スクールソーシャルワーカーって?
いじめや不登校、そのほかの学校でのいろいろな困りごとへの対応方法を考えるときに、子ども一人のことや心理面のことだけでは解決しないことがあります。たとえば、ひとり親として忙しく働いているがために、子どもが学校でトラブルになってもなかなか昼間に学校に相談に来られないかもしれません。親が精神障害や知的障害があったりして生活に苦労しているのを見て、子どもが親を支えるために学校を休むことがあるかもしれません。いじめをしている子どもが、親から虐待を受けているかもしれません。
こうした学校での困りごとを抱えている子どもと家族を支えるための専門職が、スクールソーシャルワーカーです。社会福祉士や精神保健福祉士といった「福祉」についての専門資格を持っている人が多いです。この資格を持っている人たちは、いろいろな生活問題に対して、制度やサービス、環境面から支援を行う方法について学んできた専門家です。ですから、スクールソーシャルワーカーは、学校を中心として子どもを取り巻く「環境」に働きかけをします。
スクールソーシャルワーカーはどんな活動をしているの?
子どもを取り巻く「環境」に働きかけるとはどういうことでしょうか?
まずは子ども本人の気持ちを尊重しつつ、家族や友人に協力してもらうことから始めるかもしれません。子どもを支える先生が困っている場合には、先生がどんなふうに子どもや親へ働きかけを行うのかを一緒に考えたりしますし、クラスの雰囲気を変えるのをお手伝いしたりもします。
子どもや親が学校に来られない、というときには先生方と協力しながら家庭訪問も行います。来てもらうのを待っているだけではなく、困っている人のところに出向いていくのも大事な支援活動の一つだからです。
学校外の様々な保健・医療・福祉のサービスが役に立ちそうなら、うまく使えるようにお手伝いしていくこともあります。奨学金制度や、就学援助制度、児童扶養手当制度など、進学を支えるお金に関する制度をわかりやすくご紹介し、手続きをお手伝いすることができます。経済的に困っているときに、食べ物のことや勉強を教えてもらえる場所のことで相談できるボランティア団体を紹介することもできます。外国籍につながるお子さんへの支援を一緒に考えることもあります。障害があっても地域の学校で学びたい!というお子さんと保護者の方のお話を聞き、学校と「合理的な配慮*」について相談していくこともやります。
いろいろな専門機関が関わっている時に、それぞれの支援に隙間が空いてしまったり、方針が少しずれてしまったりして、お子さんもご家族も混乱してしまうこともあります。そのような場合には、支援者同士を調整して家族全体をみんなで支えられるよう会議などでご相談することもあります。
※家庭訪門→家庭訪問
スクールソーシャルワーカーは普段どこにいるの?
平成29年度は全国に2,041人**、配置されている地域は増えてきていますが、まだスクールソーシャルワーカーがいない地域もあります。自治体によってスクールソーシャルワーカーの使い方には大きな違いがあります。
・配置型
特定の中学校や小学校に配置されています。毎週決まった日には必ず学校に来て、クラスの様子を見守ったり、教職員と子どものことについて話し合ったり、家庭訪問に出かけたり、市役所や福祉サービスなどに掛け合ったりしています。割と頻繁に配置された学校に来ているので、子どもたちにとっても身近な存在になりやすいかもしれません。
・派遣型
教育委員会、教育相談センターなどに所属しており、要請があった学校に随時派遣されます。いつも学校に来ているわけではないので、保護者や先生方が「ほんとうに困ってしまった」というときに要請が来ることが多いです。困りごとを抱えている子どもと日常的にかかわっている保護者や教師と一緒に考えながら、市役所やNPOなどのサービスをうまく組み合わせて、困った状況から出口を見つけられるように関わります。お気軽に「こっちに来て手伝って」とお声かけください。
・巡回型
派遣型と配置型の中間的な活動形態です。スクールソーシャルワーカーが担当している学校が3,4校程度ありそれぞれを順番に訪問しています。支援を必要とする子どもが多い学校には2週間に1回1日、割と落ち着いている学校では月に1回半日、というようにそれぞれの学校の状況に応じて訪問回数や時間を調整することもあります。「配置型」ほどは頻繁ではありませんが、それなりの頻度で学校に来ているので、子どもや教職員にも顔を覚えてもらいやすくなり、何かあったときに相談を受けつけやすくなります。
お住いの地域にスクールソーシャルワーカーが派遣されているかどうかは、学校の先生にお聞きいただくか、市町村の教育委員会にご確認ください。相談は無料です。
スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーのちがいは?
スクールカウンセラー(SC)は、児童・生徒本人の心の問題に注目するのに対して、スクールソーシャルワーカー(SSW)は児童・生徒を取り巻く環境に注目して問題の解決を図る専門家と位置付けられています。
・活動拠点と対象
SC :学校内の相談室を拠点としてより密度の濃い相談を行うことが多い
SSW: 学校内の相談室のみならず、ご家庭や役所などで相談したり、1対1の面談だけではなくてほかの機関の職員とも合同で一緒に会議をしたりすることもある
(地域によってはSCが子どもや保護者への直接支援が中心で、SSWは教員や保護者などを通じた間接支援を担当することもある)
・アプローチの仕方、心理検査
SC :心理的な問題に起因する症状を心理療法により改善するのをお手伝い
さまざまな心理発達検査を行う場合がある
SSW:生活上の問題を様々な工夫により解決するのをお手伝い
心理発達検査は行わず、必要がある場合はそれを行える専門家を紹介する
このように、心の問題に注目するスクールカウンセラーと比べて、スクールソーシャルワーカーは暮らしの中での困りごとに注目する分、相談への対応の仕方や支援の方法が幅広くなっています。
どちらも、子どもと家族を応援する専門職です。上手に使ってください。
スクールソーシャルワーカーになるには?
スクールソーシャルワーカーとして働くためには、幅広い福祉制度についての一般的な知識や、子どもや家族のメンタルヘルスに関する基礎的な理解が必要です。そのため、多くの自治体では「社会福祉士」や「精神保健福祉士」の国家資格をもつことを採用条件としています。同時に学校現場に入って働くわけですから、日本の教育行政の仕組みや学校内での役割分担の仕組み等、学校教育についてのある程度の理解も必要です***。
また子ども家族福祉の領域での現場経験や、不登校・ひきこもりの方への支援経験、教育現場での経験のいずれかがあることが望まれます。保護者との面談も大切なお仕事ですので、保護者とのお話を丁寧にお聴きできる実力は必要です。何らかの子どもや家族を支援する活動に参加した経験があると、その分しっかり相手を尊重してお話をお聴きできると思います。
ぜひお住まいの自治体でスクールソーシャルワーカーの公募が出ていたら、積極的に応募なさってください。教育委員会から採用情報が告示されることもありますし、ハローワークの求人を通じて公募がなされることもあります。多くの志ある方が、スクールソーシャルワーカーとして活動いただけますことを願っています。
はづ
*合理的配慮とは、障害者から何らかの助けを求める意思の表明があった場合の、負担になり過ぎない範囲の、社会的障壁を取り除くために必要な便宜のこと(障害者権利条約第2条に定義)。
障害のある児童生徒等に対する教育を小・中学校等で行う場合には、「合理的配慮」として(ア)教員、支援員等の確保(イ)施設・設備の整備(ウ)個別の教育支援計画や個別の指導計画に対応した柔軟な教育課程の編成や教材等の配慮、が考えられる(文部科学省のサイトより)。
**文部科学省が平成 20年度より「スクールソーシャルワーカー活用事業」を開始しました。
最初に記事を公開したH26年が1,186人。予算上は、毎年漸増し、H31年度までの目標として全中学校区(1万人)に配置となっていました。
実績値は、H25年度1008人、H26で1186人、H27 1399、H28が1780。H29が2041人。H30年からは統計の取り方がかわり、「対応されたことのある学校の数」(H30年は、小学校 50.9%・中学校 58.4%))になっています。
》文部科学省における 平成31年度児童虐待防止対策 関連予算要求について
》子供の貧困の状況と子供の貧困対策の実施状況|内閣府
》 子供の貧困対策に関する大綱のポイント(令和元年11月29日閣議決定)資料
***日本ソーシャルワーク教育学校連盟(2017年「日本社会福祉士養成校協会」「日本精神保健福祉士養成校協会」「日本社会福祉教育学校連盟」の三団体が合併して誕生した団体。 全国のソーシャルワーク教育学校—社会福祉士、精神保健福祉士、社会福祉教育を行っている学校-で組織されています)では、これらのスクールソーシャルワーカーとして働くための基礎的な知識を身につけ、スクールソーシャルワークの実習を行える体制を整えた大学等を認定する「スクール(学校)ソーシャルワーク教育課程認定事業」を行っています。社会福祉士や精神保健福祉士の資格をもち、この課程を修了した方は「スクール(学校)ソーシャルワーク教育課程修了証」がもらえます。2019年4月現在で61大学等で開講されています。
関連ページ
》先生のための保健室:精神障がいや発達凸凹のある保護者へのかかわりに生かせる情報と先生方もちょっぴり元気になれる情報のページ