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細かなサインをキャッチし、安心できる場・関係をつくる―養護教諭による支援と、支援者をつなぐ取り組み[後編]

細かなサインをキャッチし、安心できる場・関係をつくる―養護教諭による支援と、支援者をつなぐ取り組み[後編]
2019年2月2日 pulusu2

病気と子育て子どもの生活─声をきいてください
取材記─by Suzuki Yo & pulusualuha


細かなサインをキャッチし、安心できる場・関係をつくる―養護教諭による支援と、支援者をつなぐ取り組み

【前編】いつでもSOSが出せるように準備しておく―A先生の支援事例から
【中編】安心でき、自分を認められる“基地”―B先生の支援事例から
【後編】チームクリフの養護教諭向けワークショップの開催―それぞれの場で、“その場しのぎ”をつくりだそう


 

【後編】チームクリフの養護教諭向けワークショップの開催―それぞれの場で、“その場しのぎ”をつくりだそう

 

A先生、B先生のように、全国に精神障がいのある親とその子どもをサポートしようと奮闘している養護教諭や担任教師の取り組みがたくさん行われている一方で、子どもや家庭のニーズに気づくことができなかったり、具体的な支援ができない現状もあります。
このようななか、親や子どもの支援を行うために養護教諭や担任教諭と連携して支援モデルを展開していこうと、2018年、研究者やNPO法人ぷるすあるはが「TKLF:TEAM KIDs LIFE FUTURE(チームクリフ)精神障がいのある親と暮らす子どもへのチーム学校を基盤とした支援モデルの開発研究会」を結成。
8月には埼玉県内の養護教諭らを対象に、ワークショップを開催し、70人をこえるの養護教諭をはじめとする先生方が集まりました。

》チームクリフ公式ページへ(本サイト内)

 

「ボク、私たちに気づいてくれてありがとうございます」
―部屋に入ると、黒板いっぱいに描かれた細尾ちあきさんの絵が出迎えます。そして、ワークショップの冒頭は、ぷるすあるはの絵本『ボクのせいかも…お母さんがうつ病になったの』の読み聞かせ。自分のせいでお母さんが変わってしまったのではないかと自分を責めてしまう主人公の物語を聞きながら、子どもの気持ちに思いを馳せる時間を過ごします。

 

続けて、長沼葉月さん(首都大学東京)から、埼玉県内の養護教諭を対象に実施した「精神障害のある親の元で暮らす子どもの支援ニーズの実態調査」の報告がありました。
実態調査では、8割以上の学校に精神障害のある親と暮らす子どもがいること、小規模校に比べて大規模校ではその割合が低いことから、「実際には支援ニーズを抱えている多くの子どもがいるのに、気づくことができていない」現状が明らかにされました。
精神症状はよくなったり悪くなったりを繰り返します。そのため、支援制度が悪くなった時にタイムリーに活用できるようになっていなかったり、医療や相談サービスはあっても生活支援のサービスが少ないなど、支援が不足しています。長沼さんは「現状の中で生き続けている親と子どもと一緒に、学校や地域の関係機関が一緒に、その子どもに対する“その場しのぎ”をつくりだしてほしい」と強調。「こうすればよい」という正解がない現状で、みんなで試行錯誤しながらいまできることを積み重ねていくことの大切さを訴えました。

 

次に、「親と子をサポートする会」による子どもの置かれている状況や話を聞く場の大切さについて、子どもや親の視点による解説がありました。そして、小グループに分かれて、それぞれの取り組みや工夫、これからできそうなことについて、たくさんの希望が語られました。

 


 

前述のA先生、B先生も、このワークショップに参加されました。後日、感想を次のように語ってくれました。

 

「勉強会やワークショップでは、 “100%のお手本”が示され、求められることが多いのですが、このワークショップでは“その場しのぎでいい”というお話に、安心しました。いま、パーフェクトの道筋がないのが現実です。私たちはこの状況でここまでできていることに自信をもっていいのだと思いました。ほかの方の“その場しのぎ”を聞くことができ、自分たちができることを1つでも2つでも考えていけるワークショップのあり方は、とても大事です。読み聞かせの絵本も初めて知り、まず学校保健委員会で親に読み聞かせをしたいと思いました」(A先生)

 

「大学の先生をはじめとする専門職の方たちが組織として支援に取り組んでいることを知り、自分だけが孤軍奮闘しているのではない、と癒されました。今後、事例を発表しあい、温かい雰囲気のなかで医療や福祉関係者と一緒に考えていくような勉強会の場を定期的につくってもらえたらいいなと思います。そこでネットワークもできていくと思います。ときには精神障がいのある親のもとで育った子どもの体験も聞くことができればいいなあと思います」(B先生)

 


 

自分のために手探りの中で考えてくれる大人がいること

 

今回、A先生、B先生にお話を聞かせていただき、子どもや親にとって安心できる場所・関係をつくること、子どもや親のニーズにさまざまな視点から気づく目をもつこと、その子どものどんな気持ちも認め、成長や自立に向けて一緒に歩むことの大切さを教えていただきました。そして、このことは、すべての子どもたちにとって不可欠なことだと改めて気づかされました。
「強がってしまう自分でも、素直な感情を出せる自分でも、どんな自分でも大切にしてくれる人たちがいる」
「自分のために一生懸命、手探りの中で考えてくれる大人たちがいる」
このような思いを感じることができる体験が、自分の力を信じる気持ちや、「この人にはSOSを出してみよう」と思えること―人を信じてもいいと思える気持ち―につながっていくのだと思いました。

 

そして、チームクリフが試みるワークショップの場は、日々、親子の支援に試行錯誤している先生方たちをつなぎ、励まし、次に進む知恵や勇気を得られる場でした。
「支援する側も、ひとりじゃない」という温かさ・力強さが、じんわり伝わりあっていることを実感しました。

 

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