専門の支援機関がほとんどない、ネットでもまとまった情報がほとんどでてこない… 罪を犯した人(加害者)のご家族の支援について。メディアなどで事件を目にする度に、ご家族の方は、子どもは、サポートされているだろうか…?と思うことがあります。犯罪、事件や事故、いつどこで出会うかわかりません。いざというときのヒントになれば幸いです。
目次
1.はじめに …ご家族の方へ、まわりの方へ、相談を受けた方へ
2.家族の6つのニーズと必要な支援
3.子どもたちの支援
4.相談できるところの情報
定義と家族の現状
文献
1.はじめに…ご家族の方へ、まわりの方へ、相談を受けた支援者の方へ
ご家族の方へ
突然の出来事にショックを受け、信じられない、信じたくない気持ちになるのは当たり前のことです。これから家族はどうなるのか、生活がどうなってしまうのか、不安でいっぱいのことでしょう。
罪を犯した本人(以下:本人)に強い怒りを感じるのは当たり前のことです。また、責任を感じて、ご自分をひどく責めてしまうこともあるかもしれません。
しかしながら、あなたは犯罪者ではありません。まして子どもには親の犯罪の責任は一切ありません。あなたが日常生活を取り戻すことは、子どもの健康な成長を育む上で何よりも重要なことです。日常生活を取り戻すために、専門家に相談をすることは、多くの場合とても役に立ちます。
法律の専門家である弁護士は、家族の置かれた状況をわかりやすく説明してくれたり、今、家族ができること、残された家族を守るために必要なことについてアドバイスをくれます。相談だけであれば無料の場合もあります。依頼するかどうかは相談後に決定すればよいのです。
ご自分の気持ちの整理、子どもへの対応、本人への対応など、医療や心理、福祉、学校の先生など、手助けをしてくれる人をみつけましょう。また、家族会で同じ境遇にある当事者同士で思いを語ることは、孤独感や孤立感を和らげてくれ、立ち上がる元気がわいてきます。どれほど辛く、困難な状況であっても、人には前に進む力が備わっていて、必ず出口があることを知っておいてください。
まわりの方へ
突然のことにさぞかしショックを受けたことでしょう。大切な人を助けてあげられなかったことで自分を責めたり、相手に裏切られたような思いでいっぱいかもしれません。
まずは自分の気持ちに気がつくことが大切です。信頼できる誰かに話を聞いてもらうことは、冷静さを取り戻すのに役に立ちます。人の立ち直りには本人の努力だけでなく、周囲の力も必要です。しかしながら、がんばりすぎると自分が力尽きてしまったり、相手やまわりの人にイライラをぶつけてしまうことがあります。息の長いサポーターになるためにも、ご自分の生活や体調、気持ちも大切にしましょう。
相談を受けた支援者の方へ
支援者にとって経験の少ない問題の対応に戸惑うのは無理もありません。気持ちを受けとめ、問題の整理をしながらアセスメントを行い、必要な支援を提供するのは普段の相談と何も変わりません。ただし、司法手続の状況に応じて、電話や面接相談の時間や頻度など、柔軟に対応することが必要になることがあります。
直後のご家族はひどく混乱した状態にあるため、物事の理解や判断、決定することが難しくなります。職場や学校にどう説明するか、子どもに加害親の状況をどう説明するか、だれに何を相談するか、など、優先順位をつけ、何をどうするか、といった現実問題に対して、対応を具体的に話し合うことは、ご家族が落ち着きを取り戻す上でとても役に立ちます。
犯罪の責任は本人にあります。まして子どもには親の犯罪の責任は一切ありません。そのことを共有した上で、犯罪に至った背景や家族の問題を整理し、子どもの健やかな育ちのために、必要に応じて本人との関係の見直しを促すことも重要です。
2.家族のニーズと必要な支援
家族の抱える課題には、大きくは経済的、心理社会的、法的な問題があげられます。
本人との関係性、事件内容、家族の性別、年齢、直接的な被害者がいるかどうか、刑期や処遇[しょぐう]によって、家族に必要な支援のニーズはかわってきます。深谷(2015)は以下の6つのニーズをあげています。
①司法福祉的ニーズ
犯罪によって刑事手続が開始されると、警察や弁護人による説明を受けますが、刑事手続の流れや弁護士の探し方といった具体的な情報を必要とします。事件が発覚し、刑が確定するまでは、見通しを得ていくことによって不安が軽減されます。
②経済的ニーズ
主に生計を立てている人の逮捕[たいほ]・こうりゅうによって一時的に収入がとだえることもあります。実刑判決で刑務所に収容されれば、収入が長期にわたってとだえ、職を失うこともあります。また、取り調べや裁判に出るために仕事を休む必要があります。周囲に事件のことが知られれば、本人はもちろん家族が仕事を続けることができなくなることもあります。さらに、被害者への弁償[べんしょう]や弁護士費用、日常の生活以外の支出が発生します。
③就労ニーズ
家族が新たに就労する必要性が生じ、被害弁償のためにさらに収入を必要とすることがあります。
雇用主に事件のことが知られて、それとなく退職をすすめられることがあります。雇用主との調整や、不当な解雇[かいこ]にならないような権利擁護[ようご](アドボケイト)も必要になります。
④居住ニーズ
事件の内容や経済的理由、地域性によっては家族が転居を余儀[よぎ]なくされることがあります。マスコミが自宅に押しかけることで、近隣への迷惑をさけたり、近くに住む被害者や近隣住民の心情への配慮をしたり、子どもへの影響をさけるために他の地域に転居することもあります。
⑤育児・教育ニーズ
親の逮捕や家宅捜索[かたくそうさく]、勾留、服役が子どもに与える影響は、それまでの親子関係や、父親と母親のどちらが法に触れる行為を行ったか、事件内容、判決内容等によってことなります。一般的に、加害者の家族の子どもは、さまざまな心理的問題を抱え、攻撃的言動や不登校などの問題をあらわしやすくなると言われています。
⑥心理的ニーズ
本人との親族関係…子どもか、配偶者か、親かによってもちがいます。罪悪感や裏切られ感、喪失感、抑うつ、いかり、不安、孤立感など、強い負の感情を抱えることになります。しかし、前に書いたように、生活上の問題が解決すると、心理的な落ち着きを取り戻すことも少なくありません。家族は、罪悪感や置かれている境遇を恥じる気持ちから、だれかに相談し、必要な支援を求めることが難しいです。心身の健康や家族の再生のためにも、支援を求めることは大切です。
3.子どもたちの支援
主な養育者が逮捕やこうりゅうされれば、ただちに養育の問題が生じます。法律的には親権や監護権の問題が発生します。(監護権[かんごけん]:親権の一部。子どもの近くにいて、子どもの世話や教育をする親の権利義務)
親の勾留、受刑によって子どもは別離[べつり]を経験し、両親の離婚によって家族のありかたそのものが変化することもあります。転居や転校が加われば、子どもを取りまく生活環境は大きく変化することになります。
したがって、子どもの生活や家族の変化に対する配慮やサポートが必要です。
子どもに本人の状況や犯行内容について、何をどこまで告知するかの判断は難しいことです。
かくし通そうとしても、ニュースや周囲の言葉によって、予期せぬ形で子どもに知られるところになることもあります。家族の大事な問題を自分だけが知らされない、というのは子どもにとって辛いものです。うわさを介した不正確な情報が伝わることは望ましくありません。子どもはたいがい、家族に何かよくないことが起きていることを察知しています。自分のまわりで起きていることについて何も知らされないことは、子どもにとってさらなる不安につながります。
とはいえ、加害者ではない親は事件の発覚、逮捕、勾留、裁判、刑罰といった一連の出来事に対する衝撃を受けており、子どもに親の犯行や状況を説明する精神的な負担は計り知れません。したがって養育者が落ち着きを取り戻せるように、親に対する支援やケアは不可欠です。
逮捕・勾留や起訴(裁判が開かれることが決まる)、服役、転居や転校といった環境が大きく変化するタイミングで、子どもの発達段階をふまえて、本人の置かれている状況や決断に至った理由を簡単に説明することが望ましいでしょう。だれがどのタイミングで、どのように告知をするかは、アフターケアを含めて考えることが必要になります。
配偶者や両親は、事件による直接的な影響を受けることから、逮捕された本人に対する怒りや憎しみが収まらず、子どもにとって大好きな存在である本人のイメージを、他の家族が否定してしまうことがしばしばあります。
また、残された家族は、逮捕された親のように育って欲しくない、という思いから、子どもが何か悪いことをするたびに、「◯◯のようになる」などと、親を否定する言葉を用いることによって、子どもの気持ちを深く傷つけている場合があります。
こうした問題の対応として、子どものケアと同時に、大人である家族に対してのケアが不可欠です。
4.相談できるところの情報
加害者家族を支援する専門団体
・World Open Heart http://www.worldopenheart.com/index2.html
》犯罪加害者家族の孤立を防ぐために 阿部恭子 / 加害者家族支援
(SYNODOS ,2017.11.15 Wed)
・特定非営利活動法人スキマサポートセンター https://sukima-support.red/
一般的な相談支援
・医療機関
・精神保健福祉センター、保健所や保健センター
・少年センター(非行や少年犯罪)
・児童相談所や教育相談センター
・スクールカウンセラー
法的な相談
・法テラス
サイト
弁護士ドットコム(法律相談に弁護士が答えるオンライン法律相談サービス):「犯罪加害者家族」で検索すると、これまでに寄せられたさまざまな法律相談が掲載されます。類似の悩みが見つかるかもしれません。
※東北弁護士会連合会では、2016年7月1日付で「犯罪加害者家族に対する支援を求める決議」を発表しています。ウェブサイトで見ることができます。このように支援の必要性が近年さけばれています。
依存症などの治療や支援に関わる施設や団体
・DARC(薬物依存)http://www.yakkaren.com/zenkoku.html
・アミティ(病的窃盗・クレプトマニア)http://www.yakkaren.com/zenkoku.html
・性障害専門医療センターSOMEC(性犯罪)http://www.somec.org/index.html
・NPOヒューマニティ(ストーカー)http://www.npo-humanity.org/
*特定の依存症や依存症外来で検索をすると、治療機関や自助グループ、家族会を見つけることができます。
交通事故の被害者・加害者向けのガイド
その他
・セカンドチャンス(少年院出院者の自助グループ)
・あめあがりの会(「非行」と向き合う親の会)
*犯罪の数だけ加害者家族が存在します。生きづらさを抱えたご家族がさらに苦しみ、孤立化させないために、私たちひとりひとりに何ができるか考え続けていくことが大切です。
(臨床心理士 るか)
定義と家族の現状
定義… 加害者家族とは、事件・事故を起こした加害者として、責任を問われている側の親族をいう。
加害行為は、犯罪のみならず不法行為も含む。自ら犯罪や不法行為を行った行為者ではないが、行為者と親族または親密な関係にあったという事実から、行為者同様に非難や差別にさらされている人々である(阿部、2015)。法律で禁じられ、刑罰が科せられる行為を犯罪と言い、殺人や強盗、暴行・傷害、性犯罪(強姦、強制わいせつなど)、交通事故(人身事故、交通死亡事故、飲酒運転)、財産犯罪(詐欺、窃盗、横領など)、薬物犯罪(覚醒剤や大麻の使用や所持、売買)などが挙げられる。不法行為は、故意・過失による違法行為によって他人の権利・利益を侵害する行為をさす。犯罪に該当するのはその一部である。
多くの加害者家族にとって、犯罪の事実の発覚、逮捕[たいほ]や勾留[こうりゅう]といった出来事は突然起こるものであり、その衝撃は大きいです。捜査[そうさ]が開始されれば、家宅捜索に応じ、参考人として呼ばれ、場合によっては共犯者として家族も捜査対象になることもあり、家族は嫌が応もなく事件に巻き込まれることになります。
家族の現状
多くの家族にとって、犯罪の事実の発覚、逮捕[たいほ]や勾留[こうりゅう]といった出来事は突然起こるもので、その衝撃[しょうげき]はとても大きなものです。捜査[そうさ]が開始されれば、家宅捜索[かたくそうさく]に応じ、参考人として呼ばれ、場合によっては共犯者として家族も捜査対象になることもあり、家族は、嫌が応もなく事件に巻き込まれることになります。
2016年の刑法犯の認知件数は1,762,912件。死別などで身寄りのない、関係悪化に伴い家族や親族とは断絶している人もいるでしょうが、家族を二親等までに限ったとしても、家族は相当な数にのぼる計算になります。
家族の直面する困難は、経済的、心理社会的、法的問題など多岐[たき]にわたっているにもかかわらず、日本において家族を支援する専門の機関はほとんど存在しません。周囲からは犯罪の原因としての家族の責任を追及、非難を受けやすく、また、犯罪を防げなかったことへの自責の念、被害者の存在する犯罪であれば被害者に対する申し訳なさなどから、支援を求めにくいのが現状です。
重大事件であればマスコミで大々的に報じられ、本人だけでなく家族もまた世間にさらされることになります。日本における家族に対する視点は、もっぱら原因としての家族や、犯罪抑止要因としての家族でした(深谷、2015)。
殺人事件を起こした人の家族の中には、メディアスクラム(加熱した報道)や周囲の人々からの差別や非難、被害弁償の重圧から自死に至るケースすらあります。1988年の連続幼女殺害事件の父親、秋葉原無差別殺人事件の犯人の弟、佐世保高校生殺人事件の父親が自死したことなどは記憶に新しいと思います。和歌山カレー事件では、子どもが両親が連行される場面に居合わせ、逮捕後に生活が一変したこと、殺人犯あるいは死刑囚の子どもとして壮絶ないじめを体験したことを告白しています(2017年5月30日産経新聞)。
日本における殺人事件は例年年間1,000件前後で推移していますが、その半数は親族間によるものです。したがって、親族間の殺人では、加害者家族はまた被害者家族であると言うことができます。「僕の父は母を殺した」の著者である大山寛人氏は、母親を殺害した父親に死刑判決が下された体験をもとに、複雑な心境を著書に表しています。
マスコミで報道されるような重大事件ではなくても、逮捕・連行される場面が周囲の人に目撃されれば、事件が家族の学校や職場、近隣の人に知られるところになるなど、家族はとても辛い思いをすることがあります。
文献
引用文献
・阿部恭子(2015).加害者家族の現状と支援に向けて.阿部恭子編著、草場裕之監修 加害者家族支援の理論と実践 現代人文社 Pp.11-24
・深谷裕(2015.ソーシャルワーク理論からのアプローチ.阿部恭子編著、草場裕之監修 加害者家族支援の理論と実践 現代人文社 Pp.54-68
参考文献
・加害者家族支援の理論と実践-家族の回復と加害者の更生に向けて-阿部恭子編著、草場裕之監修 現代人文社 2015
・加害者家族の子どもたちの支援2014年度報告書 NPO法人World open Heart 2015年3月