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アルコール依存症のお父さんへ「主人公ハルの手紙」にこめた2つの想い

アルコール依存症のお父さんへ「主人公ハルの手紙」にこめた2つの想い
2016年11月6日 pulusu

家族のこころの病気を子どもに伝える絵本④「ボクのことわすれちゃったの?─お父さんはアルコール依存症」(ゆまに書房)には、小学生の主人公ハルが、お父さんへ手紙を書くシーンがあります。
ハルと遊ぶ約束も守れなくて、お酒をやめようと思ってもやめられないお父さん・・・いくつかの契機を経て依存症の治療につながりますが、「ハルの手紙」はひとつの重要なアイテムになります。
このシーンは悩んで、お話に入れようかどうしようかと悩んだ上で、敢えて描いたシーンです。2つの想いをこめました。

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ひとつ目の想い。
シリーズのそれまでの絵本の主人公 ─うつ病編の「スカイ」、統合失調症編の「ホロ」は─ いろいろな気持ちがあるけれど、自分からは気持ちを言えない・・・子どもを描きました。まわりの大人が気がついてくれて、やっと少し話せるというお話でした。
アルコール依存症編の主人公「ハル」には、いろんな気持ちを出していいよ、という願いを込めました。

 

手紙を書いたらいいよというメッセージではなく、「自分が感じていること、思っていることを、自分の中に押し込めずに、話したり伝えていいよ」のメッセージを。そして、手紙を渡したのはお父さんではなく、お母さんへ。お母さんは手紙に込められたハルのいろいろな気持ちを「ありがとう」と受け取ってくれます。

(手紙がすぐにお父さんの断酒や治療につながることはないかもしれない、現実にはほとんどないかもしれないけれど・・・)

『気持ちを話したときに、ちゃんと受け止めてくれる大人の存在』が大切だと考え、それをこのお話の中ではお母さんに託しました。お母さんではなくても、だれか、まわりの大人の人が、その役割を担えたらと思います。

ハルの手紙は、ガマンせずに話していいよを託したモチーフです。

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もうひとつの想い。
それは、臨床で出会ったアルコール依存症のご本人のことです。
家族とはもうずっと前から離れて暮らし、会えないけれど、子どもと家族の写真をいつも財布に入れている方がいました。すり切れて消えてしまいそうな写真を、嬉しそうに見せてくれました。
家族のことはもう忘れたと言いながらも、お守りのようにに手紙を財布に入れて・・・子どもや家族の手紙に励まされて、今日だけお酒は飲まない1日を積み重ねている方がいました。
ずっと会ってないけれど、お孫さんの写真が送られてきてね・・・と嬉しそうにしている方(お酒はなかなか止まらないけれど・・・)。そんなご本人の顔がたくさん浮かんできました。

手紙や写真が今日を頑張る支えになっている方の想いものせて、ハルの手紙のシーンはできあがりました。

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作者チアキによる朗読動画[全編]