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学校メンタルヘルスリテラシー教育1─精神保健の専門職による訪問授業で「SOSの大切さ」を伝える

学校メンタルヘルスリテラシー教育1─精神保健の専門職による訪問授業で「SOSの大切さ」を伝える
2017年3月2日 pulusu

取材記③ -by Suzuki Yo & pulusualuha


メンタルヘルスリテラシー教育という言葉を聞いたことがありますか?

こころの不調や精神疾患についての知識を得ることで、病気を予防したり、自分のこころの不調に気づいてまわりの大人や友達、専門相談機関などに相談できる力をつけていくことをめざす教育です。

海外では「学校メンタルヘルスリテラシー教育(学校MHL教育)」に取り組んでいる国が多くありますが、日本では精神疾患への偏見もあるせいか、学校のカリキュラムに位置づけられていません。
しかし、少しずつですが、研究やボランティアの枠組みの中で、さまざまな取り組みが広がっています。このコラムでは、今後そのような取り組みを紹介していく予定です。

今回は、すでに10年以上にもわたって活動を実践してきた特定非営利活動法人地域精神保健福祉機構(通称・コンボ)/学校メンタルヘルスリテラシー教育研究会(以下、学校MHL研究会)の篁宗一さん[タカムラ](静岡県立大学看護学部教授)と、東京を中心に活動をされている松浦佳代さん東京医科歯科大学精神保健看護学分野博士課程)に、プログラム内容や成果、課題について、お話を伺いしました。

 

学校MHL教育を始めた経緯 ─こころの不調に気づき、SOSを出せるように

 

児童期から思春期は、こころの不調や不安定によって、不登校やリストカットなどが起きやすい時期です。また、思春期以降は、統合失調症など精神疾患の発病が増えていく時期です。しかし、子ども自身もまわりの大人も、精神疾患の知識がないため、精神疾患にかかっていることに気づかなかったり、気づいても誰に相談したらよいかわからず、支援が遅れているのが現状です。

このようななか、子どもが早めにこころの不調に気づいてSOSを出せるようになることを目的に、2003年、精神保健の専門職が中心となって学校MHL教育研究会を立ち上げました。そして、2004年以降、研修会を実施してプログラムにたずさわる人材を養成し、プログラムを実践できる学校を開拓しながら、訪問による授業を重ねてきました。

14年目を迎える現在では、島根県、東京都、神奈川県、千葉県などの中学校でプログラムを実施。全国で延べ1万人以上の中学生が、この教育プログラムを受けています。

 

生徒プログラムで学ぶこと

 

生徒プログラムは、1年次に4回の授業を実施。2年次、3年次には1年次に学んだ内容を復習する「フォローアッププログラム」を1回ずつ実施します。メインの講師は2人ですが、寸劇を行うときには、4、5人のスタッフも参加します(学校の特徴や都合に合わせ、プログラムは変更します)。

 

1年次プログラムは、最大で4回の授業を行います。

・1回目(プログラムⅠ)
まず精神疾患は誰でもかかりうる身近なものだということ。そして、精神疾患のきっかけになるストレスとその対処法を、寸劇やクイズ、スライド、また手作りの小道具を使って、わかりやすく伝えます。

・2回目(プログラムⅡ)
こころの不調を感じたときに、相談できる場としてどのような施設があるかを、スライドや寸劇を使って紹介。また、希望者は別の日に、地域の専門相談機関を見学・取材します。

・3回目(プログラムⅢ)
見学・取材をした生徒が、その内容を発表し、みんなで共有します。

・4回目(プログラムⅣ)
精神疾患をもつ当事者を講師に迎え、精神疾患が特別な病気ではないこと、治療や相談が助けになることを学びます。そして、いままで学んだことのまとめとして、「悩むことは自分を探す過程で大切なこと」であること、「相談することが自分の解決力を引き出すための手段であり、甘えではないこと」を伝えます。

2年次、3年次にはフォローアップとして、1年時に学んだ内容を50分間でおさらいし、それを基礎とした内容を、さらに具体的に学びます。

 

授業内容を忘れないために工夫していること

 

このプログラムにでは、精神医療の現場で働く専門職のエピソードや、実際に病を体験した当事者の生の声を聞く機会がたくさん盛り込まれているので、こころの不調や精神疾患を身近なものとして感じることができ、印象に強く残り続けます。また、2年次、3年次にもフォローアップの授業を実施し、記憶に残るようにしています。

また、実践したことは、確実に記憶に残ります。そのため、「授業の後に、どんなことでもよいので、自分から相談して助けてもらう経験をしてほしい。もしその時うまくいかなくても、何度か挑戦してほしい」と伝えています。

 

授業の成果と手ごたえ―相談の増加や治療に結びつく例も

 

松浦さんが担当している中学校では、授業のあと、生徒から「こういう病気があることを知らなかった」「自分の中でストレスが起こっていることがわかった」「相談は大切だと思った」と率直な感想が寄せられるとのこと。学校カウンセラーや養護教諭への相談が増えた学校もあるそうです。

実際に医療につながった生徒もいます。篁さんは、ある中学校で授業を行い、6か月が過ぎたころ、授業を受けた女生徒に、偶然にも病院で出会いました。入院治療中とのことでした。女生徒と話す機会をもち、授業のことを聞くと、「摂食障害の話を聞いて、自分のことだと思った」と語ってくれました。その後、彼女は紆余曲折しながらも退院し、無事回復していったそうです。

また彼女と同じ学年の生徒たちに、卒業3年後、フォローアップのアンケート調査を実施したところ、「ストレスがたまるとハートのクッションがつぶれて、いびつな形になってしまうという話をよく覚えている」「高校3年間を振り返って部活や友達のことでいろいろ悩んだこともあったけど、親友に相談したり、話を聞いてもらって、すっと心が軽くなることがたくさんあった」と答えた生徒がいました。相談の大切さが身についている様子が見えてきます。

 

教員の理解もしだいに進んできた

 

多忙な学校にとって、プログラムを実施する時間的な余裕はなかなかありません。また、「こころの不調を抱える子どものことを掘り起こしてしまい、いじめにつながってしまうのでは」「あえて伝える必要はないのではないか」など、精神疾患やメンタルヘルスについて教えることに抵抗感をもつ教員も、まだまだ多いのが現状です。「実際に相談されてもどう対応してよいかわからない」という戸惑いもあるかもしれません。

しかし、実際にプログラムを行った学校では、多くの教員は認識を変えていくそうです。
「プログラムを始めた当初は、学校にとってもどのようなことを行うのかがわからないため、学校の抵抗感もありました。でも、最初は抵抗感をもっていた先生も、プログラムを1,2年継続していく中で、しだいに理解が進んでいきます。この10数年で、実施したいという学校もしだいに増えてきました」と篁さん。
「多忙やストレスにより、うつ状態で苦しんでいる先生も少なくありません。悩みを吐露されることもあります。私たち外部の人間が学校の中に入ることで、救われた方もいらっしゃいました」

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とはいえ、すぐ学校MHL教育を取り入れるのは困難です。では、いま目の前の子どもに対して、教員は何をすべきなのでしょうか。

篁さんは「教員の方には、まず子どもを受けとめて、理解してほしい。大半の子どもは話すだけで楽になり、ストレスやこころの不調が解消されるのです。そして、精神疾患を正しく理解してもらい、必要があれば専門家につないでほしいです」と話します。

松浦さんは、教員と授業の打ち合わせをするときに、教員自身が困っていることを話してもらうそうです。その理由を、こう語ります。
「人を助ける仕事をしていると、自分のことをおろそかにしてしまいがちです。先生自身が支援される体験をしてSOSを出す大切さを実感できれば、それが生徒にも広がっていくのではないかと思います」

学校MHL教育を広げていくための課題――長期の見通しをもって継続する

 

外部の専門職による訪問授業を継続していくには、多くの課題があります。
前述のとおり、カリキュラム上の位置づけがない現在は、多忙や精神疾患への理解の不十分さから、校長会や教育委員会に働きかけてプログラムの実施を呼びかけても、受け入れてくれる学校はわずかです。また、実施していた学校でも、核になる教員が異動すると、継続が困難になります。

プログラムを実施するスタッフ側も、予算や人材不足の中、ギリギリの状況で行っているのが現状です。そのような中でも「教育は先行投資なので、10年先、20年先という長期のイメージで続けていくことで、取り組みが波及していく。それを信じて継続していくしかない。そのためにも、もう少し環境が整わないといけない」と篁さんは語ります。

 

SOSを出せるコミュニティへ

 

今回、お二人のお話をお伺いし、将来を見据えて地道な取り組みを続け、確実な成果を生み出してこられた活動の大きさに感銘を受けました。だからこそ学習指導要領で学校MHL教育が位置づけられ、このような活動の条件が整えられるようになってほしいと思います。

たしかに、精神保健の専門職や当事者が学校に入るにあたっては、たくさんの課題があります。しかし、学校以外のさまざまな人たちとの“顔の見える関係”ができることが、SOSの出せるコミュニティにつながるのだと痛感しました。「相談は大切だ」とわかりながらも心を閉ざし、行動に踏みださない子どもたちにとっても、「ここに相談してみようか」「もしかしたら、あの人はわかってくれるかもしれない」と思うきっかけになるかもしれません。また、自らの経験を語る当事者の姿は、勇気を与えてくれるのではないかと思います。
学校MHL教育がコミュニティづくりに果たす役割は大きいと感じました。

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関連サイト

》「効果的な学校メンタルヘルスリテラシー教育プログラム 立ち上げ方、進め方ツールキット」

特定非営利活動法人地域精神保健福祉機構(通称・コンボ)>学校メンタルヘルスリテラシー

*プログラムの実施者養成研修会の予定や、授業の実施についてのお問い合わせは、コンボまでお願いします。》コンボ

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取材では、お忙しい中、篁さんと松浦さんに貴重なお話を聞かせていただきました。心より感謝申し上げます。

この教材は平成28年度子どもゆめ基金(独立行政法人国立青少年教育振興機構)の助成金の交付を受けてNPO法人ぷるすあるはが作成したものです
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