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精神疾患をかかえた親・子ども支援での「教育と医療との連携」について【後編】YESnet(四日市早期支援ネットワーク)を例に

精神疾患をかかえた親・子ども支援での「教育と医療との連携」について【後編】YESnet(四日市早期支援ネットワーク)を例に
2019年2月2日 pulusu2

精神疾患をかかえた親と子ども支援での「教育と医療との連携」について

【前編】連携における課題

「学校の先生が生徒のこころの不調に気づき、発信できるか」
「連携するにあたって、お互いのことをよく理解できているか」
「目的を一つに協働できるか」
前編では上記の3つの課題についてふれました。

【後編】YESnet(四日市早期支援ネットワーク)を例に

親&子どものサポートを考える会 精神保健福祉士 牛塲裕治(総合心療センターひなが)


 

【後編】YESnet(四日市早期支援ネットワーク)を例に

 

私が勤務する三重県四日市市には、児童生徒を含む若者のこころの健康を支援するための、教育、保健、医療、福祉のそれぞれの機関が協働するネットワーク事業があります。
それを四日市早期支援ネットワーク(Yokkaichi Early intervention Service network)といい英語の頭文字をとってYESnetと言います。

 

1.YESnetのあゆみ…連携のために具体的に取り組んできたこと

 

YESnetは平成21年から始まり、もうすぐ10周年です。
私が勤める精神科病院の院長が、日々の臨床のなかで「初診で受診される患者さんの生活歴を聞いていくと、中学校、高校などの学齢期になんらかの不調を抱えている人たちがたくさんいる。もう少し早く医療やそのほかの支援に繋がっていれば、重症化することなく成長していけたのではないだろうか」ということを感じていました。当時は、精神科早期支援という精神疾患への予防的アプローチに効果があることが少しずつ分かってきたころで、当院としてもそのような取り組みを地域で行いたいと考えていました。
同じころ、四日市市保健所が保健所政令市となり、四日市市教育委員会と同じ建屋でのお付き合いが始まり、ケースの支援など協働することがあったようです。もともと保健所と医療機関とは円滑な連携関係にあったので、保健所に間に入ってもらい、教育委員会、保健所、精神科病院が協力して、四日市を中心としたネットワークを組むこととなりました。

 

「定例会議」…顔の見える関係づくり

 

ネットワークといっても、すぐにできるものではありませんでした。
毎月1回3機関が集まって会議をし(平成26年から児童福祉部門も参加)、学校で困っているケースについて話し合ったり、お互いにやってもらいたいこと、できることできないことを話し合ったりしました。
その中で、それぞれの目的や、動き方、時間の流れ、生徒の支援において困るところ驚くところ、個人情報の取り扱いの認識、などなどたくさんのことで差異が確認できました。
これといった議題がない時も、毎回の定例会議は繰り返し行っています。それが自然と教育と医療がコミュニケーションをとる場となり、相互理解が進みました。また、定期的に会議があると、こんな事聞いていいのかなという些細なことも「今度の会議で会うから聞いてみよう」と聞きやすくなります。さらに、学校で起きた病院に受診していない生徒のことでも、緊急のことなら「病院のPSWに聞いてみよう」とすぐに電話で聞けるようになります。

 

定例会議は相互理解、目標の統一、連絡のしやすさ、などいろいろなことを可能にし、まさに顔の見える関係づくりの場となりました。この会議は連携をするうえでの「お互いのことをよく理解できているか」という課題を解消していくのに役立ったと思います。教育委員会の方が医療のことをよくわかっていただいたので、学校から教育委員会に相談があったときに、具体的に(例えば「相談するならPSWの人に電話したらいいよ」)など伝えてくださるようになりました。

 

「出前授業と出前研修」…生徒・先生へ相談窓口もセットで

 

お互いのことがわかってから、YESnetはいろいろな取り組みを行ってきました。
先に挙げた、連携をするうえで、「学校の先生が生徒のこころの不調に気づけるか、発信できるか」という課題に対して、生徒を対象にした『出前授業』と教員を対象にした『出前研修』を行いました。
『出前授業』とは、こころの健康について、ストレスを題材にして生徒に直接YESnetスタッフが授業をするというものです。生徒一人一人がこころの健康についての理解を深め、自分自身でこころの不調に気づいてもらえるように、こころの不調に気づいたら先生に相談してもらうように、ということを伝えています。
『出前研修』は、学校の先生に対しての研修です。精神疾患についてや学齢期のこころの不調などについて少し専門的に理解を深めてもらうための内容で、これもYESnetスタッフが実施します。

 

生徒自身が、先生が、学校の中で表現されるこころの不調に気づけるようにという狙いをもって『出前授業』と『出前研修』を実施しています。
それぞれ実施の際にはYESnetの相談窓口も忘れずに広報します。啓発活動と相談支援は二つセットであったほうがいいです。啓発活動だけしても、その後相談する場所がなければ、せっかくの気づきも支援や連携に繋がらないからです。YESnetでは教育現場からの相談をより集めやすくするために、教育委員会に相談窓口を設置し、さらに、保健所でも年に3回精神科医による「YESnet思春期相談」という医師との直接の相談の機会も作っています。

 

「事例検討会」…お互いをよく理解し目的をひとつに協働

 

他にYESnetが行っていることとして、『事例検討会』があります。
学校の生徒のことで先生が支援に困った場合、より良い支援を考えたい場合にYESnetスタッフと学校の先生とで、生徒の支援についてみんなで考える会を開きます。そこで、こころの不調状態と思われる生徒さんの今の状態がどういう状態かを、教育、保健、医療、福祉の様々な視点で見立て、それぞれで支援を考えていきます。その中で、医療機関とどのように連携していけばよいのかや、現状なにを目的に支援していくのか、など具体的に考えます。
連携の課題である『お互いのことをよく理解できているか』もそうですし、『目的を一つに協働できるか』というところを解決するための取り組みにもなっていると思います。

 

全校への働きかけ

 

YESnetでは、他にも啓発のために市内全小中学校にオリジナルポスターの掲示、ぷるすあるはの絵本の配布なども行いました。ケース支援を行った1校と協力体制を作るということだけではなく、広く市内の全校に啓発など働きかけることができるのは、教育委員会と協力できたからこそだと思います。
また、YESnetができて、学校から生徒さんの受診相談をされることも増えました。

受診前の段階で医療も一緒になって協議することで、医療受診は必要ではなく、学校でこのまま支援していけばよいのではないか、という結論に至る相談も多くありました。

 

むやみやたらに精神科受診をさせなくて済むということも、YESnetができて良かった点ではないかと思っています。

 

2.みなさんの地域で、まずできることから、気づいた人から少しずつ

 

さて、YESnetは連携を促進するための方法として一つの例ですが、皆様の地域でどのようなことができそうでしょうか。ヒントは連携をするにあたっての課題を解決、解消するようなことをすれば、少しずつでも現場は変わるということです。

 

まず大事なこととして、教育と医療はお互いが連携し慣れていない間柄です。初めから上手に連携できるというものではありません。阿吽の呼吸に至るまでには、長い道のりがあり、ちょっとうまくいかなかったとしても全部をあきらめるのではなく、まだまだ連携の途上と思えるような考え方が必要かもしれません。そのうえで、それぞれの地域でできそうなことはないかといくつか考えてみました。

 

組織として少しでも精神科医療との接点を増やしていく

 

医療との相互理解を深めるという点で、教育委員会のお立場であれば、教育委員会のスーパーバイザーとして地域の精神科医を派遣依頼するとか、いじめ、虐待、不登校などの委員会へ派遣依頼するとか、学校医に精神科医を任用するとか、組織として少しでも精神科医療との接点を増やしていくことができないか、と思います。
しかし、精神科医に限らず医師は日常の臨床で非常に忙しい職種であるので、なかなか相談しようにもつかまりにくいです。その時に、その病院にPSW(精神保健福祉士:精神科のソーシャルワーカー)がいれば知り合いになっておくとその調整役をしてもらえるでしょう。医療との調整役としてSSW(スクールソーシャルワーカー)の活用を積極的に行うというのも一つかもしれません。また、精神保健医療福祉との接点を増やすために、自立支援協議会に教育機関から参加することもできるかもしれません。すでにあるネットワークを利用するのです。

 

学校の立場であれば、生徒がもしも医療機関に受診している場合、本人や親に同意を取ったうえで、病院のPSWに相談してもらったり、一緒にケース会議に参加してもらったりするのも良いのではないでしょうか。医療との連携が難しければ、まずは同じ行政職同士、保健所や福祉担当者との連携ということも良いと思います。そこを介して、医療との連携につながることもあるでしょう。まずは発信してみることからです。

 

医療の目的は大きく言って、症状の軽減、除去、健康な状態に近づけることです。仮に不登校の生徒が医療受診したとして、医療が生徒の登校再開を目的に据えるかというのはまた別の問題です。最初は目的が統一されず、戸惑うこともあるかもしれませんが、医療のかかわりのスタンスを理解して、そのうえで、教育機関として何をするかを考えていただくのが良いと思います。
さらに言うと、教育現場では当たり前のことも、医療はほぼ知らないです。何日以上の欠席から不登校と定義するか、適応指導教室とは、個別の教育支援計画とは、などなどです。連携の初めは、そういった異分野同士の言語を共通言語にしていくことから始める必要があります。

 

医療関係者の皆様へ(特にPSWの方へ)お願い

 

さて、ここまで書いて最後は医療関係者の皆様へお願いです(特にPSW:精神保健福祉士の方へ)。
教育機関、学校からケースの相談を受けたとき、医療機関としても今まで受けたことがない相談だったりして戸惑うことかと思います。自分たちの守備範囲でないと決めつけて「それはわかりません、ごめんなさい」と断ってしまったら、せっかくの連携の道のりを切ってしまうことにもなりかねません。

教育機関から医療へ相談するまでには、学校関係者の中で…
担任の先生が、学年主任が、養護教諭が、スクールカウンセラーが、スクールソーシャルワーカーが、教頭先生が、校長先生が…
いろいろ手を尽くしても困ってしまっているときに、最後の手段と思って医療機関に発信をしてきているかもしれません。

 

まずは、時間の許す限り話をきいて、一緒に考える、一緒に悩む、これらを丁寧にすることから、教育と医療との連携は少しずつ進んでいくものと感じています。