精神科で長年働いてきた看護師のチアキが、精神科の受診や治療、地域生活などの質問に回答するコーナーです。
*このコラムは「依存症とかかわり」がテーマです。
某研修の場で、これまでの約20年の依存症の支援の経験を本として活用いただきました(チアキのヒューマンライブラリー)。このQ&Aは、そのときのやりとりを下書きにして、新たに編集を加えたものです。事例については、個人が特定されないように事実関係など変えています。
質問
飲んでると本人は言わないけど、まわりから実は飲んでるということを知りました。どう対応するのがよいでしょうか?
チアキの回答
まわりまわって聞いたことを、気にかける、心配する優しさ。その視点がもう、その方の応援になっていると思います。この人には飲んだというけど、この人には言わない…悪意とかではなく、相手によって話すことを使い分けるのは、だれでもあるのではないでしょうか。このこというと心配をかける、申し訳ないから(言わない)ということもあるかもしれません。
気になっているけどなかなかできないこと、○○さんもありませんか? ダイエットとか、禁煙とか…
会うたびにそのことを指摘されると、どうですか?
いつも、会った時に、飲んでる?飲んでない?(使ってる?使ってない?)の話になると・・・本人からみてちょっと行くのが億劫[おっくう]になると思います。お互いにびくびくして。
「今日はその話はしない」という日をつくる。最初にそう宣言して訪問する。
世間話ができたら花丸、というかんじでいけるとよいと思います。
質問
飲んだ状態での電話について。「さめたらまた話しましょう」と伝えるのですが、でもつらい・・・という言葉に、どう対応したらよいか悩みます。
チアキの回答
気にかけるやさしさが質問から伝わってきます。
「ブラックアウト」といって、本人は覚えていないこともよくあります。電話をかけていることを忘れたり、曜日感覚や時間感覚もわからなくなっていることも。
酔っ払っての絡み話が1時間…わたしだったらスピーカーホンにしておきたいと正直思います…。
支援者側が負担がない範囲で聞く、という対応もありだと思います。時間をくぎり、最初に、次の予定が○○に入っているのでそれまでの時間お聞きしますね、と伝えてしまうなど。
「酔っ払っているのでお電話切ります」「電話切りますよ!」というかんじよりも、「次の面談の時間なので…」と穏やかに切ってください。どうにも切れないときには、まわりのスタッフに協力要請して、「○○さんお電話ですよー!」などと電話口にも聞こえる声で言ってもらう方法もあります。
お酒は、抑制をはずします。普段は言わないこと、しらふでは言いたくないことを言ってしまっているかもしれません。そこは理詰めにしない、ということも大切です。
質問
依存症の人の「死にたい」にどうしたらよいか。例えば、お酒と薬をいっしょに飲んだという電話。さみしいから会いたい…というのかもしれない。行くのか行かないのか悩みます。つい先日は関係機関の人と相談して、行かない選択をしましたが、それでよかったのか…悩みます。
チアキの回答
関係機関との相談ができていることが、まずその人へのサポートになっていると思います。自分がうっちゃりたい(ひとりでなんとか対応しきりたい、解決したい)と、思ったときほど、関係機関、特に他部署との連携をとるのは、すごくいいと思います。
依存症の支援にかかわっていると…たくさんの早いお別れがあります。
振り返ったとき・・・もしかして、もしかして・・・(なにかできたのではないか、と自分のかかわりを後悔…)と思うけど、そのときに考えた選択は全てやった、支援者は全能ではない、万能ではない、命をコントロールすることはできない…。アディクションをコントロールすることはできない…。
突き放すということではなく、それを自覚しておくのは大切だと思います。
電話の先の相手の方を、自分だったら・・・と置き換えられる(質問者の)感受性があるので、困ったときの電話先に浮かぶということだと思います。それが、落ち着いたときに来てくれるようになることにもつながります。
ゲートキーパー研修*はやっていると思います。
緊急対応としての<110番、119番>など、必要な場合の緊急対応をすることは添えておきます。
いずれにしても、もやもやを共有してくれるサポーターをたくさんつくることが大事で、そのことで、ご本人も、一人ではなく、いろんなところにつながれることになるのかなと思います。
チアキ
関西→関東、精神科ひとすじの看護師。
ぷるすあるはの制作担当、絵本ではお話と絵を担当しています。