精神科で長年働いてきた看護師のチアキが、精神科の受診や治療などの質問に回答するコーナーです。
質問タイトル:医療機関・精神科の主治医の先生との連携のコツを教えてください(教育機関の立場より)
ご質問ありがとうございます。
精神科の先生との連携について、よく聞かれる相談です。医師とひとくくりに言っても、本当にいろんな先生がいますし、病院?クリニック?の診療のスタイルや構成スタッフもさまざまです。
話題のつきないテーマで…。
精神科の診療所に長く働いていましたが…正直に言うと、医療機関の立場からみても、教育機関との連携はムズカシイなと思います。ひとことで言える「コツ」はありません。無理やり連携、連携、と言わないのがまず出発点かもしれません。
医療の立場からの回答をかいてみました。ヒントになることがあれば、取り入れてもらえたらと思います。
医療機関に期待していることを整理
連携したいというのは、具体的にはどういった内容についてですか?
まず、それを整理するところから始めます。
お子さんの「どんなこと」を「だれ」が困っていたり、心配していますか?
(困っているのは、子ども?保護者?学校? 子ども自身の困りごとは?子ども本人はどう思っていますか?)
そして…
医療機関には、どのようなことを期待していますか?
ということもあわせて考えます。紙に書き出してもよいと思います。
学校でやった工夫や子どもの強みも見つける
連携の前提として、お互いの専門性を生かす、ということがあげられると思います。
診察室、病院でみえる子どもの様子は、子どもの一部分。学校での様子は大切な情報です。
よい情報交換ができれば、医療機関にとっても教育機関にとってもプラスになりますし、そして一番の目的の、子どもにとっての安心につながると思います。
情報提供の際には…
困っていること、問題に思えること、うまくいかなかったこと、だけでなく
「やってみて少しでもうまくいったこと」
「落ち着いているときのこと(例外さがし。なにがいいんだろう?)」
「子どもの素敵なところ、強み、関心のあること、好きなこと」
もあわせて伝えてください。
もしも思いつかないならば…まず、全力でそれを見つけることから始めます。まわりの先生とも協力してチームで見つけます。
連携のための基本アイテム→子どもの応援のための基本アイテムです。
困りごとと強みと、半分半分くらいで伝えてもらえると嬉しいです。
(保護者に伝えるときや、保護者へ向ける視点も同じかもしれません)
医療の立場からみて、うーん、うまくいかないなあと思う例には…
「医療でなんとかしてほしい…(丸投げ)」
「対応について全て指示してください」
があります。
医師やクスリは万能ではなくて、できること、難しいことがあります。薬を一回だして何かがすぐに変わるわけでもないです。医療だけで全てを解決できるわけではないです。
最初にあげた医療への期待はどうですか?
期待が大きすぎたり、そもそも医療では難しいことまで期待していないでしょうか。
診断や投薬の希望が、子どもにレッテルを張ることにつながっていないか…強い言葉ですが、これも考えておく必要があります。
「ドクターがこう言ったから、こうする」という連携のスタンスではうまくいかないと思います。
医療につながっていても、教育のなかでの子どものサポートは必須です。
役割分担が明確になっていて、それぞれの専門性を生かせているときが、子どもをささえる環境が作れているのではないかなと思います。
窓口の一本化と日頃のコミュニケーション
受診や治療はデリケートなこと
医療機関では患者さんを診ていて、医療者と患者さんとの関係があるということは尊重していただけたらと思います。
もちろん個人情報を了解なしに伝えることはできません。
いつだれ(どこ)に連絡するか?も大切です。担当ケースワーカーの方がいればケースワーカーへ。病院によって、看護師などの他の職種のこともあり、スムーズな連携につながる窓口になる方を探します。
学校内にも、スクールソーシャルワーカーなど、他機関との連携を担うスタッフが配置されるようになってきましたので、校内でもうまく情報共有・役割分担できるとよいと思います。
学校と病院、それぞれの窓口になる担当が決まっていると連携がスムーズになります。
なにか大問題が起きたときだけでなく、何もない日頃から、ちょっとやりとりができているといいですね。
事前の確認もなく診察に同行するのは、本人家族が了承していても控えた方がよいです。
事前に病院に確認します。
受診のたびに、患者さんや家族へ「主治医の先生はどう言っていますか?」「指示をもらってきてください」を求めすぎないことが大切です。受診、治療はデリケートなことですから、節目のタイミングで確認するくらいの、めりはりがあるとよいように思います。
「こんなに薬が処方されて大丈夫?」といった何気ないひとことやそのときの表情で、内服をためらったりやめてしまったりすることもあります。
なかには…学校が介入することで、受診が途切れてしまうこともあります。
地域の関係機関からみたときの、連携がとりにくい病院、ドクターであっても、その患者さんにとっては信頼している主治医ということもあります。(あまりいろいろ介入されない、連携とか言わない、同じペースで淡々と診察・処方してくれるので、通院を続けている。そういうドクターが相性がよいという方もいらっしゃいます。)
虐待などの子どもの安全安心の心配がある場合は、「要保護児童対策地域協議会(要対協)」にあげることで、守秘義務をこえて情報共有することができます(医療スタッフは、この会の存在自体を知らないことは珍しくないです)。
医療機関と直接でなくても、地域のなかで、キーパーソンとなる人と連携をとることが助けになることもあります。
おわりに
学校で教員みんなでさまざまな工夫をしたけれど、どうにもならなくて医療につないだのに…
何年もかけて少しずつ本人や保護者と関係をつくってやっとやっと受診につながったのに…
一回の診療で途切れてしまった、十分な説明もなかった…はああ…
といった教育機関の先生方の経験談もたくさん聞きます。医療機関が、学校側の苦労や工夫、メッセージが受け取れていない、受け取ろうとしていないこともあると思います。
医療にうまくつながらなかった…というときも、丁寧に関係をつくられたことは必ず次につながります。あまりがっかりせずに、少し長い時間軸でみていただけないでしょうか…医療からのお願いです。
教育と医療がすれちがってしまう、連携のムズカシさを改めて感じますが、子どもファーストになるように、お互いにできることから取り組めたらと思います。
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精神疾患をかかえた親と子ども支援での「教育と医療との連携」について
》【前編】連携における課題
》【後編】YESnet(四日市早期支援ネットワーク)を例に
親&子どものサポートを考える会 精神保健福祉士 牛塲裕治(総合心療センターひなが)
牛塲さんは、三重県四日市市で、若者のこころの健康を支援するための、教育、保健、医療、福祉のネットーワーク事業「YESnet」にかかわっておられます。その先駆的な取り組みと、前提となる連携における課題についてのお話です。
チアキの回答とはまた違う視点で、教育と医療の連携について書かれています。
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チアキ
関西→関東、精神科ひとすじの看護師。
ぷるすあるはの制作担当、絵本ではお話と絵を担当しています。