10 マイペースを「個と環境[かんきょう]の相互作用」の視点から考えてみる

前回システマを習い始めたというお話をしたと思うのですが、だいたい週1回くらいのペースで今も続けています。割と自分に合っている感じがしていて、なんというか今まで自分に足りてなかったところに取り組んでいる気がします。

では、いったい何が足りてなかったのかというと「痛みや恐怖[きょうふ]と向き合う」ということなのではないかと思いました。今までマインドフルネスやリラクゼーションなどに取り組んできたのですが、その目的が痛みや恐怖などをなるべく早く取り去ろうという感覚で取り組んできた気がします。

それが、システマではむしろ痛みや恐怖と正面から向き合い、それを呼吸などによって和らげたり、そもそも痛みをよく感じきるという形で取り組んでいます。で、そのように向き合っていると自然となくなっていくという感覚があって、とても不思議だなと感じています。

そしてシステマの話から始めたのは、今回のテーマであるマイペースを「個と環境[かんきょう]の相互[そうご]作用」という視点から考える際[さい]に、この体験がなんというかフィットした感じがあったからです。

「個と環境の相互作用」という視点は「社会モデル」と呼ばれる概念[がいねん]の中で使われることが多く、僕は発達支援[しえん]の現場に関わる際にこの言葉と出会いました。

どういう考え方かというと、例えば車いすを使われている方がいて、上の方に行きたいのだけど、階段しかその場にはなかったとします。その場合「車いすユーザー」という個と「階段」という環境の相互作用の中で障害[しょうがい]が生じていると考えます。

ただ、これが「階段」ではなく「スロープ」だった場合はどうでしょうか?スロープなら車いすユーザーの方でもスムーズに上に行くことができるので、その場合は障害[しょうがい]がない状態であると考えることができます。このように「社会モデル」では障害は人でなく社会の側にあるととらえ、その際[さい]に個と環境の相互作用の中で障害が生じると考えています。

それで、この考え方を「マイペース」に置き換えるとどうでしょうか?
ある人がマイペースに過ごしたいと思った際、その人のマイペースな状態が維持[いじ]できるかどうかは環境によって左右されます。想像すればわかるのですが、家庭でも、学校でも、職場でも、意外とマイペースに過ごせる時間は少なく、いつも周りのさまざまな出来事で自分のペースが乱されるということはよくあると思います。

ただ、環境が変わればまた自分のペースを取り戻すことができるので、そのために環境を調整するという作業が必要となります。そして環境を調整する時には一度「自分のペースを乱すもの」と向き合う必要があります。

実は僕もよくわかっていなかったのですが、自分のペースを乱すものが自分の苦手としていることだったり、それこそ痛みや恐怖を与えるものの場合、あまりそれらを見ないで環境を調整しようとしてしまうことがあります。そして、その場合はだいたいが、自分のペースを乱すものを「さける」という行動をとりがちになります。

この「さける」という行動は短期的には良い結果をもたらしやすいのですが、長期的には上手くいかないことがけっこうあります。さけ続けようとするとその姿勢自体が自分のマイペースを狭めて、不自由にしてしまうからです。

ちょっとわかりにくいかもしれないので例を挙げると、例えば犬が苦手な人がいて、自宅から駅まで向かう途中に犬を飼っているお家があってその前を通るのがきらということがあります。その場合、ちょっと遠回りになるけど別ルートで駅まで通うというのが「避ける」という対処方法です。

別ルートで行けば安心なので、それだけなら特に問題ないのですが、例えば犬の散歩をしている人と出会わないように出かける時間帯を気にしたり、別ルートのお家でも犬を飼い始めたりなどしたら、徐々[じょじょ]に自分の行動できる範囲が狭まっていき、マイペースがどんどん疎外[そがい]されていきます。

では、このような時にどうしたらよいのかというと、まずは「犬のどのようなところが怖いのか?」「本当にお家で飼われている犬は危険なのか?」ということを一度落ち着いて考えてみることで、もしかしたら自分が考えるよりも危険が少なかったり、もっと別の対処法(例えば道の端を歩いていれば大丈夫とか、ちゃんとくさりにつながれているところを確認したら安心できるとか、飼い主さんに時間帯によって室内で飼うようお願いするとか)を思いつくかもしれません。

このように環境を調整していく際[さい]には、その前によく環境を理解するということがポイントになるのですが、その際にははじめの方に書いた「向き合う」という姿勢が大事になってきます。

僕が普段カウンセリングなどではこの「向き合う」ことのお手伝いをしているのですが、なかなか大変な作業だといつも感じています。マイペースも自分のペースばかりに気を取られていると、そもそも自分のペースを乱すものがなんであるかとか、それらがどのように調整できるのかということに気づきにくくなったりするので、それらをバランスよくとらえるということができるとよいなと思っています。

おがてぃの勝手にコラム「マイペースに生きる」

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