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Q42. 一人暮らしをしたい大学生の娘ーゆるゆる子育て実践編

Q42. 一人暮らしをしたい大学生の娘ーゆるゆる子育て実践編
2022年11月28日 pulusu

ゆるゆる子育てを担当している公認心理師・臨床心理士おがてぃが、子育ての相談に回答するコーナーです。

 

質問タイトル:19歳のADHDの娘を悲しく思っています
年れい: そのほか(大学生)

質問内容

こんにちは、はじめまして。19歳の娘を持つ母です。娘がADHDと書きましたが、まだ確定診断を受けていません。ただ、小さい頃から鞄、机の中が極めてぐちゃぐちゃ、心が弱く、軽く注意されただけでもチック症状がありました。
今年大学に入り、下宿しても床が見えないほど服、ゴミが散乱、ベットの隙間には食べた後のプリンカップとソースの付いたスプーンなどが多数挟まり、食卓の上にはカビの発生したペットボトルが散乱。本当に壮絶な感じで、本人も自分はADHDだと確信していると言っています。娘は、人の話を聞いていても内容が頭に入ってこないとも言っています。元夫がアスペルガーが酷く、何も相談が出来ず、1年に一度も連絡をしてこず、2次障害の鬱と借金癖が酷く結婚当初から別居をしていました。そういうことで私はシングルマザーとして20年、生活費も全て独りで頑張ってきまして、娘もそれを判っていながら、そもそも大学は下宿は資金的に無理(通えない距離ではない)のに無理矢理下宿したいと言いました。あまりに強硬に言われたので1年間のみ、と言う約束で下宿させましたが「毎晩友人達とパーティー」出来る楽しさから、大学4年間全部独り暮らしをしたいと言います。先月私はガンの再発と心臓の手術を近々にしなくてはならなくなり、そんなに働けなくなるので娘に約束の期間しか下宿費用は払えない、と懇願しましたが、それなら縁を切る、母親が死んでも自分は一人暮らしがしたい、と言い始め、連絡を殆どしなくなってきました。独り暮らしをする前は、片付けは出来なくてもとても明るくて素直な子供でした。
私はなんとなく、ADHDの病気のある脳が、「楽しい自由な生活」を知ってしまい、たとえ優しく育ててくれた母であっても、自分の楽しみを絶対的に優先する、と言うことなのだろうと直感しています。
自分の病気が酷くなる前に、娘がかたづけられないと言うことに関して、(まだトレーニングできないまま下宿となってしまい(高2でADHDと気がつきましたが受験期で勉強を優先)大学に入ったらトレーニングを、と思っていたのですが。)なんとか今年1年は娘を病院に繋げてカウンセリングと指導を受けさせたいのですが、もう一つ、「母親が大変なのだ」という思いやり、わがままを自重するようにどのようにしたらADHDの娘が理解してくれるのか、すみませんが、ADHDの娘を片付けられるように、社会で行きやすくなるように行動療法をして下さるところや、娘の偏った考えを改善して下さる方法を教えて下さる場所はないでしょうか、宜しくお願い致します。

 

おがてぃの回答

 

ご相談いただきありがとうございます。
娘さんに相談者さんの状況を理解してもらうことが難しく、悲しい気持ちになられているのですね。シングルマザーとして子育てされてきたことや、ガンの再発、心臓の手術など様々なことがあることを考えるとお辛い気持ちになられることは無理なからぬことかなと思いました。

 

今回のご相談ですが、現状起こっていることとして、ADHDの症状として起こっている場合と、また別の影響があって起こっている場合、それぞれが影響しあっている場合など、いろいろな可能性があるなと思いました。なので、今回は少し娘さんに対する理解を深める、理解の視野を広げるということを少ししてから、関わりについて考えていければと思いました。

 

まず、ADHDの症状として起こっている場合ですが、ADHDの症状はすでに相談者さんもご存じかと思いますが、大きく分けると「不注意」と「多動及び衝動性」の2種類があります。
今回下宿先で物が片付けられないということがあったり、人の話を聞いても頭に入ってこないということが「不注意」の症状としてあらわれているのかと思いました。また、「ADHDの病気のある脳が、「楽しい自由な生活」を知ってしまい、たとえ優しく育ててくれた母であっても、自分の楽しみを絶対的に優先する」というところが「衝動性」というところに当てはまると考えられたのではないかと思いました。
もし、これらがADHDの症状から生じているのであれば、一旦受診して薬物療法や生活面の困りを解決するためのアプローチをしていくという方法もひとつあり得るかと思います。ただ、一方で他の問題の影響もあるかもしれないので、ここで先入観を持って関わってしまうと思わぬ落とし穴にはまってしますのではないかということも危惧[きぐ]しています。

 

まず、片づけができないという点に関してですが、他の可能性として、例えば視覚から入る情報の整理に苦手さがあると「どこにどう物をしまうと整理できるのかがよくわからない」「順番に並べることがそもそも苦手」などが生じるので、上手く片付けられないことがあります。
また、感覚的な鈍さなどがあると片付けが必要だという認識がズレることがあり、例えば「嫌な匂いがしたら片付けたり、洗ったりする」ということが他の人と違う基準になっていることがあります。
「他者から模倣[もほう]して学ぶことが苦手」という場合もありまして、その場合は生活習慣として片付けを身につけることがそもそも苦手ということがあり、教え方にも工夫が必要となります。

 

いわゆる特性以外の影響もあるかもしれません。
今回親子の関係が上手くいっていないことが書かれていますが、親元を離れて一人暮らしされたお子さんが親御さんに反発することはADHDでなかったとしても生じることがあります。思春期にいわゆる反抗期があることはご存じかと思いますが、その延長として自立していく際のステップとしての親子の対立が生じる場合があり、また親子関係よりも仲間関係を優先するというのは、この年代に特徴的な行動のひとつでもあるかと思います。
もちろん、現実的に経済的な難しさや、相談者さんのおかれた状態を理解するということが難しいという点では大変な困りごとですが、成長の過程のひとつとして通っていく段階の可能性もある、ということは理解していておけるとその後の対応も少し変わってくるかと思います。

 

今回はいくつか例を上げましたが、上記だけでなく、他にもお友達や別の特性、学校での問題など様々な影響がある可能性があります。また要因が一つとは限らないので、それぞれの相互作用なども考慮しながら娘さんの言動を理解していけるとよいのではないかと思いました。

 

上記のように様々な視点から娘さんのことを理解しようとすると、ただADHDの症状が緩和されればよくなるというわけではないかもしれません。だとすると、無理に病院に連れていって治療を受けさせようとしても、そもそも連れていくこと自体が困難であることや治療が中断してしまう可能性、お子さんが主体的に取り組んでくれないことなどが想定され、より親子関係が悪化してしまうことがあり得るかもしれないと思いました。

 

ただ、じゃあこのまま何もしなくてもよいかというとそうではないと思いますので、まず受診に至る前にできるとよいこととして「お子さんと話し合える関係づくり」が大切かと思いました。

 

その「話し合える関係」を作っていくことを目標していくのであれば、理解に基づいた配慮がそれぞれ必要になるかと思います。もしお子さんがADHDであるとしたら、「短いセンテンスで」「具体的に」「わかりやすく」といったような伝え方が配慮になりますし、忘れないような工夫も必要かと思います。
また、その他の影響として、例えば視覚認知の影響を考慮するのであれば「部屋の構造化を手伝う」「片付けをする基準を設ける」などが関わりの工夫となります。

 

思春期や自立過程の影響であるなら
「相手の言い分も考慮する」
「アドバイスは提案型にしてするかどうかは相手にゆだねる」
「自己選択、自己決定する余地を残す」
ということかと思います。

 

現状ですと経済的な理由から下宿を続けることが難しいということは早めに理解してもらわないといけないことかと思います。
できることなら先ほどお伝えした「話し合える関係」になれてから話し合うのが望ましいのですが、現実的にそれを待っていると間に合わないということもあるかと思いました。
その場合は
・一旦下宿を続けるためには月々いくらくらい必要なのか
・そのお金を娘さん自身で用意することができるのか
・相談者さんがサポートしできる限度はどこまでなのか
・いつまでにそれを決められるとよいのか など
期間を決めてお子さんに考えてもらうことが必要かと思います。

 

そして、この話題がお互い冷静に話し合えないということであれば、一度メールやSNSなどで必要なことをお子さんに伝え、返事をもらう期間を決めて、それまでは待つという対応ができればと思いました。

 

これからこういった相談者さんの言うこと聞かないということは増えていく可能性があります。ただ、それは独り立ちしていくためのステップとして必要なことかもしれませんので、こういった機会を活用しながら、「お子さん自身が自分の人生の中で生じた問題を自分で乗り越えていく」という練習をサポートしていければと思いました。

 

難しいとは思いますが、相談さんご自身のお身体の方も大切にしていただきながら、取り組んでいただければ幸いです。

おがてぃ
普段は民間企業で心理職として仕事をしています、3児の父です。
公認心理師。臨床心理士。

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