最近、耳にすることが増えた「ピアサポート」について。ピアサポートに長くたずさわってきた内布さんに、ご自身の考えや経験を寄稿[きこう]していただきました。

言葉を超えて支え合う。「ピアサポート」の温かな本質
日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構
副代表理事 内布智之
1.なぜ今、ピアサポートの言葉を整理するのか
ここ最近、日常的に「ピアサポート」という言葉を耳にすることが多くなりました。私が障害者福祉[しょうがいしゃ ふくし]の世界に身を置いていることも理由の一つでしょう。しかし、約15年前に私が地域活動支援センターのピアサポーターとして働き始めた頃は、どこか特別感の強い言葉でした。
今日の日本において、「ピア」「ピアサポート」という言葉が持つ意味を整理してみます。 カタカナ語の「ピア(peer)」は、日本語で「仲間・同じ体験を持つ対等な立場の人」と訳されます。もう少し細かく見ると、「仲間」とは精神疾患[せいしんしっかん]や障害を持つ者同士を指し、「同じ体験を持つ対等な立場の人」とは、精神的な苦悩を経験した者同士の対等な関係性を意味しています。
ピアサポートの本質は、単なる「傾聴[けいちょう]」や「孤独感[こどく]の軽減[けいげん]」にとどまりません。お互いに「自らの回復力」を信じ、「自分の人生の責任」を取り戻し、「自己再生能力」を高め合っていく支え合いにあります。
私が言葉を整理したい理由は、「ピア」を単なる精神疾患・障害の当事者として表面核に捉えるのではなく、人間の深い精神活動における「苦悩[くのう]を感じ、経験した者同士の対等性」としてとらえ直したいからです。
2.ピアサポートにたずさわる専門職に関する考え方
昨今、ピアサポートにおける専門職の表記や職務[しょくむ]内容の整理が進められており、その職務範囲は広がっています。一方で、一人ひとりが持つピアサポート観には違いも多く、私一人が定義できるものではありません。そこで私個人として、各名称が表す意味を整理してみました。
- ピアサポーター: 有償・無償[ゆうしょう・むしょう]を問わず、広い意味でピアサポートを提供する人
- ピアスタッフ・ワーカー: 有償(雇用契約[こよう けいやく])を前提に、定められた業務の中でピアサポートを提供する人
- 精神障害ピアサポート専門員: 『全米ピアサポートスペシャリストトレーニングマニュアル』の日本語訳を基に、研修の企画・実施を行う法人組織が認定した資格者(雇用契約を結ぶことを前提とした研修内容)
ここで確認したいのは、ピアサポートには効果を発揮[はっき]しやすい場所や場面があり、当事者が求める内容(リカバリーストーリー、対話、アドバイスなど)にも違いがある点です。そして、ピアサポート専門職の側にもそれぞれ得意分野が存在します。
このように区分したのは、私自身が無償・有償それぞれの良さを実感してきたからです。活動を始めた当初、職場にピアサポーターは私しかおらず、「ピアサポートとは何か」を議論することすらできませんでした。私が所属する「精神障害者ピアサポート専門員研修機構」の設立時にも、資格名称の決定には多くの時間と労力をついやしました。
私は、無償・有償の双方のピアサポートが必要だと考えています。無償のピアサポートには、意図しない自然発生的な温かさがあります。有償のピアサポートには、決められた時間や場所で目的に合わせて選べる利点があります。互いに異なる強みを持っているのです。
3.ピアサポートが生み出す「3つの核心[かくしん]的な効果」
① 【共感性】「理解してもらえる」という体験
ピアサポートの関係においては、「共感性」を通じて互いに理解し合える共通の感覚が存在します。幻聴[げんちょう]・妄想[もうそう]・うつ・躁[そう]などの厳しい精神症状や苦悩を経験したことが、その根底にあります。当事者同士で交わされる言葉は単なる記号ではなく、感情そのものの交流となります。これは経験のない医療・福祉職者には立ち入れない領域であり、ピアサポート専門職だからこそ発揮できる特別な共感性です。
② 【安心感】孤立を解消する「心の安全基地」
人は強い精神的苦悩を抱えると、現実世界からの孤立感・孤独感を強め、何層もの不安にとらわれてしまいます。寝ても覚めても不安のハリケーンに巻き込まれる日々が続きます。しかし、同じような世界観を共有できる存在が現れたとき、深い安心感が生まれます。孤独感の解消には「一方的な傾聴」よりも、「共に孤独の経験を語り合うこと」が効果的です。「自分一人ではない」「苦悩の世界にいるのは自分だけではない」と感じられることで、心の中に「安全基地」が構築[こうちく]されます。
③ 【ロールモデル】未来への希望となる「生の体験知*」
絶望の淵にいる人が、目の前で希望を見出すロールモデルに出会ったとき、自らの回復力が動き始めます。「自分の力で、自分らしく生きる」ことを実践している人を間近で感じることで、「自分にもまだできることがある。苦悩を受け入れ、乗り越えられる」と確信できる瞬間が訪れます。辛い闇[やみ]の中で出会う「生きたロールモデル」の言葉は、本や映画以上に魂[たましい]を揺さぶるのです。
*体験知:体験から得た知識や知恵
4.私のロールモデルのご紹介
〜「希望の花束」たくさんの希望の種が芽を出し苗になり、成長して蕾[つぼみ]をつけ、花開く〜
約20年前、私は熊本県人吉市の地域活動支援センターでピアサポーターとして働いていました。当時の私は精神的には安定していたものの、「ピアサポーターとしてどうあるべきか」という役割への葛藤[かっとう]と苦悩の渦中[かちゅう]にいました。
業務を終えた夕刻、施設内のPCに向かい、すがるような思いでピアサポートの学びの場を探し続けていましたが、検索しても求める答えにはたどり着けずにいました。 そんなある日、「元気」「リカバリー」「学び」という3つのキーワードで検索してみたのです。
画面に現れたのは、わずか1週間後に鹿児島市で開催される「リカバリー」をテーマにしたワークショップの案内でした。「これだ」と直感した私はすぐに事務局へ電話をかけ、参加を申し込みました。電話口で優しく対応してくださった方は、後に私の活動を広げていくうえで、かけがえのないロールモデルとなります。
緊張と期待を胸に訪れた鹿児島でのワークショップでは、温かく素敵な空間が広がっていました。あっという間に過ぎた胸躍[おど]る2日間。それは私自身の「リカバリーの扉」と「ピアサポートの道」が開かれた瞬間でした。
手渡された修了証には、一束の花の絵が描かれていました。私が「希望の花束」を受け取った、記念すべき瞬間です。 このとき胸に灯った温かな光こそが、「全国の隅々[すみずみ]にまでピアサポートによる『希望の花束』を届けていきたい」と決意した、私の活動の原点です。
5.素敵なピアサポートを提供してもらえる場所にたどり着くには
ピアサポート専門職と出会いたいときは、まず「ご自身がどんな支援を求めているのか」を考えることが大切です。ピアサポートにはそれぞれが得意とする分野(医療面が得意、福祉面が得意など)があり、一人の専門職がすべてをカバーできるわけではありません。最近では、Webサイト等でピアサポート専門職の在籍を公表している事業所も増えています。
良い出会いを得るためには、信頼できる人に相談したり、ご自身のペースで情報を集めてみてください。ピアサポートを求めて動き出したその瞬間から、あなた自身のリカバリーの道はすでに始まっています。
6.ピアサポートに関する書籍のご紹介
●『精神障がいピアサポーター 活動の実際と効果的な養成・育成プログラム』
相川 章子【著】中央法規出版
●『障害ピアサポート 多様な障害領域の歴史と今後の展望』
岩崎 香【編著】中央法規出版



