子どももだけど大人も圧倒的に支援が足りない…
集団と個別の両方で、精神に障害のある親をもつ子どもさんの支援に取りくんでいます
公益社団法人 京都精神保健福祉推進家族会連合会(略称きょうかれん)さん。2ヶ月に一回、精神に「障害」のある親をもつ子どもの集い*を開催されています。
コロナ禍の2020年は、5月の集いはお休みとなりましたが、7月から再開。集いに加えての専門職による個別相談も行なっています。
今回、新たな個別相談を担当している、たのなか先生に、集いと個別相談、両方の取り組みについて、コロナ禍の影響もふくめてお聞きしました。
(動画「親が精神障害 子どもはどうしてんの?」やコラム、「悲しいけど、青空の日」の翻訳など、子ども情報ステーションでもおなじみの、たのなか先生です。インタビューは、11月中旬、オンラインツールで行いました。)
基本情報
》公益社団法人京都精神保健福祉推進家族会連合会(きょうかれん)
*「子ども」の集いは、年齢を限定しておらず、成人していてもいなくても参加できます。実際の参加者は、大学生くらいからで、成人されている方がほとんどです。このコラムのなかでは、(親が病気の)子どもの立場の方を、成人している方もふくめて「子ども」と呼んでいます。
子どもの集いのほかにも、きょうだい、配偶者の集いも隔月1回おこなっています。毎回開催報告がブログにアップされています。
※個別相談
精神に「障害」のある親を持つ子どもを対象に専門職による面接相談(予約制)。お子さんの身近におられる方のご相談もお受けいたします。
同じ立場の方で会って話せる場、ほっとひといきできる場があってよかったです
—この間の集いや個別相談の様子について教えてください。
京都の子どもの集いは、子どもの立場の方から、京都の家族会で開いて欲しいということから立ち上がったグループです。私も同じ立場として参加してきました。コロナ禍で一回お休みになりましたが、7月から再開をしました。(会の担当の)佐藤先生と、「どれくらい来られるかな…あまり来られないかな?」とか話していたら、最近来られていなかった人もいらして、9人くらいいらっしゃいました。
「会って話すのっていいよね」と…
画面越しでなくて、黙っていても、同じ子どもの立場の人でうーんとか言いながらでも、会って話すのはいいなあと、実感していました。
集いの中の話では、コロナだからということよりも、普段からある想いだったり、今でも残っているしんどさだったり。ほんの一息だけど、ほっとひといきできる場があってよかったなという印象があります。
個別相談の方は…
コロナで集いが開けなかったときに、大丈夫かな、抱え込んでないかな..と心配な方がいらっしゃいました。
保健所がコロナ対応でいっぱいで、精神障害をかかえた当事者の方やご家族の方からの相談を受ける余裕がないのではという状況もあって、その応援になったらという思いもありました。
そのふたつから、少しでもお手伝いできたらと思い、急遽[きゅうきょ]、個別相談を開かせていただきました。
開いてみたら… 数件の問い合わせがありました。
「外出をひかえましょう」となっていたので、電話相談でもよいことにして、ネットでいろいろ検索して出会いました、と今回初めて相談電話をくださった方や、ホームページをみて集いに参加されている方からの相談もありました。
相談内容では、コロナ禍で、病気をかかえた当事者(親)が、例えばいつものルーティンができないことや、感染の不安などで、不安定になったり症状が悪化したりといった傾向があって、すると家族(子ども)も心配だし、距離が近い分まきこまれたり、ほっとひといきすることもできなかったり…。同じ家にいて、相談電話も話しにくい状況もありました。
個別のフォローも必要…専門職が相談に入れるとよいと思います
子どもの集いは、同じ立場の人に出会えるのでかけがえのない機会ですが、集団へのアプローチなので、個別に相談してゆっくり話しながら、いろんなことを整理する必要がある方が多くて、集団も個別のフォローもどちらも必要かなと思います。
集いと個別相談と両方いらっしゃる方もいますし、集いはちょっと…という(個別相談だけの)方もいます。
集いは、今日は自分とはちがう話が多かったかな…といった日があっても、全員のメンバーをみて、どなたも、ひとつは関係のある、共通する話題にしていけるといいな、と一参加者としては思っています。
例えば、仕事している人と、仕事していない、できないという人がいたり。親と一緒にいる人と、親の話はしないとか、縁を切っていますという人がいたり。そういう人が、親と一緒にいて苦しんでいる人の話をきくと、違いが気になってしまうかなと感じています。そういったテーマによって、集いの居づらさができたりもします。抱えていることはそれぞれ違うけど、共通する点を話すことも大切。他では話せない、気持ちや生き方の根っこに関わることを分かち合っていけるといいなと思います。
全国で増えてきている子どもの集いでも、思いを分かち合うだけではなくて、「学習会」といった前に進んでいるぞ、というのがわかりやすい場もありますし、それぞれのちがいや方向性があって…いろんな選択肢がひろがるのがいいのかなと思います。
現役の子どもへのケアも足りないけど、成人した人へのケアも圧倒的に足りない…
—個別と集団、両方のフォローがあるのがいいですね。丁寧な個別相談があるというのはとても心強いです。
子どもの頃からの体験が根強く刷り込まれていて…
これはしんどいよな…と。
現役の子どもへのケアも足りないけど、成人した人へのケアも圧倒的に足りないです。話をきいたり、一緒に考えたり、次につなげたり… 専門職がしっかり相談に入れるといいと思います。
子どもを主役にして子どもを丸ごと受けとめる
—精神障害の方の家族相談といったら、親の立場の方やパートナーのことが多くて、子どもさんの立場の方からの相談の経験はあまりないという方も多いかもしれません。子どもの想いや経験をふまえての相談のヒントがあれば教えてください。相談を受ける方へのメッセージです。
相談機関で、「あなたは子どもの立場だから、保護者をつれてきてください」とか「本人をつれてきてください、本人が来ないと..」と言われてしまった、ということがあります。
「あなたがしっかりしなきゃ」とか「あなたが自立するためにはこれをやらなきゃ」といった、成果がみえてなんぼ、という接し方の支援者も…います。
子どもさんを主役にして、支援者からするともやっとして、もやっとしたまま帰る、というのがなかなか許されなくて…。
子どもの立場の方からすると、相談しているのに、あそこには、もう行けない、行きたくない、となることもありますが、「この部分は活用した方がいいよ、つながっておくと(社会資源やサービスに)つながるときには活用できるから、その部分だけのかかわりでもいいから…」と伝えます。
子どもを主役にして、子どもを丸ごと受け止めるところがないな…
子どもが器用に相談内容別に専門機関を割り振って行ければいいけど、それができないからしんどくなっています。
この部分…例えば親の医療は主治医へ、ここは福祉、子どもの生活、きもち、発達のこと…
まず、ありのままを受け止めてから、相談機関や対応を子どもの気持ちを聴きながら、子どもが決められるようにしていく…。子どもの中に時間がかかっても、本当に小さなことでもできることがあります。
いろんな事情で、約束を守れないことがあっても、その事情もわかって欲しいなと思います。
子どもさんの相談を受けるとき、子ども自身の話から話してくれることは少ないです。親が…。親が…って。
最後になって、ほかに相談ない?てときに、「実は…一番話したいことは自分のことなんです」ってぼそっと話される。
最近では、「自分はどうなん?」と早めに聞くようにしています。
—きいてもらってない。話していいとも思ってない…
はい。
(支援者に)「こう言われた…」「こういう表情だったからきっと私の言ったことが悪かったんじゃないか..」など、いつも気をつかいながら動いているので、しんどいやろうなと思います。
<話は、チアキが関わっている、薬物依存症のリハビリ施設ダルクの家族会の話にもなり…。
今はコロナで中止中なんですが、早く再開してほしいという要望がきています。違法薬物の場合は犯罪になってしまうので、なかなか他所では話せない…刑務所に言ってる話は一般的には雑談でもできないですし、保健所にも相談にいきにくくて…。すごくニーズがあるんです。
参加者は両親が圧倒的に多くて、孫育てしてます(親が逮捕で育てられなくなって)という人もいます。そこに、たまに子どもの立場やきょうだいの立場の人が来ることもあるんですが、どうしても話がかみあわなかったり、話に置いてけぼりになる感じがあります。家族という共通点もあってなんとかしたい気持ちは共有だけど….。>
共通のところももちろんあるけど、どうしても、親御さんの立場の人たちのところにぽつんと入ると、「共通点はなにかしら?」というかんじでみてこられたり、「がんばってるのね」みたいになったり…親御さんの方も、子どもさんの立場の方にどういう声かけをしたらいいのか…想像しにくいんだと思います。
<薬物依存症のご本人のインテークをとると、子どもがいることは結構あります。成人していたり、縁が切れたりしていることもあるし、子どもへ説明していないことも多いです。逮捕された、刑務所にいるって説明が難しいです。出稼ぎに行ってるとか行方不明になったとか、とっさに嘘の説明をしてしまったり。だけど子どももわかっています。言っちゃったものは仕方がないけど、どうリカバリーしましょうか、と相談したりします。
親が薬物依存の子どもの立場の会… 年に1回でもやります、と始めたら参加者はいるかもしれないですね。>
変化は必ず起きるので、なにかとつながって、なんとか生きのびて…
—最後にメッセージをお願いします。子どもの立場の方へ…
やっぱり…ひとりで抱え込まないでほしいなというのがあります。
すぐに状況は良くならないけど、時間とか人とか何かの出会いで、変化は必ず起きます。
やらないといけない、はなくって、自分もついつい「やらなきゃいけない」と思うけど、自分がつぶれるまでやる必要はなくて、なんなら一度投げ出すのもありだし、自分を大事にしてほしいなと思います。
ネットでも本でも集いでも相談でも….なにかしらつながっていってほしいなと思います。
—まわりの方へ…
子どもに気づいてくれるまわりの大人や、周囲の理解が足りない…というのはあると思います。精神疾患のことが少しわかっていたり、自分の思いを子どもに伝えるのではなくて、子どもの思いをありのままきく立場でかかわってくれる大人が一人でも増えるといいなと思います。
専門職も困っています。専門職向けの研修会なども広がってほしいです。
学校の先生が、忙しい中で、精神に障害のある保護者と子どもに関する研修会に来てくれていて、その熱意はどの職種よりも高いです。学校現場でもほんとに気にしてくれているんやろうなと思います。教員免許更新の講習会は、今年は中止にしても…という話しもでましたが、コロナ禍だからむしろ必要。来年に引き延ばしてもいいのかというとそうではなくて実施しました。参加者の反応もよく、この内容が求められていることがあらためてわかりました。
スクールカウンセラーなどとも連携しながら、いろんな職種が活躍しながら、子どもにつながっていけるといいと思います。
— 今の子どもたちに、成人する前につながれたら…と思います。
(受け止めてくれる先生、支援者に)たまたま出会う、のではなく必ず出会えるようにしないと。
この人はなんかあったらきいてくれそう、追い詰めないよね、みたいな人がいるとほっとします。
無理にこじあけられるとかえってしんどい、ぐいぐい攻めてこられるとしんどいという子どもたちもたくさんいます。
子どもの立場の方にインタビューをすると、「(家のことなど無理に)きかないで、元気な部分をひっばりだしてくれる、できるところでサポートしてくれる関わりでいい」とおっしゃる方も多いです。
一人でもそういう大人が周囲にいると、なんかあったらそこにいけるかもという、いちるの頼み綱が子どもたちにできます。
座談会を終えて
日頃からお世話になっている、たのなか先生の、変わらぬ安定感のあるお話でした。
親が精神疾患をかかえている子どもの集いは、三重の「親&子どものサポートを考える会」が2009年に発足したのを皮切りに少しずつ広がり、この3年くらいで目に見えて増えてきました。南は沖縄から北は北海道まで。
コロナ禍で、オンライン開催を行うところもでてきて、遠方にいながらの参加も可能になりました。それぞれの集いの個性や雰囲気や相性があって、参加される方が選べるのはよいことだと思います。学習会、勉強会のスタイルや、懇親会、語りのイベントと… いろんな形があります。
京都の集いでは、専門職がサポートスタッフでいることや、専門職による個別相談フォロー体制があることに、安心感と信頼感があります。最初に立ち上げられた頃、丁寧に慎重に集いを育てておられる様子も、遠くからではありますが感じていました。大切、必要な取り組みだと改めて感じました。
「現役の子どもへのケアも足りないけど、成人した人へのケアも圧倒的に足りない…」ほんとに…。増えているといっても、まだまだ子どもの立場の家族会は手薄です。ぷるすあるはにも、大人の方向けのメッセージやツールがあるといい…というリクエストがあります。
参加者の子どもさんが安心していられる、語れる場が、ひろがったらと思います。
》精神障がい者の親&子の支援マップ(親&子どものサポートを考える会作成)
精神障がい者を抱えながら子育てをされている親御さん&障がいを抱える親御さんと暮らす子どもの支援をする団体の情報です。
*
コロナ禍における集いの開催状況(3-7月)をまとめたものです
追記
家族会の方に『生きる冒険地図』を紹介したら、「おもしろい」「こんなふうん考えたらいいんだ、こういう発想をしたらいいんだな、へえええ」とずっと読み込んでいた、という話を聞きました。意外と…親の立場で家族会に参加されている方がプルスアルハのことを知らない!ということも。この本も『ゆるっとこそだて応援ブック』も、案外、どんな立場の方でも自分ごとに受け止められるテーマがあるところも特徴かもしれません。この本たちも、だれかにとって、なにかのつながりになる、そのきっかけになれば幸いです。がんばってもっと広げていかないとですね。
ハッピーリスト
子どもの集いでも話題になるという「ハッピーリスト」
「楽しめることがない」「一丁懸命楽しめることをやってみたけどかえって疲れた…」といった声もききます。
息抜きだといいかも…日常生活のなかで見つけてくださいね。
*
動画(親が精神障害 子どもはどうしてんの)[7:02]
動画(悲しいけど、青空の日)[4:15]
「親がこころの病気になった子どもたち、まわりの皆さんへ 感せんしょう予防のため、お家ですごす時間が長くなっていると思います。 そんなあなたへ、少しでも「悲しいけど、青空の日」がやってきますように。」
(コロナ禍で絵本のメッセージをぎゅっと短い動画に盛りこみました)
「子ども虐待防止オレンジリボン運動 新型コロナウイルス感染症対策下における子ども虐待防止に資する活動への助成」を受けて行っています。