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精神障がいをかかえる親同士で支えあう場が子育ての希望に―多摩在宅支援センター円のPCG事業から【前編】

精神障がいをかかえる親同士で支えあう場が子育ての希望に―多摩在宅支援センター円のPCG事業から【前編】
2016年8月3日 pulusu

病気と子育て子どもの生活─声をきいてください

取材記①─by Suzuki Yo & pulusualuha


 

PCG事業の概要

NPO法人多摩在宅支援センター円では、平成20年から、精神障がいをかかえた母親と子どもたちを支援するためのPCG(Parent Child Group)事業(以下、PCG)を行っています。

PCGでは、月1回、精神障がいをかかえている同じ立場の親同士によるグループミーティング「太陽の未来」と、子どもグループ「おにぎりグループ」を別室で実施します。親グループは、看護師や精神保健福祉士などの専門職が参加し、ファシリテーターがグループを進行します。ふだん人には話せない病気のことや子育ての難しさ、子どもを施設に預けている悲しさなどを、安心して話しあえる場です。一方、子どもグループは、保育経験者や大学生のボランティアスタッフと一緒に遊んだり、軽食づくりを手伝うなど、あたりまえの子どもらしい活動が保障される場です。

今回、PCGに4年間参加し、卒業されたメンバーの方と、理事長の寺田悦子さん、訪問看護師の小野加津子さんに、PCGで得たことや変化、また今後、地域で親子を支えていくにあたっての課題をお伺いしました。「親グループ」に主に焦点をあてた記事です。

目次


【前編】グループミーティングでの支えあいが生み出す変化

1.PCGはどのような場? ―安心して不安を話せる場、アドバイスをもらえ希望がもてる場
2.PCGがもたらす変化 ─語ることで新たな自分が生まれる
3.子どもとの関係が変わる ─自分自身に余裕がもてるようになって

【後編】世帯として支えるために必要な支援

4.世帯として継続的に支える仕組み ─さまざまな人が、さまざまな場で
5.これから地域に求められる支援とは ─親子を孤立させない

*円について
*精神科訪問看護について


 

【参加されたメンバーさんのプロフィール】

Aさん:40歳代。中学生の娘さんは施設で暮らし、定期的に自宅に外泊しています。
Bさん:40歳代。小学校中学年の娘さんは施設で暮らし、定期的に面会しています。今後は外泊も始まる予定です。
Cさん:40歳代。小学校低学年の長男と5歳の次男がいます。長男はこの4月に自宅に戻りました。次男は施設で暮らしています。


 

1.PCGはどのような場? ―安心して不安を話せる場・アドバイスをもらえ希望がもてる場

 

Aさんは、子どもが生後3か月のときに施設に入所になりました。自分で子どもを育てたいと強く思っていたAさんは、同じ境遇の人と話したいと願っていました。「当時から都庁や児童相談所に、同じ立場の母親の集まる場所がないかと問い合わせていましたが、この近くにはないと言われました」

Aさんは「円」の訪問看護を受けていましたが、「円」が立川で新しくPCGを立ち上げることになり、参加することになりました。「最初の会のときはうれしくて、涙が出ました。自分と同じ境遇の人がいたんだ、やっとつながれたと思いました。会では子どもと離れ離れになったさびしさをわかちあえました」

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精神的に不安定なときに子どもが施設に入り、よくなると一緒に暮らす生活をくり返しているBさんも、初回から参加しました。「子どもと離れているということが共通点でしたが、みんな困っているから助けあって、絆を深めていきましたね。子どもと意思疎通をしようとしてがんばっているけれども、なかなか伝わらず、距離がいつになっても縮まっていかない。そういうジレンマや不安を話しあえる場でした」

社会における精神障がいへの理解が少ないため、なかなか友達もできません。子育ての不安を相談できる人がいないことも、みんなの切実な悩みでした。グループでは、そうした孤立感もわかちあっていきました。「保育園のママ友に実はうつ病だって話したことがあるんですが、手のひらを返したように後ろを向かれてしまって。現実ってこんなものなのかと悲しくなりました。子どもと2人きりでいるのはやっぱり不安だし、身体がだるくてなかなか動くことができませんでしたが、それが薬のせいだと考える余裕もありませんでした。そういう思いを安心して話せました」(Bさん)

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どのようにしたら、いつになったら一緒に暮らせるのか。PCGに出会うまで、見通しがもてない期間が続いていたAさんは、こう振り返ります。

「見通しや目標がもてないことが、精神的に不安定になってしまう大きな要素でした。それが怒りに変わってしまって、社会への反発心になっていましたし、子どもから『家に帰りたくない』という言葉を聞くと、つらくてあたってしまうこともありました」

そのような中でPCGは、メンバーや子育て経験のあるスタッフから、どうしたら一緒に暮らせるのかなどについて、アドバイスをたくさんもらえ、希望がもてる場でした。

Cさんも、アドバイスが支えになったといいます。

「私よりも多く参加している人たちの話を聞きながら、自分がどういう状況にあるのかとか、児童相談所や行政の子ども支援の担当者とこんなふうに話しあって進めていけば子どもと暮らせるのだということを考えることができました」

 

 

2.PCGがもたらす変化 ─語ることで新たな自分が生まれる

 

最初の頃のグループでは、社会や行政への怒り、悲しさで涙が止まらず、ティッシュペーパーがすぐなくなったそうです。しかし、2年目に差しかかる頃から、メンバーは変化を遂げていきました。

Aさんは、いつも社会に対する反発心を感じていました。初回のグループに参加したときには、月1回の大事な場に遅れたくない気持ちでいっぱいになり、「駅の表示がわかりにくい」と駅員に苦情を訴え、グループに来てからも怒りを訴え続けました。Bさんは、Aさんの当時と今の変化をこう語ります。

「あのころのAさんは、ピリピリしていたよね…。風船の中から“出よう、出よう”って、一生懸命、穴をあけようと必死だった。でも、なぜか急に力強いお母さんになっていました。風船に穴を開けたのではなくて、入り口から空気がバーッと出た感じでした。落ち着きも出たし。雷からフラワーに変わりましたね」

こんなふうにメンバーやスタッフから「変わったね」と言われたことが、Aさんにとっては大きな支えになったそうです。

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Cさんは、いつもにこにこ笑っている笑顔の素敵な女性ですが、実は笑顔がコンプレックスだったそうです。

「子ども時代にまわりから勉強やスポーツができる妹と比較され、『あなたは笑っているだけでいいのよ』と言われていたから、笑顔がコンプレックスだったのです。でも、グループでそのことをはじめて言えました。それをきっかけに作業所でも自分のことを素直に言えるようになって、自分はなぜここまで言えるようになったんだろうと思えるほど、変わりました」

素直に自分を出せたことは、自信につながったそうです。

 

3.子どもとの関係が変わる ─自分自身に余裕がもてるようになって

 

グループで子どもとの接し方について話す中で、自分の子育てに気づきが出てきます。そして、子どもとの関係にも変化が生まれてきました。

「いままでは、同じ空間の中に一緒にいればそれだけでいいと思っていて、子どもの生活のリズムやコミュニケーションを大切にすることまで頭が回らなかったんです。でも、そういう自分の未熟さに気づきました。一緒に言葉を交わしあったり、一緒に同じ遊びを楽しむ。自分が余裕をもった生き方をしないと、子どもの生活は成り立たない。そういうことがPCGに参加するなかでわかってきたんです」とBさん。

「この前、施設から子どもが外泊で帰ってきましたが、体も心もすごく成長していました。つい最近になってからですが、考えていること、思っていることが、黙っていても表情でわかるようになってきました」

Aさんの子どもとの関係も変わりました。

「小6から中1にかけては、自分も過渡期で、すぐに子どもと一緒に暮らしたいと思っていたので、すごくがんばったんです。でも、子どもがみんなと同じ中学校に行きたいと言ったので、それを受けとめていきました。そこで、すとんと落ちて、子どもとフラットな関係で話せるようになって、関係がよくなってきました。ショックだったので入院したい気分にはなりましたが、地域の支えがあって、乗り越えることができました」

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取材では、いま直面している課題について思い詰めた気持ちを吐き出したり、お互いの変化を喜びあいながら語りが広がり、まさにPCGが再現されているようでした。それぞれがもがきながらがんばってきたことを認めあい、その安心感の中で自分自身に気づきながら、希望を見出し、課題に向かっていく――。一緒にたたかい、歩んできた仲間同士の信頼関係と絆を実感しました。そして、寺田さんや小野さんが、思いつめてしまう気持ちを親身に聞きながら、ふっと気が軽くなるような言葉を発したり、客観的な見方をご自身の言葉で伝えていましたが、そうした関係が、前に向かう原動力になっていることを感じました。

自分たちで支えあいながら、自分たちの課題に向けて取り組んでいく方向へとグループが変化するにつれ、いつのまにかティッシュペーパーは必要なくなったそうです。Aさん、Bさん、Cさんから、同じ境遇の人に向けて、力強いメッセージをいただきました。

「あきらめないで。きっといつか道にたどり着けると信じて、歩んでほしい」「いろんな形があっていい。親子関係を築ける時が来るから、あきらめないでがんばってほしい」

取材・文 Suzuki Yo [writer/KIDsPOWER Supporter]

(後編につづく)

》【後編】世帯として支えるために必要な支援

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