毎月1回 ”いつ来てもいつ帰ってもいい” 親子参加のプログラム
―子育て支援に長い間、力を入れて、先駆者的に取り組んでこられたと思います。まず、活動について教えてください
(石川さん)
「母子のプログラム(子どもプログラム)」が毎月1回行われています。親子で参加する形で、フリッカ(フリッカ・ビーウーマン:ダルク女性ハウスの通所施設)に集まっています。
お母さんだけだと、「ママクローズドミーティング*(ママグループ)」が毎月1回行われています。
そのほかに、子どもたちの発達障害のことの勉強会が年に2回。発達障害に限らず、子どもの困りごと、子育ての困りごとに、小児科医の熊谷晋一郎先生に相談にのってもらっています。
また、スクールソーシャルワーカーのいるみさんにお願いして、年に1回、学校のことで困っていることについての相談会を行っています。
母子のプログラムは一緒に住んでいる方が対象ですが、離れて暮らしている人たちもたくさんいます。施設にいるお子さんだったら、手紙の文を一緒に考えたり、施設に会いに行くのに付き添ったり、児童相談所の人と話をしたり。一緒に住むようになった後のお手伝いもしています。
*クローズドミーティング:当事者のみが参加するミーティング。
自分の親だけでなくほかの大人の目があるなかで
母子のプログラムは、コロナ以前は、フリッカで、ご飯を食べて一緒に時間を過ごしていました。
時間は11時30分から16時まで開けていて、「いつ来ても、いつ帰ってもいいよ」としていました。待ち合わせをすることは、なかなか難しいので、この時間の間に来てね、と。ご飯はこちらで準備したり、一緒に作ったりしていました。
子どもたちにとって(自分の親だけでなく)ほかの大人の目があるなかで、みんなでわいわいしています。ほとんどが母子家庭なので、家のなかでは、お母さんと子どもだけになります。ここでは、他のお母さんからほめてもらったり、ほかの人も一緒にみてくれます。助成金が入ってプログラムができるときには、キャンプや海、雪遊びに出かけることもあります。母子で車もなくて、どこかに行くのも難しいので…。
荒川区の大学のこどもと一緒に遊ぶサークルとつながりができ、ボランティアに何人も入って、キャンプを企画してもらっています。
―だいたい何組くらいが参加されていますか? お子さんの年代はどうでしょうか?
人数は、5-6組くらいです。
あまり早い段階ではなく、(ダルク女性ハウスの)利用が長くなって、ちゃんとかかわれるようになってから、参加してもらっています。
子どもは小学生年代が多いです。小さいときから来ていても、小5,6年くらいになるとほとんど来なくなります。赤ちゃんの頃からだと10年くらいかかわる子もいます。なかには、なにかしらの問題や障がいを抱えていたり、特別支援学校や学級に通っていたりする子もいます。
話し合いながらすごく慎重にやっています
―参加しているお子さんたちは、ここが薬物依存症のリハビリ施設だとどれくらい知って来ているのでしょうか?
(石川さん)
子どもたちにはあまり話していないですね。
一緒に住んでいると、お母さんが大変そうなのはたぶんわかっています。過去に薬を使いながら子育てをしていたお母さんもいますので。
お母さんが安心して通っている場所だということはわかっています。ここに来たがるし、すごく興味をもって来ます。
張り紙などにも薬物依存症と書いてあるので、中学生くらいになるとわかっていると思います。
「ここは仕事場」と伝えて通っているお母さんもいます。
―子どもたちから質問されることはありますか? 精神科の診療所で働いていたとき、親の病名をきいてきた子はいなかったけど、「いつ治るん?」などと急に質問されることはありました。
(佐藤さん)
施設にいるお子さんで、どうして施設に入ったのかを知りたくなる時期があります。お母さんと2人のときには聞けるかんじではないので、話し合いの場面で急に聞いてきたり、施設の心理の人や児相の人に聞いたり。
小学校高学年くらいには、やっぱり知りたいとなるかんじはあって、「どうだったら受け止めてもらえるかな」「その子の状況にあわせてこれくらいの説明をしよう」と話し合っています。
何回も刑務所に行っているお母さんのことをどう子どもに伝えていこうかと、何度も関係者でカンファレンスをした例もあります。お母さんは、秘密を抱えているから子どもとのコミュニケーションがうまくいかないと思っていたり、後からバレるのがいやなので全部話してすっきりしたいと思っているけれど、子どもはそれを受け止めることができるのか…。すごく慎重にやっています。
(石川さん)
なんとなくわかっているけど、聞かない子もいます。
どう説明しようか、どこまで説明しようか、というのはいつもでている話題です。
―こんなふうに伝えてみてよかったかな、といった例があったら教えてください。
(佐藤さん)
一番多いのは…これがいいのかわからないけど…仮に違法薬物を使っていたとしてもそれは言わないで、うつ病みたいな説明をして、うつ病でいろいろとお薬を飲んでいるうちに、その処方薬の使い方がおかしくなって、(入寮をしているお母さんだったら)今、入寮してお薬や体の調整、生活の支援を受けている、というかんじで説明することが多いです。
(石川さん)
みんな見た目は元気なので、どこが病気なのか、施設にいる子はなんで一緒に住めないのか、お母さんの状態をみてなかなか理解ができない、納得できないお子さんは多いです。病気という説明がなかなか難しいです。
「会っているときには、精一杯元気にしているけど、後は寝こんでいるんだよ」という説明をしたりしますが…。
(佐藤さん)
だぶん…そのときにちょっとあいまいなかんじで説明しておいて…成人したときに、また改めて疑問に思ったり、聞いてくる時があると思うんです。
そのときに、その子の状態が整っていたら、話したらいいことだと思うんです。
不安定な状態のときに、全部話す、刺激をあたえるのはよくないかなと思っています。自分自身へのスティグマをもつことにもなりかねないし。何度も訂正したり、何度も説明したりする機会があると思って、今はこのくらいの説明にしようと、段階があるかなと思います。
お母さんとお子さんの両方の状態を知っていて、ささえてくれる場は、なかなかないです
―子どもが継続して参加するなかでの親子の変化、子ども、お母さんの変化があったり、なかったり…するのでしょうか?
(石川さん)
変化か…なんだろうな…
継続しているので、月に1回は必ず会えます。
子どもにとっては、学校の友達とはちがう、親戚みたいなかんじが少しあって、月に1回会えることをすごく楽しみにしています。お母さんたちが安心しているかんじが、ママ友といるのとはちがうのはわかっています。
(佐藤さん)
みんなで知り合いというか、スタッフも、仲間も、母子両方みられている、ひっくるめてささえられている、ホールドされているーーそんなかんじがでてくると、母子関係に少し余裕がでるのかなと思います。イライラしてすぐにばあーと子どもにいっていたのが、すこし待ってみることができる。
お母さんの状態を知っていて、お子さんの状態を知っていてくれる場所は、なかなかないです。2人をまとめてささえることで、少し安心感があるのかなと思います。
(石川さん)
家の中の深い話はしないけど、「昨日こんなことあったんだよー」とか、「お母さん、怒ってたんだよ」とか言ってくれたりして、そういうことがあったんだなとわかります。
お母さんが具合が悪くなったときに、子どもからフリッカに連絡がきたことがあります。それでスタッフが見にいって入院になりました。ちょっと大きい子どもだと、「ここに連絡すれば助けてくれる」という場になっていると思います。
―子どもにとっても、お母さんにとってもすごくいいことですね
調子くずしてます
プログラムは毎月試行錯誤しながら…
―コロナ禍での様子はどうですか?
(石川さん)
最初の緊急事態宣言のときは、何回かは中止にしたこともありましたが、その後は、感染予防に気をつけながら開催しています。
工作キットをお母さんが来たときに渡しておいて、zoomでつながって一緒に工作をしたり、すごく大きなスペースを借りて、マスクつけて黙って同じ方向を向いてフラワーアレンジメントやったり。なにをしよう…と毎月試行錯誤しながら。
今も、ほんとはもっと長い時間いたい、というのがあるんですけど、短い時間になってます。ここに集まっての会食はできないので、食後に集まったり、予防しながらやっています。
農業体験がよかったな! いろいろな野菜を採ったり、自然のなかで密にならないし、初めての体験で、みんなとても喜んでいました。また今年もやろうかなと思ってます。「いちごつみ」にも行きました。(農業体験もいちごつみも埼玉だったそうです)
(オカリナに色づけ!)
―お母さんたち、コロナで窮屈な生活で、調子崩したりはしてないですか?
(佐藤さん)
調子くずしてます。すごくふえています。すごくストレスが。
(石川さん)
だいぶ最近は慣れました。予防することにも。
最初は、ここに来られないし、ミーティングはzoomだし…。
(佐藤さん・石川さん)
突然の休校がほんとに大変でした。一番大変だったね…。
大変だ大変だと電話してきたり。ここの時間ではないときにも連絡を取りあったり。スタッフが家まで行って、子どもたちを人のいないところに連れ出して散歩したり、そういうことがひんぱんにありました。過ごせない…行き詰まって大変でした。
去年はうつうつとしていました。
調子が悪いのはずっと今もつづいているのがありますが。
(佐藤さん)
頭痛や腰痛など、体の不調を訴える人が多いです。
うつうつしているかんじです。出かけることもできない、気晴らしにってわけにもいかない、仲間ともあえないし、ご飯食べにいくわけにもいかないし、というかんじです。
支援のまえにニーズがあります
―学習会、プログラム、いろんな取り組みは、どんなふうに生まれているのでしょうか?
(佐藤さん)
やってるうちに。
「運動会だ、どうしよう!」から始まって、「運動会のお弁当を一緒につくってほしい」「みんなは家族で食べてるのにうちだけお母さんしかいないから来て欲しい」とか、離れている子どもの入学式で、「じゃあ、入学式どうやっていこう」とか、ぽんとなにかがでてきます。そのときどきで、「じゃあそれどうしよう」を考えながら「じゃあそこ支援必要だね」と。はじめに支援があるのではなくて、まずニーズがあります。
シングルのお母さんが多くて、シングルじゃできないことやろうとキャンプへ行ったり、経済的にしんどいから助成金があったらディズニーランドに行こうとか、ニーズがあって、こんなことやろうか、となっています。
その人の「自分がこうしたい」を応援。一緒にやろう。
―取り組みのなかで大切にされていることを教えていただけますか?
(石川さん)
なんだろうな…。
自分が依存症で、自分も子どもがいて、ここを利用させてもらっていた、自分がこうしてもらったら嬉しかった、というのがあります。もう亡くなったスタッフですけど、無条件に、よく来たね、と言ってくれました。子どもをかわいい、かわいい、と言ってくれました。そういう家族がいない人がほとんどなので、言ってくれるのが、すごく嬉しいです。
親戚までいかないけど、そういうかんじではいたいなと思います。
子どもをいつの段階で引き取るとか、いろんなことがありますけど、こちらが「こうしたら」ではなくて、なるべく、その人の気持ちに添った「自分がこうしたい」というのを応援できるようにしたいです。その人の希望で決めてもらって、それに添うお手伝いができたらいいなと思っています。
(佐藤さん)
横からのサポート、一緒にやろう、ってかんじなのかな。
例えば、手術を子どもにさせようか迷っているお母さんがいたときに、同じ手術をやったことがあるとか、「迷った時にこう決めたよ」とか体験があると、その人には伝わりやすいです。医学的見地からこうですよではなくて、「私もそのときすごく迷ったけどやってよかったな」とかの話。先行く仲間の体験があって、体験からこうだったよ、というのがあったらチャレンジできます。
スタッフも、「子どもが入院したとき自分のときはなくて大変だったから、じゃあここをやろうか」と言えるし、困難だったり成功だったりの「体験」があって、そこから「こういうのがあったらいいな」が生まれてきます。
私は看護師なんですけど、看護師だからこうというよりは、子育てしているからこうだよと、そういう話をいつもしているなと思います。
公的な手続きをすることが大変で大変で…
ー子育て支援の報告書を読んでいて、地域、医療や行政は「言葉の通じない世界」という言葉に目がとまりました。その通じなさを小さくするために…なにかできることがあるでしょうか。
(佐藤さん)
前提として、ここにくるお母さんは、社会に対して怖さを感じている人が多いので、役所は行くだけで緊張する場所です。自分の言うことはわかってもらえないんじゃないか、とすごく思っています。
行くことが本当に大変で、公的な手続きすることが大変で大変で…
「戦ってくる」くらいになって戦闘モードで出かけてしまうこともあります。
専門用語は漢字の羅列[られつ]でよくわからなかったりするので、やさしいことばで、ゆっくり話してもらえると、だいぶ緊張がとれると思います。ぱあーと次々に言われると、せめられている気になったり、お前はダメだ、なんで一回言ってわからないんだ、と言われているような気になります。
「わからなかったら何回でも聞きにきていいですよ」があると少しほっとするかなと思います。
(石川さん)
「何回きいてもいいよ」って言ってくれたら嬉しいですね。同じこと何回きいても大丈夫って。パニクっているから、頭に入らないし、わからなくなります。
紙に書いてくれたり、紙に書いてわたしてもらったりもいいですね。
楽しそうでご機嫌な雰囲気がいいです
―ここまでお話をきかせていただきありがとうございます。おわりに、改めて活動について付け加えることや、読者の方へほかにも知って欲しいことなどがあれば、教えてください。
(佐藤さん)
いつも、石川が中心になってやっているんですけど、石川がいつも楽しそうにやってくれています。自分のやりたいことをやっています。子どもたちのいる場所で、楽しそうだし、ご機嫌だし、そういう雰囲気はいいなと思ってみています。
(石川さん)
コロナ禍で唯一あいてるのが銭湯で、子どもプログラムのあと、銭湯に行くのを楽しみにしています。みんな母子なので、だんだん、男の子が大きくなってきて・・・お父さんいないと困るね、みたいなことを言いながら、子どもがひとりで入るようになるのも楽しみのひとつです。
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活動を続けていくためには資金面の大変さがあるとのこと…
「子どもプログラムの活動資金は、自分たちでとってこないといけません。活動計画、予算をたてて、どう使ったか細かい報告をするのがついてまわり事務的な作業が大変です。助成金だとプロジェクトにしないといけなくなりますが、そうではなくて、自由に使えるお金がある仕組みができたら…と思います。」
「今はコロナなので難しいですけど、子どもといっしょに遊んでくれたり、勉強を教えてくれる大学生のボランティアさん−−発達の課題や障がいがあったり、いろんな子どもたちに、かかわってみたいな、という志がある人たちが、活動をちょっと手伝ってくれると嬉しいです。おばさんばかりで、アクティブな活動が難しいので。」
薬物の問題をかかえている女性の方へ
「フリッカ・ビーウーマンに電話してくれれば、最初の一歩はふみだせます… ためらっている人がいたら、気軽に電話をください」
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ダルク女性ハウスを応援する
・寄付する
・ハンドメイドグッズを購入する
・書籍を購入する(どちらもオススメです)
『親になるってどういうこと? シラフで子どもと向き合うために』
ダルク女性ハウス発行,2009
》ぷるすあるはのオンラインストアへ
『生きのびるための犯罪』
上岡陽江・ダルク女性ハウス著,イースト・プレス,2012
》イースト・プレスのサイトへ
・サイトでみられる本を読む
『子育てサポートBOOK 子どもといっしょに暮らすために』
ダルク女性ハウスのサイトに公開されています。体験談を中心に16ページの読みやすい冊子です。
》ダルク女性ハウス>子育てサポートBOOK
座談会を終えて
お母さんが安心して通っていると子どもも感じる場。お母さんと子どもと両方をささえてくれる場。子どもにとっても、ここに連絡すれば助けてくれる場。
お話をおききしながら、あたたかい場だなあと感じました。ほんとの親戚ではないけど親戚のように…という感覚も、チアキも薬物依存症のリハビリ施設とのつながりがあって、うんうん!うんうん!と思いながらきいていました。
インタビューでは触れらませんでしたが、ダルク女性ハウスの「心とからだのヘルスケアに関する市民活動・市民研究支援女性事業 薬物依存女性の子育て支援」(2016年度ファイザープログラム)では、「刑務所に収容された母と残された子ども〜最も困難な状況の母子の支援」についても取り上げられています。薬物依存症をかかえながらの妊娠、子育てに優しいとはいえない、むしろ、ないこととされているような社会のなかで、社会への発信もつづけておられます。
改めて、親子にとって本当に大切な場となり、17年と長く活動をつづけていらっしゃることに敬意を感じました。
見ない存在にしない。言葉の通じない世界にしない。記事を読んでくさる方たちとともに、取り組んでいきたいと思います。
石川さん、佐藤さん、ダルク女性ハウスのみなさん、ありがとうございました。
「子ども虐待防止オレンジリボン運動 新型コロナウイルス感染症対策下における子ども虐待防止に資する活動への助成」を受けて行っています。
※今回がシリーズ全15回の最終回です。
最後までお読みいただきありがとうございました。