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「絵本の出張読み聞かせ」による地域の子ども支援啓発の取り組み〜広島市要保護児童地域対策協議会より

「絵本の出張読み聞かせ」による地域の子ども支援啓発の取り組み〜広島市要保護児童地域対策協議会より
2021年4月10日 office

「絵本の出張読み聞かせ」による地域の子ども支援啓発の取り組み
〜広島市要保護児童地域対策協議会より

 

要保護児童地域対策協議会(以下、要対協:ようたいきょう)は、福祉・保健・医療・教育などの関係機関で構成され、虐待の心配のある子どもや、支援保護が必要な子どもに関する情報の交換や支援の内容を話し合う協議会です。児童福祉法で規定されており、事務局を市町村が担っています。

 

広島市東区の要対協の事務局を担っている地域支えあい課では、県立広島大学との共同研究「メンタルヘルス問題のある保護者に養育された子どものニーズ把握とその支援」の実践の一環として、絵本の出張読み聞かせの取り組みを2020年度からはじめました。ぷるすあるはの絵本を使った独創的な取り組みの狙いや反響について、コロナ禍での、子どもに関する相談窓口等の様子とあわせて、ソーシャルワーカーの岡崎さんと保健師の久岡さんにお聞きしました。

※取材は、2021年3月下旬、オンラインツールを用いて行いました

 


基本情報

 

広島市東区地域支えあい課

広島市の人口はおよそ120万人。広島市東区は、広島駅周辺から郊外、中山間地区までひろがるエリアにあり、人口約12万人(児童が約2万人)の大きすぎず小さすぎずという区です。
地域支えあい課は、職員3名体制で、区民にとってもっとも身近な「こどもに関する総合相談窓口」業務を行っています。法律的には、福祉事務所に置く「家庭児童相談室」の位置付けで、そして、要対協の事務局機能を担っています。

 

(スライドは こどもぴあ オンラインセミナーin広島 2021.3.6 「『家族のこころの病気を子どもに伝える絵本』読み聞かせ活動についての報告」より)

 

肌感覚でも、統計的にも、メンタルヘルス問題をかかえる保護者世帯の支援が必要

 

ー絵本をつかった啓発の取り組みを行うようになった経緯や狙いなどについて教えてください。

 

ぷるすあるはの絵本を知って最初に読んだときに、ちょうど、精神疾患を抱えているお母さんを子どもがサポートしている家庭へかかわっていました。この絵本が私の中でとても強く印象に残り、いい形で使えないかなと思いました。
要対協の事務局をやってきたなかでは、個別の事例の話はできても、かかわっていない事例の話は流れてしまい、地域特性にあわせた全体的な予防の取り組みが弱いことや、そもそも「要対協」の存在の認知が低いといった課題を感じていました。例えば学校や保育園など、会議に出席する役付の先生は知っていても、子どもに一番近い担任の先生にはあまり知られていません…。
肌感覚でも、統計的にも*、メンタルヘルス問題をかかえる保護者世帯の支援の必要性があるなかで、区、要対協全体の取り組みができないかと絵本の出張読み聞かせを考えました。2020年11月、要対協の参加機関の賛同をえて、組織の活動として実践を始めました。

*区で昨年度対応した事例の約4割、年度をまたいで継続して支援している事例だと7割が、保護者がメンタルヘルス問題をかかえていました

 

 

「人に読み聞かせてもらうのがとてもいい」

 

2021年にはいってから、福祉課の職員向け、公立保育園の園長会と2回実施しました。新聞記事はそのときの様子です。
》親の心の病、絵本で理解 広島市要対協、学校・保育園で読み聞かせ(中国新聞デジタル 2021.2.23)
新年度も小学校から職員研修に呼んでもらっています。精神科の病院で、絵本を買って、待合に置いてくださるところもあらわれました。

 

参加された方からは
「子どもがどんなふうに考えるのかわかった」
「胸にきた」
「自分ができることを考えたい」
といった声があります。

 

この取り組みのメリットは…

・親の病気について子どもにわかりやすく伝えるツールや絵本の存在を大人の人に知ってもらえる
・ちがう立場の方への想像力を高める
・地域の対応力をあげることにつながる
・要対協の認知度を高め連携を強める

と考えています。行政も予算、マンパワーが限られ、個別のケース対応で忙しいなかで、準備がいらず絵本一冊と少しの時間でできるという、続けやすい活動であることもメリットです。

 

実際にやってみて、絵本の存在を知っていた人からも「人に読み聞かせてもらうのがとてもいい。自分で読むのとはちがった入り方をする」という感想もありました。読み聞かせの癒しの効果を感じています。

 

(ポイントをまとめた解説。読み聞かせに説明をそえても、30分でできる活動。パッケージとして工夫されている。)

 

日本ではまだまだ遅れてはいるけれど、病気をかかえながら子育てしていくことが少しずつ当たり前になり、かかわりや支援の分野が進んでいます

 

ー子どもの近いところで絵本を使ってもらっていること、読み聞かせの絵本の良さをいかしていただいていること、とても嬉しいです。
(絵本制作に取り組むようになった経緯はこちらに… 》絵本の構想が生まれたところ─ぷるすあるはについて2 

 

長く精神保健の現場を離れていて、去年、管理職として戻ってきました。
以前、保健師として精神保健の担当をしていた頃は、精神障がいを抱えている方は、結婚しても、子どもをもつことはおすすめしていないような時代でした。それが、病気をかかえながら子育てをしていくことが、少しずつ当たり前になり、かかわりや支援の分野が進んでいること感じています。
欧米諸国ではこういう絵本がたくさんあるときいて、日本ではまだまだ遅れていることも学びました。
うちのメンバーさんの読み聞かせ、上手で…感動するんです。
これまでの活動の枠のなかにおさまらない、新たに開ける活動になるのかなと、嬉しく思っています。

 

かかわりのある精神科ドクターから「患者さんはみるけど、家族、子どもは視野に入りにくい」、ナースからも「本人、配偶者には話すけれど…子どもは病院にこないし…」といった声があります。こういった材料(絵本)があることで、地域の病院に気づいてもらえるきっかけになっていると思います。

 

ー病院に絵本を置いてくださるだけでもありがたいです。病院の待合で絵本に出会って…という声が届いたこともあります。ぷるすあるは、の名前の由来はプラスアルファ。ちょっとした視点、気づき…そんなものをプラスできたらという思いで活動しています。

2冊がセットであるととてもいいですね

 

ー『生きる冒険地図』『ゆるっとこそだて応援ブック』についてお尋ねします。

 

多くの言葉をもっていなかったり、うまく言葉にできなかったり、話をあんまりしたくない、という人…だけど、感じる力はバンバンにあって、こちらの態度や、敵か味方かみたいなものを感じとっている人に、難しい言葉で「○○制度っていうのがあってね」と話しても伝わらないけれど、絵があって、わかる言葉で書いてあるのがとてもいいなと思っています。
苦労や不幸ではなくて冒険だ、というのも先に光があるかんじがして。

 

ーポジティブだけでは生きていけないけど、生きることそのものが冒険、というタイトルにしました。毎日がピンチの連続。自分自分が子どもの頃にしていた工夫、精神科の診療所で子どものたちと話し合ってきた工夫。そういうチアキの脳ミソのなかにあるものを盛りこんだ本です。

 

三つ目の子(『生きる冒険地図』の主人公ミル)は、右から見るのと、左から見るのと、見る角度でみえる表情がちがいます。ちゃんと顔がそれぞれ見えるから、すごいなあと思います。

 

ーチアキの描く子どもの表情。見る人のそのときの気持ちで、子どもの表情がちがって見えるというのもよく言われます。

 

 

(子どもだって裏腹な気持ちがある。あの相談員さんには話すけど、この相談員さんには話さない、知られたくないなど。「使い分けてる」の視点ではなく「生き抜く工夫」の視点で大切にしたい。三つ目の子は、絵本を作るずっと前から、落書きで描き続けているモチーフ)

 

『ゆるっとこそだて応援ブック』は、病気をおもちの方がみて、これで、子育てを助けてもらおうと思ってもらったら、すごくいいですよね。2冊がセットであるといいと思います。

 

ーありがとうございます。精神疾患をかかえながらの子育てを応援。直接このテーマを取り上げた本がこれまで日本になかったので、その点も意識しました。

 

その年齢年齢での育ちや経験。コロナ禍の2年間のこの先の影響は心配です…

 

ー少し話題がかわります。コロナ禍の子育て世帯への影響について教えてください。

 

乳幼児健診は、集団健診ができずに、医療機関での個別健診になっていました。
家庭の密室から、ちょっとでも健診の場にでてきてもらって、悩みを聞いたりすることが1年間できていなかったので、これからその影響がどうでてくるだろうと心配しています。集団健診には、診察室のなかだけではわからない、集団健診ならではの良さがあります。保健師が、親子が一緒にいるところをみて関係性や発達にも気づけたり、待合の時間を使って遊んでもらったり、親御さんたちも、ちょっと相談してみようかなと話ができたり。
第3波で、11月の終わりから1月いっぱいくらいが一番大変で…。保健センターの保健師はコロナ対応をしないといけないー現場の最前線です。それをやりながらの地域の親子のフォローは、コロナの波がわーときているときは平時と同じようには無理なので、保健師たちもジレンマを抱えながらの状況があります。

 

ようやく、一歳半健診、三歳児健診を再開したところです。ふれあい遊びの時間を設けない、人数を減らして行うなどの制約はありながら。
子育てサークルや、常設の子育てオープンスペースもなかなかできませんでした。半年以上しまっていて、ようやく今、予約制で再開しています。本当は、予約制ではなく、子育てのしんどさを抱えている方がふらっと来れる場であるとよいのですが…。zoomを使ったオンライン子育て相談も行っていますが、関心が高い人しか参加できない。しんどさがある人が参加できなくなっていて、これからの影響を心配しています。

 

相談部門の方では、夏休み開けから相談が増えた印象です。
学校に馴染めなくて、というお子さんだけでなく、もともと基本的な生活リズムをつけることや学校に送り出す力が弱いような家庭で、ゲームの時間がふえて学校にいけないといった相談がふえています。
年度末で統計をとっているところですが、例年と比べて、相談ケースの数はあまり変わらないけど、電話相談対応の割合がふえています。家庭訪問、学校訪問・学校での会議は減りました。コロナ禍で当然といえばそうなのですが…。関係機関でのケース会議もできていない。役所や学校、保育園などは、オンライン化が遅く、結局電話でのやりとりになっています。

 

これは長年療育をやってこられた方もおっしゃっていましたが、マスク生活の心配もあります。
赤ちゃんは、大人の笑顔をみて笑うことを覚えたり、感情のやりとりを学んできますが、みんながマスクをしています。マスクをして笑いかけても赤ちゃんが笑わないんです。心配の強い親御さんは家のなかでもずっとマスクをしています。もともと相手の表情、感情の読み取りが苦手なお子さんもいますし、表情をつかってする人と人とのコミュニケーションができていないことは心配です。
その年齢年齢での生活、育ちや経験があると思いますが、来年度もまだマスク生活で、2年間マスク生活。行動制限も感染状況でかわりながらつづきます。緊急を要しない人とは会えない生活。人は、人とのかかわりでしか育たない部分があると思いますが、この先の長期的な影響など心配です。どうなんでしょう…。

いろんな事情の子どもが身近にいるかもとわかって、自分ができることがないかを考えてもらえるように

 

ーおわりに。こんなアイテムがあるといいなというアイデアや、このコラムでのメッセージがあれば教えてください。

 

ここは、問題が大きくなってからつながってくる場所です。ボクらが直接虐待を見つけるわけではありません。それは、学校、保育園、塾など、子どもに直接かかわる人たちです。その方の感度やセンスによって、そのあとの流れが全然ちがいます。うまくつないでくださる方もいれば、気づけなかったり、残念ながら問題行動と問題だけを見て対応されることもあります。
子どもが信頼できる大人にいかに出会えるか。大人が手を差し伸べても、そのときにはその子どもは言えないこともたくさんあるけど、そのタイミングでなくても、大人が声をかけてくれたことは子どもに残っていたりします。

 

ここまできていないケース…だれかいい大人に出会って、それは親戚のおばちゃんかもしれません…それで支えられているケースが地域にはたくさんあります。仕事として子どもたちにかかわる方々が、いろんな事情の子どもが身近にひょっとしたらいますよ、ということがわかって、ただ専門家へパスではなくて自分ができることがないかを考えてもらえるようにしたいです。
子どもに接する方には、そういう目線が広く育つといいなと思いますし、そのためにできることを考えています。

 

これまで、当事者の方を中心に声かけをしてきたけれど、家族全体への声かけを、家族全体をみていくということを…新年度異動になるかもしれませんがどこの部署にいっても、がんばっていきたいと思います。

 

座談会を終えて

 

絵本があることで、(親が病気を抱えている)子どもたちの存在に注目してくれている、そこを取り上げて紹介してくださっているのは、子どもたちにとっての応援団が増えて、とても嬉しい報告でした。
「出張読み聞かせパッケージ」は、初めてお聞きした試みで、なるほどー絵本にそういう使い方があるのかと可能性を感じました。
解説の一枚など工夫されていて、30分くらいのパッケージになっていたら、誰でも出張していける良さがありますね。役所は異動があるけれど、組織としての取り組みなら引き継いでいけます。
この先の取り組みや地域の変化にも注目、応援していきたいと思います。

 

年度末のお忙しい時期に対応くださりありがとうございました。

 

参考資料・リンクなど

 

》市町村児童家庭相談援助指針について|厚生労働省

第4章 要保護児童対策地域協議会について
第5章では関係機関との連携についての記載もあります。

》親が精神疾患をかかえている子どものための絵本(一覧)

ぷるすあるはの絵本以外でも、ここ数年、絵本の出版がつづいています。欧米のように、たくさんの絵本があって、子どもや家族にあわせて選べる状況へ少しずつですが近づいています。

精神疾患をかかえながらの子育てについての支援者向け資料

》看護職のためのケアガイド 『統合失調症を治療しながら子どもを希望される方の看護支援のために』

看護師・保健師・助産師が共通して活用できるガイドです。妊娠する前〜妊娠ー出産〜子育て期を通して、当事者と支援者がそれぞれの工夫を共有し、切れ目のない支援につながるように作成されています。

統合失調症を持つ人への子育て支援研究班(代表:澤田いずみさん 札幌医科大学)

》保健医療従事者のための知的障害のある 妊産婦さんへの対応ハンドブック

科学研究費助成事業「知的障がいに配慮した周産期保健医療現場における支援の検討」(研究代表者:杉浦絹子さん)

書籍

『メンタルヘルス問題のある親の子育てと暮らしへの支援 先駆的支援活動例にみるそのまなざしと機能』

松宮 透髙 (監修, 編集), 黒田 公美 (監修), 福村出版

児童福祉と精神保健医療福祉….両面から溝に橋をかけるような視点で構成されています。生活支援、世帯支援に焦点。多彩な支援の取り組みが具体的に例示されていて、読みやすい一冊です。

「子ども虐待防止オレンジリボン運動 新型コロナウイルス感染症対策下における子ども虐待防止に資する活動への助成」を受けて行っています。

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