質問をはじめ、20以上の質問が出されました。

・母親は医療機関にかかっているのだろうか?
・家族にはどのような機関が支援に入っているんだろう?
・収入はどのぐらいあるんだろう? 生活に困っているのかな?
・子どもは学校に行っているのかな? どんなふうに過ごしているんだろう?
・Cさんは何をきっかけに、この家族の支援に入ったのだろう?
・Cさんは、何に困っているんだろう?
など

 

メンバーそれぞれの目のつけどころが違うので、さまざまな角度から質問がたくさん出されます。私はどうしても母親の気持ちや精神疾患のことばかり質問項目にあげましたが、ほかのメンバーからは子どもの立場に寄り添った質問や、社会資源に関する質問など、多角的な視点の質問項目が並びます。

 

③事例提供者に質問しよう――「ぼんやり」から「くっきり」へ

 

次は、各グループから質問を2つピックアップして、Cさんに聞いていきます。
Cさんが答えるにつれ、事例の家族それぞれが何に困っているのか、本当はどうしたいのか、Cさんが何に困っていてアドバイスを受けたいと思っているのかが見えてきます。ぼんやりしていた家族の像が、しだいにくっきりと浮かび上がってきます。
ここで牛塲さんは、「その人のストレングスの視点から物事をみることを忘れないようにして、どんなことができているのか、どんなことを目指して生活しているのかを見るようにしましょう」と話しました。

 

<牛塲さんの言葉を聞くまで、私は母親の疾患や、「困った」部分をどう説得したらいいかと考えていたように思います。でも、聞いてからは「人に頼らず、愛する子どもを育てたいという強い気持ちがあるのかもしれない…」というように、考えが変化していきました。今までも「ストレングス視点が大事」と思っていたものの……、身をもって自分の考え方の癖を実感した新鮮な体験となりました。>

 

④本人の立場に立って想像力を高める――「100字要約」

 

その次は、「100字要約」に取り組みました。
「100字要約」は、事例の家族の中から一人を選んで、本人の立場でその思いを100字でまとめるというもの。本人になりかわって、「私」という主語で表現していきます。

 

<私は母親の立場を選びましたが、いざ「私は…」と書く段階で、戸惑いを感じました。「この母親はこういう気持ちだと思う」という記述ではなく、「私はこういう気持ちだ」というふうに、母親の気持ちと一体になるのは、勇気が必要だったからです。「本当にそういう気持ちなのか、わからない。間違っていたらどうしよう」と不安でした。でも、
「私は自分の子どもを自分で責任をもって育てたい。だって、私が本当に愛している子どもなんだから。」
そう書き始めると、自分が過去、経験したまわりの人たちへの不信感がオーバーラップしてきて、しだいに本人の気持ちに共感できるような気持ちになり、100字をオーバーしてしまいました。>

 

このあと、牛塲さんから、100字要約は限られた字数に大切なことをコンパクトに収めることで、本人像の「見立て」になること、そして、あくまでも見立てがズレるのが当然で、本人に聞いてみるしかないのだという説明がありました。

 

<たしかに間違っていたとしても、いったん本人の気持ちになって文章を書くことは欠かせないことなんだな。だからといって「本人のことがわかった」と思い込んではいけないのだと感じました。>

 

そのあと、子どもの立場に立ったメンバーの100字要約を聞くことで、客観的に事例の家族それぞれの気持ちを、さまざまに想像することができました。

 

⑤支援計画をつくろう

 

ストレングスをとらえ、家族それぞれの状況を見立てたら、支援計画をつくります。その時に必要なのは「家族が楽しく暮らせるにはどうしたらいいか」という視点。それに基づいて、それぞれの立場から、作戦案を出していきます。メンバーによって得意分野や見えるものが違うので、全体を合わせると、とても多角的な視点を含んだ支援計画ができていきます。
(実際には、本人の希望を聞かなければ支援計画はつくることができません。)

 

⑥事例提供者も元気になれる

 

事例検討の大きな目的のひとつは、事例提供者に元気になってもらうことです。
現場で支援者は、困りながら孤軍奮闘していることがほとんどかもしれません。

 

<この場では、参加者がCさんが頑張っていることやできていることを客観的に伝え、アドバイスする時間もあり、Cさんの声も明るくなっていくように感じました。>

 

この1時間の事例検討は、偶然同じグループになった参加者が「チーム」になっていくプロセスを実感し、勇気がもらえる時間となりました。

 

■ワークシート記入式カンファレンスの体験

 

後半は、長沼葉月さん(東京都立大学)による「ワークシート記入式カンファレンス」の解説と、ワークショップでした。
近年、「多機関協働」はキーワードになっていますが、現場ではそれぞれの立場で優先したいことが違うため、対立したり、方針を共有できないことが多々あるのが現状です。感情的な対立から、支援を相手に押し付けあったり、情報が共有できなかったりすることが実際にあります。
それを防ぐために、司会者がメンバー一人ひとりの発言を促してアイデアが出されやすく、それぞれが向かう方向性が共有できる――そのような話し合いの練習を、「安心づくり安全探しアプローチ(AAA)研究会」が開発したカンファレンスシートを子ども家庭支援用に今回のために改変したものを使って、進めていきました。

》カンファレンスシートはPDFをこちらからダウンロードできます

 

①カンファレンスシートの構造

 

このカンファレンスシートは、A4×2枚の簡単なシートで、「できていること・悪くないこと」「困ったこと・心配なこと」「望んでいること」などご家族の状況、「支援者のうまくいった関わり方」「支援者のうまくいかなかった関わり方」など支援者の関わりを振り返るための項目、そして、「ご家族なりの安心した暮らしのイメージ」を考え、今後のプランを書き込めるようになっています。カンファレンスを段取りよく進められるよう、順序だてられた構成になっています。
参加者一人ひとりの発言を促し、その内容を記録しながら進めていく形になっているので、ファシリテーターは参加者それぞれの発言を集中して聞くことができます。

 

②強み探しで本人を理解する

 

途中に長沼さんの解説を挟みながら、事例提供者が出してくれた事例に沿って、話し合いを進めていきました。
「できていること・悪くないこと」を話しあう前には、ゲームを用いながら強み(ストレングス)を探すワークをしました。

 

<新聞の「人生相談コーナー」に掲載されたある男性の文章(人生相談)を読んで、その男性の印象を数値化するというワークでした。最初に「この男性が抱えている問題、支援課題をあげてください」と課題が出されると、つい足りない点に目が行ってしまいます。そして、男性の印象を「依存的/自立している」「自信がない/自身がある」「怠けている/頑張っている」…などの項目ごとに数値化してみると、明らかにネガティブな評価になってしまいました。
その後、同じ文章が出され、今度は「この男性にあるストレングスを想像してください」という課題が出されました。すると、面白いほどに「頑張っているところ」に目が行くのです。その男性の印象の評価も、明らかにポジティブな数値になりました。
客観的にアセスメントをしているつもりでも、実際にはそうなっていないことを実感しました。>

 

そのあとはグループで事例についての話しあいを進めました。「困ったこと・心配なこと」よりも、「できていること・悪くないこと」を先に書き込む形式になっていることもあり、自然に「強みを探す」発想に切り替わっていきました。

 

②関係性に注目、点検する

 

その後は、「支援者の関わり」について話し合いました。事例提供者にとって「うまくいった関わり方」「うまくいかなかった関わり方」の順で点検し、支援関係を築くコツを探していきました。
日々の関わりの中で、どのようなことを一番大事にしているのか、どんな言葉をかけているのかなど、具体的な場面を聞き、それぞれの感想をチームメンバーに伝えていくことで、事例提供者も、無意識にやっていることが意識化できたようでした。

 

③可能性は幅広く考える――今後の見通し

 

そのあと、話し合いでは「安心した暮らし」をチームでイメージしていくのですが、チームで話し合う前に、長沼さんから「なぜ安心した暮らしをイメージすることが大事なのか」というお話がありました。

 

<「未来は不確かだからこそ、よいことも心配なことも含め、可能性は幅広く考えたほうがいい。可能性を幅広く考えることで、支援の選択肢はもっとたくさん出てくる」「どうしても一人の支援者が考える本人の可能性は狭くなってしまうが、チームみんなの視点で、幅広い可能性を考えられることで、本人の可能性も幅広くなっていく」。このような長沼さんのお話は、とても印象的でした。
「チームで話し合う」「会議をする」といった場合、「一つの方針、方法を決めること、まとめること」をどうしても優先してしまうことが多く、意見を言いづらくなってしまうことがあります。その職場での経験が少ない場合や、慣れない場所では、なおさらだと思います。
でも、長沼さんの話を聞き、自分の立場で大事にしていること、自分自身の見立てや「こうしていきたい」という方向は違っているのが当たり前なのだということ。違っているからこそ、本人の可能性が広がっていくという考え方にハッとさせられました。 
「本人、家族にとっての幸せのために何ができるか」。常にこの原点に立ち戻っていこうと思いました。>

 

そのあとの話し合いでは、それぞれが「家族なりの安心した暮らしのイメージ」を出し合いました。違いがあることの大切さを意識できたせいか、とてもリラックスして話ができ、多くのアイデアが出されていきました。

 

■ワークショップに参加してーー悩みを共有し、学びあえる機会に期待!

 

<後半、前半のワークショップを終えてみると、とても気持ちが楽になっていることを実感しました。目的は同じだけど、方法はさまざまなでいいということ。支援者一人ひとりが大事な存在だということがじわじわと実感できました。「自分が手詰まりになった時があっても、きっとみんなの知恵を寄せ合えれば前向きになれる」という確信を持つことができました。
精神疾患のある親と暮らす子どもたちと、その家族。いまは苦しい状況かもしれないけど、この先にはきっと、広い世界が待っているはず。本人・家族も、支援者も、一人じゃない。本人・家族を中心に、チームで力を合わせて、自分の立場でできることをやっていこう――。そんな勇気をもらいました。

 

参加した学校カウンセラーは、「みんなで事例検討を進めていきたいと考えているが、自分から声をかけて中心になって進めていけるような技術力がない。だから、このような場で技術を学んで力をつけて生きたいと思って参加した。今後も、こういう機会を積み重ねていきたい」と語ってくれました。

 

実際に、それぞれの現場に持ち帰ってやってみても、すぐに同じようなチームワークが実感できるわけではなく、それこそ試行錯誤の連続かもしれません。
だからこそ、これからもみんなで学びあい、悩みを共有し、原点を確認しながら勇気をもらえる機会があるといいなあと思いました。>

 

 

年度末のお忙しい時期にご参加いただいたみなさま、ありがとうございました! (ぷるすあるは・チームクリフ)

長文お読みいただきありがとうございました。

■ 当日紹介したそのほかの資料・リンク

 

》チームクリフ

》高齢者虐待防止のための安心づくり安全探しアプローチ(AAA)

ワークショップで紹介したカンファレンスシートの原典は、こちらで出版しています
》『チーム力を高める多職種協働ケースカンファレンス』
安心づくり安全探しアプローチ(AAA)研究会著、瀬谷出版, 2019

》『生きる冒険地図』
著:プルスアルハ,学苑社,2019
(Web版も公開)

》『悲しいけど、青空の日〜親がこころの病気になった子どもたちへ〜』
文・絵:シュリン・ホーマイヤー,訳:田野中恭子,サウザンブックス,2020

》親&子どものサポートを考える会

》親が精神障がいをかかえている子どもの体験にふれられている絵本リスト

》問題解決しない事例検討会マニュアル
(独立行政法人 国立病院機構 さいがた医療センター のWebサイト内)

※野中方式のケア会議を学ぶための参考図書

(リンクはAmazonのページへとびます)

》ケア会議で学ぶケアマネジメントの本質,野中猛・上原久(著)中央法規出版,2013
》ケア会議の技術,野中猛・上原久・高室成幸 (著),中央法規出版,2007
》ケア会議の技術〈2〉事例理解の深め方,上原久 (著) ,2012
》援助力を高める事例検討会: 新人から主任ケアマネまで,白木裕子(編集),日本ケアマネジメント学会認定ケアマネジャーの会(監修),2018