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作者チアキインタビュー『生きる冒険地図』(前編)

作者チアキインタビュー『生きる冒険地図』(前編)
2020年2月4日 pulusu

2019.5刊行『生きる冒険地図』(学苑社)
作者チアキがこの本についてじっくり語ります。前後編のコラムの前編です。

 


目次


《前編》
・どんな本ですか?
・ページについて教えてください[1]
『学校生活』
『家族へのキモチはいろいろ』
『じぶん家観察』
『自分の体調を知る』
『広い世界が待ってるし』
・どういうふうに使ってほしいですか?

《後編》
・子どもに渡すときに心にとめておくこと
・何歳くらいから?大人が読んでもいいですか?
・ページについて教えてください[2]
『大人を見つける冒険ー危険な大人を見分ける』
・ユニークなビジュアルと表紙のこと
・出会ったことのないミルとイルへメッセージを

学校では習わないけど今日生きるのに必要な知恵を盛り込んだ本

 

ー『生きる冒険地図』はどんな本ですか?

 

生きる冒険地図はサバイバルブック。
子どもにとって、10代を生きぬくことって、大海原を北極星をたよりに航海[こうかい]するとか、エベレストに登頂[とうちょう]することくらいムズカシイこと。そんなとき、地図とコンパスがいる。生きることそのものが冒険やし、生きることに迷ったときの道しるべであってほしい、地図を持って歩んでほしい、と思ってこの名前にしました。

 

ーコンパス?

 

コンパスはココロのコンパス。迷ったときに動き出すという設定です。
ピンチのときに、ページをめくってもらって、どうやって攻略したらよいか、ヒントのところを照[て]らしてくれる役割なのが、このコンパスというアイテムです。

 

中学生ミルと、小学生イルのきょうだいがナビゲーターとして登場します。まわりに頼[たよ]る大人がいない、子どもたちだけでがんばってなんとか毎日をくらしている…という設定です。
ごはんがないときどうしよう、家族とのこと、信頼[しんらい]できる大人って?自分の体調やココロのこと…学校では習わないけど、今日必要な知恵を、コンパスとか、開いたページに、いろいろ盛り込んである本です。

 

ーチアキの言葉のなかには、がんばるとか、がんばらなくていいとか…そういう言葉がよくでてきますが?

 

子どもが子どもでいられるって、当たり前のようで当たり前じゃない。
p16に「子どもが子どもであるための書」とメッセージを書いてますが…

 

 

本に書かれているミルとイルは、もう十二分にがんばってるから、その子たちに、もっとがんばれとは簡単に言えないです。
ギリギリがんばってる、それでもなおかつSOSをださないから…
子どもたちには、がんばりを認[みと]めつつ、だけど、ほんとに困ったときには、大人のことは信用してなくていいから頼ってほしい、と思います。
イヤなことをイヤって思っちゃダメと思っている子もいます。自分の家族は自分が守るという責任感をいっぱいもっている子もいます。
でもそれは子どもの役割じゃないよと、がんばってるんやけど、がんばらなくていいとこは力抜いていいよ、と伝えていきたいです。

落ち着かない家で育った自分が子どもの頃から試行錯誤してきたこと

 

ー具体的なページについて教えてください[1]
(いくつかピックアップしました)

 

『学校生活 ①持ちもの・イベント 攻略 ②ピンチの時 攻略』p6-9

 

 

大人の人へ…理由をきいてください

 

小学校、中学校って、学校に行ってる選択[せんたく]をしている子は、学校が家以外のほとんどの時間をしめてます。
まわりにサポートしてくれる大人がいないと、持ち物の準備とか、イベントや行事でお弁当作らなくちゃとか、毎日がピンチの連続…。
私自身も家が落ち着かなくて、忘れものをしたくてしてたわけじゃないけど、大人のサポートが必要な、絵の具やお習字道具、急にサランラップの芯[しん]がいるとか…これはいつもネタにしてるけど…持ち物が準備できないことがたくさんありました。
同じような状況にいる子のなかでは、忘れ物でおこられてめげちゃう子もいます。そんなことで学校がキライとかツライはもったいない。忘れ物は子どもたちのせいじゃないので、あんまり自分のことを責[せ]めないでと思います。

 

私が小学校5,6年生の時の担任の先生が、鉛筆や箸[はし]とかなんでも入っているボックスを準備してくれていました。忘れ物しても一切しからない先生。小学校のときの先生は、その先生しか記憶にないくらいですが…おこられないって学校に行ってもいいんだってほっとする…それで学校に行ってたなと思います。

 

なんとか知恵と工夫で、自分で準備できる持ち物は準備して、できなくてもめげるな、と子どもには伝えたいです。
大人の人には、忘れ物には子どもなりに理由があるから、頭ごなしにしからないでを伝えたいです。それを伝えたくて、学校生活の巻はたくさん書いています。

『家族へのキモチはいろいろ』p12-13

 

家族だからって気持ちが全部通じ合うっていうのは、大人の幻想[げんそう]

 

親と子も人と人。家族だからといって通じあわない。
家族に病気や障がいがあると、子どもの気持ちをくみ取る余裕がないかもしれません。子どもが、そういう親御さんをウザイ、病気や障がいがあってうっとおしいと思ったとしても、外では「あなたががんばらないとね」とか「そんなこと言っちゃだめ」と禁止されてることが多くて…子どもたちはそれで言葉を失っていきます。

 

子どもたちには、ポジティブなきもちもあっていいし、ネガティブなきもちもあっていいし、あいまいな気持ちも、割り切れない気持ちも、あっていいんだよ、を早いうちから伝えてあげたい。そういう気持ちをもつ自分をいやだと思っちゃう前に、あーそういう気持ちもあっていいのか、て思って生きぬいてほしいなと思います。

『じぶん家観察』p14-15

 

 

サインを知って、自分を信じて、自分も家族も守る

 

なかには、家に暴力がある家もあります。
自分のドキドキ、いやだ、こわい、っていう気持ちは自分を守るアンテナ、サイン。自分のことを信じて、その場からとりあえずはなれることが、自分も家族も守ることになります。

 

どんなときに、ドキドキするかな、というのを落ち着いているときに観察しておきます。調子がいいとき、悪いときのサインってどんなかんじ?を観察します。
顔色をうかがう、ってなっちゃうと、いやなかんじになるけど、観察だったらちょっといいかな。一緒に暮[く]らしている子どもたちはよく知ってます。備えておけると、天気予報みたいでいいかもしれません。

『自分の体調を知る』p34-35

自分の体調を優先してもいいんだよ

 

親御さんが余裕[よゆう]があって子どもたちの変化に気づける環境があったら、頭がいたい、お腹がいたい、をうまくいえなくても、調子が悪そうだからといろんなことを親御さんがたずねてくれます。

 

まわりに頼れる大人がいないと、自分の異変[いへん]は自分で気づかないといけないです。
そしてそれをだれかに伝える作業も必要で… そのときのヒントにもなるといいなと思い、このページをつくりました。

 

自分のことを気にかける時間もないくらい忙しい子どもたちが、自分の体調を優先してもいいんだよ、というメッセージでもあります。
いつも、きょうだいや親御さん、家の人のことばかり気づかったり、学校でも気を使ったりしているけど、そればかりじゃなくて、自分の体調を気にかけてほしい、ちょっとしんどいなという声に耳を傾けてほしいと思います。
熱があるかな?息がくるしいかな?など、病院に行くとたずねられることでもあるので、予習にもなります。この本を指差してもらってもいいですね。ミルとイルのような子は、子どもたちだけで病院に行かないといけないシチュエーションもあります。

 

自分も、しんどいのがなんでしんどいのか(自分で気づくのが苦手で)、いつも熱もはかりそびれてしまいます。家に体温計のない家で育ったので…今だに熱をはかることがルーティーン化しません。
子どもたちには、「しんどいときには熱はかりなよ」と言っています。
自分の体調を知ることは生きる知恵と工夫。「自分を守れー」って。

『広い世界が待ってるし』p30-31

 

今、人生終わりにしようて思うくらいしんどくても、なんとかふんばってや…

 

このページは明るいメッセージやけど…
中学まで、勉強しとけよ(オール3くらいはとっておいてほしいな)、とシビアなことも書いています。というのは、高校に進学した方がより広い世界が待ってることが多いし、行きたい学校に行けると目の前も明るくなったりするので。

 

広い世界が広がるって、今すごくしんどい子どもには、そんな言葉は届かないかもしれない…。
だけど、私は、少しずつ自分の行動範囲が広がることで、いろんな人との出会いがあったり、家ではできない経験をすることができて、だんだん楽になっていった体験があります。
小学校、中学校は、徒歩で行けるような本当にせまい世界、中学校は持ち上がりの代わりばえしないメンツやし、家も近所だから家の事情も筒抜[つつぬ]けだったりするけど、私は、高校で校区外にでたら一気にラクになりました。

 

子どもたちへ「広い世界が待ってるねんで」「今、人生終わりにしようて思うくらいしんどくても、なんとかふんばってや」って…。
大人の人には、点で見る、点で支援[しえん]ではなくて、その子の未来はその先につながっていると思って、見守ってもらえたらなと思ってこのページをつくりました。

子どもの手に取れる場所へ置いてください
…どんな大人にもとれる子どもたちの応援のアクション

 

ーどういうふうに使ってほしいですか?

 

この本は、大人と子どもをつなぐ地図でもあります。
あの子やこの子のことが書いてあります。大人にとっては子どものピンチなことを知るためのガイド。
子どもはだれかの大人とつながるための地図であってほしいです。

 

この1,320円の本を、子どものおこづかいで買うのは高いので、大人の方が買ってくださって、どの子も読める、子どもが集う場所においてくださるアクションを取ってくださると嬉しいです。学校、児童館、図書館、お好み焼き屋さんかもしれないし、子ども食堂とか塾とか…
どんな大人にもとれる子どもたちの応援のアクションで、そのひとりの大人のアクションで、多くの子どもたちがほっとできるかなと思います。

 

(いろんな家族、いろんな大人の事情があります。頼れる大人がまわりにいるいないにかかわらず…生きることは冒険、サバイバルの連続。ひとりでも多くの子どもへ届けられたらと思います。)

》後編へ

 

(2020年1月 チアキ、音楽家藤木さん、カメラマン聡さん、キタノでの座談会をもとに編集をくわえてコラムにしました。後日、インタビュー映像もアップする予定です)