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コロナ禍での児童虐待相談・対応と、子どもさん、親御さんへのメッセージ

コロナ禍での児童虐待相談・対応と、子どもさん、親御さんへのメッセージ
2020年10月15日 pulusu

コロナ禍での子どもや家庭の様子、児童虐待相談・対応と、メンタルヘルス不調をかかえた家庭へのアプローチなどについて、今、しんどい状況にいる子どもたち、親御さんへのメッセージとともに、児童精神科医の古田さん(児童相談所勤務)にメールでお聞きしました。


01 コロナ禍での児童相談所への児童虐待に関する相談内容や件数、保護件数の変化、対応への影響について教えてください

 

 

学校等が臨時休業をした令和2年3月から5月までの期間に、さいたま市を含む埼玉県内の児童相談所における児童虐待相談対応件数は約4,300件と、前年同時期と比較すると約7%増加しています。学校等が概ね再開した6月の県内の児童相談所における対応件数は速報値で約1,600件と、前年同月と比較すると約14%増加しています。
一方、令和元年度1年間の増加率は約14%であり、いずれの期間においても、コロナ禍において、著しく件数が増加している状況にはありませんでした。
しかしながら、学校再開後の件数をみると、子どもたちを見守る上で、学校の協力は大きいと改めて実感しています。
また、休校期間中に、他の大人も在宅ワーク中であることで、子どもの泣き声や大人の怒鳴り声などに異変を感じて、通告してくださった、というケースもありました。学校の通告の事や、このような近隣からの通告のことを考えると、早期に虐待に気付き、子ども達を救うのは多くの人の目だ、ということが言えると思います。

 

一時保護の件数も同様で一定の傾向はありませんでした。一時保護するか否かの基準は、コロナ禍であってもなくても同様であり、子どもたちの安全が守られるか否かを基準にしています。そこは全く変わりません。
ただし、家庭訪問については、緊急事態宣言中は、コロナを理由にお断りされることも多く、ご家族との話は玄関越しで話す、市役所などほかの場所で話すといった状況がありました。
現在は家庭訪問も行えていますが、そのような状況で、子ども達の安全を確認していくことは、いつも以上に丁寧な対応を迫られていたと思います。

 

すでに施設に入所しているお子さん達と、児相職員との面接も定期的に行っていますが、緊急事態宣言中は施設として、感染予防のために児相職員の面接と言えども、制限があったり、防護服やフェイスシールド等の着用をしての面接を行わねばならなかったりしていました。現時点でもそのような対応を取っている施設もあり、施設入所の子ども達への感染予防にも気を遣って対応しています。

02 コロナ禍でむしろ事態が好転した・展開したといった例もありますでしょうか? もしもあれば特徴などを教えてください

 

 

コロナ禍の影響で家にいるようになった祖父母が、父母を手助けすることができるようになり、そのお陰で父母の余裕がさらに増し、家庭引き取りの話が進んだ、というケースがあります。
また、元々不登校で、登校をさせる、させないで親御さんのプレッシャーも、お子さんのプレッシャーも強かったお家で、休校期間中にこれらのプレッシャーがなくなり、親子関係が安定した、ということもありました。

 

もちろん、コロナ禍での経済的な影響から、家庭状況が悪化したり、外に出かけられなかったりしたことでのストレスということは多かったとは思いますが、全てのケースにおいて悪影響だったわけではない、と言えると思います。

03 メンタルヘルスに課題を抱える親御さんがいる家庭について、現場で感じている課題、必要なこと、取り組みや工夫について教えてください。

 

 

メンタルヘルスに課題を抱える親御さんの場合、その親御さんの病状を知ることは重要になります。今までの対応を振り返り、どのような所に問題があったのか、子どもへのかかわりをどう変える必要があるのかを一緒に考えていくことは、家族再統合にとって重要なことの一つになります。
子どものために何をどうするべきか、そしてその親御さんの状態で、どこまでそれを行うことができそうか、どこまでのことを親御さんの課題として提示していいのか、今はまだ難しいのか、そこを理解する上で、主治医の意見はとても大切です。

 

医療に繋がっていない親御さんの場合、医療受診をお勧めすることもあります。親御さんの安定が、子ども達の安定や、そのご家庭全体の安定につながる、と考えているからです。

 

また、親御さんの育児スキルを上げる上で、ペアレントトレーニングやコモンセンスペアレンティングといったプログラムや、親子で受けて頂くPCIT(Parent Child Interaction Therapy 親子相互交流療法)等もあります。また、虐待をしてしまう親御さんのためのMY TREEペアレンツ・プログラムというものもあります。
ただし、親御さんの病状が安定していない中でただただ、プログラムを行うことは、親御さんにとっても子どもたちにとってもメリットにはならないと感じています。それを行うことでみんなにメリットがあるのか、それを行うことがかえって負担にならないのか、“行った”という事実だけが独り歩きしてしまわないのか、そこも含めて考えていかねばならないと思います。また、プログラムを行わないとだめなのではないか、と考え、親御さんがプレッシャーを感じたり、それにより病状が悪化したりすることも適切ではないと思います。

 

上記のようなプログラムだけではなく、市町村、保健センターや学校、保育園、病院と共に、その家庭を見守り、支援していくための要保護児童対策地域協議会というものもあり、メンタルヘルスに課題を抱えていてもいなくても、地域全体でそのお子さんや家庭を見守ってくことが重要であると思っています。
様々な情報を集め、その上でそのケースに合った対応を考えていくこと、これについてはどの家庭でも重要な点だと思います。

04 子どもさん・親御さん向けのメッセージをお願いします

 

お子さんへ

新型コロナウイルスのせいで、学校の行事がなくなってしまったり、友達と遊べなくなったり、家族とのお出かけがへったりしているのではないかと思います。そのことでみんなもストレスがたまってイライラしたり、つかれたりしているのではないかと思います。もしかするとお家の人も同じようにイライラしたり、つかれたりしているかもしれません。
もしもお家の人のイライラが強すぎて、こわい思いをしたり、いっぱいガマンしないといけなかったりする時には、いっしょに考えてくれる大人が必ずいます。「困っている」「助けて」って言ってください。
それは学校の担任の先生でも、相談室や保健室の先生でも、みんなの話しやすい大人でいいんです。もし、知っている人だとかえって話しにくいな、という時には児童相談所というところに相談してくれてもいいです。「189」に電話してくれれば必ず、相談に乗ってくれます。

みんながたった一人でガマンしなくてもいい方法がかならず見つかります。どうか、いっしょに考えさせてくださいね。

 

親御さんへ

新型コロナウイルス感染症により、今までの生活様式とは違った生活様式が求められています。子ども達の学校がお休みになったり、行事がなくなったりして、子ども達は子ども達でストレスのかかることが増えていると思います。
また、親御さんも、在宅ワークが増えたり、勤務体制が変わったりして、今までと異なる体制の中で、仕事も家事も育児も行わねばならず、大変な思いをされていると思います。
その中で、ストレスを抱えた子どもたちに対応するのは、親御さんもイライラし、感情的になってしまうこともあるかと思います。
今、リラクゼーションをしたり、イライラや苦しさにどう対処するかを家族の中で話し合ったりすることの重要性に目が向けられています。
目の前でお子さんが騒いでいたり、ぐずっていたりすると、親御さんとして、何とかしなくては、と思うでしょうし、それがなかなかうまくいかないとイライラしたりもすると思います。
そのような時には、一旦その場を離れて、別の部屋に行ってみる、深呼吸をしてみる、トイレに行ったり顔を洗ったり、水を飲んだりしてちょっと別のことをしてみる、といったことで、親御さんがクールダウンを行うとちょっとだけ冷静に対応できるようになるかもしれません。ほかのご家族やご夫婦ともお話をし、例えば今、お互いにストレスが溜まっていることを共有する、といったことだけでも、気が楽になることもあります。子ども達のストレスも一緒に聞いてあげ、お互いを知ることも重要になります。また、お互いに我慢して、頑張っていることをほめ合う、ということも良い方法だと思います。

 

  

 

それでもやっぱり辛い、どう対応していいのか分からない、自分の我慢が足りないのではないかと悲しくなってしまう、ということがあると思います。
ご家族だけで抱え込む必要はありません。このような社会情勢の中で、親御さんたちは、仕事のことも、家族のことも、自分のことも、本当によくやってくださっています。学校でも、保育所でも、市町村の子ども課でも、児童相談所でも、一緒に考えてくれる機関は沢山あります。どうか、それらを利用して、今のこの状況を、一緒に乗り越えられたら、と思います。

 

児童精神科医 古田洋子(埼玉県中央児童相談所)


埼玉県中央児童相談所とぷるすあるはは、これまでに

》学校の先生向け性的虐待対応リーフレット(2019)
》絵本『ボクは話せない…』(2016)

の制作でコラボしてきました。そんなご縁あっての今回の寄稿。
変わらぬ子どもたち、ご家族への温かいメッセージ。しんどい中でみてくださる方へ届いたら…と思います。古田さん、ご協力ありがとうございました。

※このページの一番最後に『ボクは話せない…』の動画[1:38]を貼りつけています。「どうか、一緒に考えさせてくださいね」のメッセージです。


資料・関連リンク

 

》子どもがそうだんできる電話や場所の情報

》相談先

》養育者支援プロジェクト(理化学研究所脳神経科学研究センター親和性社会行動研究チーム

さまざまな養育者(親)と子のためのプログラムについて簡潔に説明されています。本文中にでてくるプログラムも紹介されています。

》児童虐待相談対応件数の動向について(令和2年1月~12月分(速報値) 全国)

》「子どもの見守り強化アクションプラン」の実施について|厚生労働省(子発 0427 第3号 令和2年4月 27 日)

》埼玉の児童相談(令和2年度版(令和元年度実績))

》新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下における メンタルヘルス対策指針 第1版(6/25)

日本精神神経学会、日本児童青年精神医学会、日本災害医学会、日本総合病院精神医学会、日本トラウマティック・ストレス学会

追記のアイテム活用紹介

 

『生きる冒険地図』から3ページ

気持ち色々(p12-13)と体調を知る(p34-35)

自分の感情や調子をうまく表出できない子たちにはとても良いと思います。

広い世界が待ってるし(p30-31)

今までの教育の中で「みんなと仲良く」と言われてきた子達にとって、今いる世界の「みんな」と仲良くできなくても、これから別の世界がある、と思わせてくれ、よく使うページです。

欲を言えば…以前の(自主制作版の)『生きる冒険地図』より情報が多くなったことで、知的に高い子や支援者にはとても良いのですが、小さい子や発達障害があってあちこちに注意が向きやすい子には見にくくなってしまった印象があります。(追加作成の)“ストレスコップ”や“HAPPYリスト”のように1枚で使えるものや、情報を薄くして、その子ように書き込めるようにする場所を作っていただいてもいいのではないか、と思いました

『ハルのきもちいろいろサイコロ』

辛い中にいる子たちに優しい色遣いやふんわりとしたタッチの絵はとても使いやすいです

『ボクは話せない…』

「子ども虐待防止オレンジリボン運動 新型コロナウイルス感染症対策下における子ども虐待防止に資する活動への助成」を受けて行っています。

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