精神科で長年働いてきた看護師のチアキが、精神科の受診や治療、地域生活などの質問に回答するコーナーです。
*このコラムは「依存症とかかわり」がテーマです。
某研修の場で、これまでの約20年の依存症の支援の経験を本として活用いただきました(チアキのヒューマンライブラリー)。このQ&Aは、そのときのやりとりを下書きにして、新たに編集を加えたものです。事例については、個人が特定されないように事実関係など変えています。
質問
持病があっても内科への入退院を繰り返している高齢の方が、今回の入院でアルコール問題がわかりました。ここは突き放して、自分で振り返ったり困ったりという体験をしてもらうのもよいかもしれない…という意見があったり、なにか起きたときが介入のチャンスというのを聞いたこともあり、かかわりを迷っています。今度カンファレスがあります。
チアキの回答
ご質問ありがとうございます。内科に入院しているということで、ご本人さんは、今、安心な場所にいらっしゃるんですね。
「つきはなす」のがよいのか、はケースバイケースです。
「イネーブリング」といって、確かに、本人の依存症の問題を、まわりが尻拭いをすることで、本人が問題に気づきにくくなるということはあります。
例えば、20代で、深酒して仕事に行けないときに、親がかわりに職場に電話するのは…これはNO。やらない方がよい対応です。
ですが… ご高齢で合併症がある人をつきはなすのは…どんなよいことがあるでしょう?
依存症の支援では、支援につながるまで10年…といったことも一般的です。1年のかかわりはまだまだかかわり始めたところ。しかし、ここから10年だと、命はないかもしれない。
依存症は「コントロール障害」。飲んでしまうのが病気です。依存症の再飲酒、再使用は症状ですし、ウソをついてしまうのも、病気がさせることです。
この方は、体を悪くしながらも、受診できる、身体を気遣えるところがあるし、単身での生活もなんとかいろいろふんばっているのだと思います。
そこで、ぐだぐだにならないように(命を落とさないように)、飲んだ時に「助けて〇〇さん」が言えるようになったら…と思います。正解はないけど…地域の中で、その人らしく生きる方法をいっしょに考え、死ぬまでお付き合いする感覚で支援するのかなと思います。
カンファレンスは、退院後にどう生きていくのか、という未来の話です。かかわっているみなさんの顔合わせの機会、それぞれ持ち合わせている情報もちがいますので、そららを共有する機会です。
ご本人? もちろんご本人もメンバーに入って。そりゃそうですよね、ご本人の人生なのですから。
まわりは、入院させておけば安心ですが…ご本人の人生なのですから。
支援者の、自分のもやもやは、相手への怒りにかわることがあります。
自分自身のお疲れのサインのこともあります。
ピンチをチャンスに変える、というのは、(支援者の)きもちもそうだと思います。
かかわりでは支援者自身のキャラも大切に。
職場の中で、外で、支援者自身も応援団をもつ、つくることがとても大切です。
さいごに。
この方が、つきはなすことで、自分で依存症について考えて調べて自助グループに行ったりできるようになるか、そのきっかけになるか?と言うと…
100%無理だと思います。
もし、自助グループへつながる、ことをめざすなら…
「いっしょに」何度も足を運ぶ、何回もいっしょに繰り返す。そして、数年後に自分で行ける、といったイメージです。「行きなさい」はただ言っただけ。言うことをきけない、きかない、ではなく方法がちがいます。
回答の中ではふれられませんでしたが、ご家族のねぎらいも…よろしくお願いします。
質問
内科の病院に勤務しています。入院期間が短い中で、どんなことができるでしょうか。お金もない、家族もないという方も多いです。
チアキの回答
内科につながれているその人の力は大きいです。内科で身体のケアをしてもらえていることはとてもありがたいです。
例えば…難しいことではなくて、その人ができそうな約束をしてみるのはどうでしょうか。「次の受診にきてくださいね」とか。家にいると、やることがない、趣味もない、飲むしかない…。受診に来れたら「よく来ましたね!」と。もしも飲んでなければ「2週間お酒とまったね!」とよしよし役にまわったり。
そして内科以外の場所もあるとよいですね。内科と精神科の両方でかかわれると、その人のつながり先がぷっつり切れることがへります。
どれだけ連携先をカードとしてもっていられるか、手持ちのカードをふやせるかが、依存症支援の鍵です。
参考図書
ぼくらのアルコール診療 シチュエーション別。困ったときの対処法
南山堂 (2015/6/18)
チアキ
関西→関東、精神科ひとすじの看護師。
ぷるすあるはの制作担当、絵本ではお話と絵を担当しています。