お母さんがうつ病、お父さんにギャンブルの問題がある…など、親が精神疾患やこころの不調を抱えているとき、子どものまわりの大人の方が子どもとのかかわりに活用していただくためのガイドです。~病気のご本人やご家族、支援者の方(保健、医療、教育、福祉、地域の子育て支援など)に向けて書きました。
必要なサポートは、家族の状況によってさまざまです。
親の子育て支援、経済面をふくめた生活全般の支援も欠かせない要素で、特に子どもの年齢が低いときには、親の子育て支援が、子ども支援になります。このガイドの中では、子どもへの心理的な支援を中心に書いています。病気の説明についてもくわしく取り上げています。
子どもの年齢は主に学童期です。そのほかの年齢にも活用できます。子どもの年齢や個性、ご家族の状況やこれまでになさってきた工夫や歩みにあわせて、取り入れやすいことから試してみてください。
参考図書:家族のこころの病気を子どもに伝える絵本シリーズ(プルスアルハ作/ゆまに書房)
*図書を追加しました 更新日:2021年12月
01.子どもの気持ちと行動の理解と対応
①子どものせいではないことを伝えます
親の様子がいつもと違うとき、家の中に何か心配な状況があるとき、それを「自分のせいかも・・?」と自分に関連づけて考えることが子どもではよくみられます。就学前のお子さんなどは、発達上の特徴から、何事も自分に結びつけて考える特徴があります。例えば、遠足の日に雨がふったとき「ボクがおねしょをしたから?」などと考えることがあります。
年齢があがるとともに、この傾向はうすまりますが、こころの病気は目に見えずわかりにくいため、年齢があがっても、自分と関連づけて考えやすい傾向があります。自分が病気の原因とまでは考えなくても、病状の波と結びつけて「自分が何かやったから?」「もっと◯◯しなきゃ」など責任を感じていることもあります。病気や病状と子どもを結びつけない、誰のことも責めない対応を心がけます。
◯「あなたのせいではないよ」「病気はだれのせいでもないよ」
×「いい子にしてたらお母さん早く良くなるよ」「そんなわがまま言ったらお父さんの病気が治らないよ」
②子どもなりの工夫やがんばり、いろいろな気持ちを、そのまま認めます
自分の周りで起きているいつもと違う状況を、その子どもなりに感じとり、さまざまな工夫をしています。心配をかけまいと勉強やお手伝いをがんばる子、妹や弟の世話をがんばる子など。不安に対して、何らかの儀式にのめりこんだりすることもあります。子どもなりの工夫やがんばりは、まずそのまま認めます。その上で、頑張りが負担になりすぎないように気をつけます。
こころへの負担が重なると、体調や言動の変化(例えば、頭やお腹が痛くなる、勉強や学校のことに集中できない、物や動物にあたる、友達とうまくいかないなど)としてあらわれることもあります。このようなときには、がんばるように励まさずに、心配事はないか、負担が重なっていないか、ということに気をつけて、子どもに接します。
子どもの感じるいろいろな気持ちは、どれも大切な気持ちです。不安やイライラ、怒りや恥ずかしい気持ち、よくわからない気持ち・・・それらも否定しないようにします。
◯「~してくれてありがとう」「しんどいときやさびしいときはそう言っても大丈夫だよ」
◯「~と感じていたんだね」「よく言ってくれたね」(気持ちを話してくれたときなど)
③心配なことを話しても大丈夫と伝えます、今の状況について伝えられることを伝えます
心配な状況に対して何も説明がないとき、子どもは自分のせいではと感じたり、想像力を働かせてより大きな不安を抱えることもあります。また「このことは聞いてはいけない、話してはいけない」「かくし事をされている、自分は信頼されていない」と感じてしまうこともあります。
子どもと病気や病状について話をすることはデリケートなテーマですので、ご家族のタイミングも大切にし、伝えられることから、伝えていただきたいと思います。目的は、子どもの安心につながること、「自分も家族の一員として信頼されている」感覚を持てること、「話しても大丈夫」と感じられることです。 伝えるときのポイントは、次の段落で説明しています。
病気のことに限らず、心配なことを話せる雰囲気や、困ったときに連絡できる場所があると知ることが安心につながります。困っていることへの具体的な対処を一緒に考えるのもよい方法です。
◯「心配なことを話してもいいんだよ」
◯こまったときカードをつくってわたす(4の項目参照)
*心配なことを話しても大丈夫と伝えても、「別に・・」「わからない」といった答えがかえってくることも多いと思います。このようなときには、無理に気持ちをひきだそうとせずに、子どもが関心を持っていることについて話したり、いっしょに好きな遊びをする機会を持っていただけるとよいと思います。
02.病気について伝えようと思ったら
子どものことを気にかける一生懸命さが一番のメッセージです
伝えていただきたいポイントは次の3点です。
- 様子がちがうのは病気のせいであること、それは病気のせいであなたのせいではないこと
- あなたのことを大切に思っていること
- 良くなるように治療などに取り組んでいること
病名など、どこまで伝えるかは、子どもの年齢や個性、ご本人ご家族の状況にあわせて、伝えやすい範囲を考えます。何度かにわけて少しずつ伝えてもよいと思います。支援者の方と相談する方法もあります。伝えっぱなしにするのではなく、継続的に関わります。
いずれの場合も、子どもから急に尋ねられたり、予期せぬ機会に明らかになることもありますので、心づもりをしておくと安心です。子どもに尋ねられたとき、すぐに説明しない場合も、「◯◯(時期など)になったら、ちゃんと説明するからね」など、誠実に対応するようにします。
子どもにも、大切な話をきく心の準備やタイミングがあります。子どもが話に気がのらないときには、無理をせず終わりにします。集中して大切な話をできる時間はお子さんによってさまざまです。5分や10分が限界という子もいます。
*隠し事がなくなることは伝えるメリットですが、一方で、年齢が低い場合など、思いがけず、いろんな人に親の病気のことを話すことも考えられます。例えば、「お母さんの病気のことは、お父さんと◯◯先生にお話してね」などと具体的に伝えるのも良いと思います。
*支援者の方が家族の病気について子どもと話をしようとするときには、家族の意向を確認し、できるかぎり事前に相談します。病気のご本人やご家族の、できているところに注目し、子育てを一緒にサポートする視点で接することが、子どもの支援にもつながります。日常生活のサポートも大切です。
病状の説明例)
「お母さんは病気のせいで元気がでなくて、今は◯◯といっしょに遊べないんだよ。◯◯のせいじゃないからね。」
「病気のせいでひとりごとを言うことがあるんだよ。病気が良くなるようにお薬をのんだり、お医者さんのところに通ってるんだよ。ひとりごとを言っているときには、お部屋に行って好きな本を読んでいようね」
***
※伝えるメリット、デメリットetc 伝えた体験や声は、05よくある質問Q&Aのコーナーて取り上げています
03.子どもの安心のためにそのほかにできること
◯病気の正しい知識をもつ
イラストで学ぶ病気や障がいのコーナーでそれぞれの病気について説明しています。
◯子どもと楽しい時間を過ごす
例)
- 子どもが好きなことや関心のあることを一緒にする
(ゲームなどの通常の遊びで大丈夫です、短い時間でも自分だけの時間は嬉しい時間です) - お互いが自然に安心できるスキンシップがあれば取り入れる
◯これまでの生活習慣や対人関係が大きく変わらないようにする
例)
- おはよう、おやすみの挨拶など、変わらない習慣を続ける
- 食事や入浴、身だしなみ、睡眠リズム、学校の準備など日常生活をサポートする
- 環境が変わるときには、子どもの安心できる持ち物を持っていけるようにする
◯ご家族も自身のケアを大切にする、困ったら相談する
例)
- ときどき自分の調子を振り返る、頑張っている自分をいたわる
- ときには家事の手を抜く日を作る、サービスを活用する など
*大人が相談する姿をみることで、困ったら相談してもよいことを子どもが学ぶ機会にもなります
04.こまったときカード・きんきゅうのときカード・安全地図(安全と安心のためのツール)
こまったときカードの使い方
- 大人が作って子どもにわたす または 大人と子どもといっしょに作る
- 下の空らんは、入院時の説明やメッセージなどに活用できます(必ず埋める必要はありません)
- 冷蔵庫や電話機などの目につきやすいところへ貼っておくこともよい方法です
- 子どもといっしょに、電話でさいしょに言うことを練習しておきます
- こまったときに行く場所への行き方を調べておきます
記入例
- (入院時の説明)「◯◯へ お母さんは、びょうきがよくなるように、びょういんにおとまりするよ。先生やかんごしさんがついているから、だいじょうぶだよ。 少しおちついたら、せつめいするからね。◯◯のせいじゃないんだよ。 ◯◯より」
- 「◯◯へ お父さん、今は病気のせいでいっしょに遊ぶことができないけど、◯◯のこと大好きだよ。横になっているときには、そっとしておいてね。 ◯◯より」
きんきゅうのときカードの使い方
名前、住所、電話番号を書いておきます。110/119番を呼ぶような緊急事態では誰でも頭が真っ白になることがあります。このカードを見ながら電話を。子どもから大人まで活用できます。
安全地図の使い方
子どもの行動範囲で、夜でも大人がいる場所を地図にしておきます。実際に、そこまでの道順を行ってみて、練習しておくと安心です
05.よくある質問Q&A
Q1 病気について伝えるメリットとデメリットにはどのようなものがあるでしょうか?
A1 箇条書きであげます。
メリットと思われること
- その子どもなりの理解と対処につながる
例)病状を自分に結びつけない、病状にふりまわされない、かたよった情報に左右されるリスクが少なくなり、正しい知識にもとづいて対処法を考え実践できる
わからないことや誤解からくる本人へのネガティブな感情が少なくなる - 信頼されている安心感をもてる
- かくし事がなくなり、家族の中で話し合うことができる、相談できる力がつく
- 予期せぬタイミングで知るリスクがなくなる など
デメリット(負担やリスク)と思われること
- 伝え方によっては、さらに頑張りを強いてしまう、不安が大きくなる、誤解のリスクがある
ネットからかたよった情報を得てしまうリスクがある - 伝えた後のフォローが必要
- 伝える家族の負担や意向
余裕がない、家族が相談できる人がいない、伝えたくない
何と伝えたらよいか、答にくい質問に何と答えてよいかわからない、伝えたあとが心配 - 子どもの個性やタイミングによっては聞きたくないこともある
- 子どもがまわりのいろんな人に話すことがある
- 支援者が家族の意向を確認せずに伝えてしまうと信頼関係が大きくゆらぐ
- 現実的な問題の解決には直接はつながらない など
*伝える内容や伝え方、その後の子どものフォロー、伝える家族の負担の軽減がポイントです。
*インターネット上には、かたよった情報をふくめて、様々な情報があります。不安な情報を目にしたときには、すぐにうのみにするのではなく、必ず信頼できる大人に相談するよう、あらかじめ伝えられるとよいと思います。
Q2 今は落ち着いています、必ず伝えた方がよいのでしょうか?
A2 Q1のメリットとデメリットを考慮し、お子さんの個性や年齢、現状、ご家族の意向などとあわせてご検討ください。ご本人や近い親戚など家族の中で事前に話し合うことも大切です。利用されている相談機関などで相談する方法もあります。
内服を続けながら長期的に病気とつきあう場合は、病状が落ち着いていても、いずれかのタイミングで ~例えば何かの節目の年など、親子ともに落ち着いたタイミングとセッティングを選んで~ 伝えられるとよいと思います。家族の一員としてあなたのことを信頼しているというメッセージになります。落ち着いているときに伝えることで、余裕をもって受け止め、備えができるというメリットもあります。
長い目でみたときには、「病気はあっても家族みなが大切な存在。あなたは自分の道を選んで歩いていける、それを応援している」というメッセージにつながるとよいと思います。
伝えることについての声・体験のコラム
》伝える家族の負担、家族(パートナー)のサポートの大切さ─アンケートでいただいた声から
》Sさん[40代・女性]のストーリー うつの本人で母の立場から【前編】「うつについて、子どもにこんなふうに伝えました」
06.関連ページ
》ゆるゆる子育て〜こころの病や発達凸凹を抱えて子育てしている方への応援ページ
ゆるゆる子育てのコツ、人間関係、日常生活ほか
》パートナーのみなさんへ
メッセージ、Q&A、集いの情報など
》生活や治療、子どもと家族をささえる社会福祉サービス
生活の支援、子どもと家族、子育て支援、治療にかんする助成etc さまざまな社会福祉サービスについての情報リンクです。
》小学生のみなさんへ
子どもができる工夫、子どもへのメッセージのヒントに
》中高生のみなさんへ
いろいろな気持ち、子どもへのメッセージ、工夫のヒントに
》ぷるす工房(ダウンロード)
カード、絵本の解説の一部はダウンロードできます
- こまったときカード/きんきゅうのときカード/安全地図
- 子どもの気持ちと行動の理解と対応/子どもへの病気の伝え方
- 子どもの安心につながる大人のかかわり/いろいろな工夫
》チームクリフ
学齢期の子どもへの支援を考えるための、養護教諭等、学校関係者を対象としたワークショップを開催、調査研究にもとづく情報発信などを行います。研究者やNPO法人から成る団体で、ぷるすあるはが事務局をつとめ、このサイト内で情報発信しています。
》親が精神障害 子どもはどうしてんの?
親が精神障害やこころの不調、発達障害などをかかえたとき、子どもたちはどうしてるの? 生活の様子は? どんなサポートができる?
ナビゲーターの「アルハ」、このテーマで研究されている「たのなか先生」といっしょに考える動画です。くわしい解説ページ、相談先情報あります。
》こころの不調や病気と妊娠・出産のガイド(一般の方向け)|公益社団法人 日本精神神経学会・⽇本産科婦⼈科学会
もっとくわしく知りたい人のための参考図書
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このページの担当
チアキ(看護師)キタノ(医師)
取り入れやすいことから、実践してみてください。子どもにとっても、そのまわりの方にとっても、少しホッとできることにつながったら幸いです。