薬物依存症の本人、Jさんの体験談です。
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今25歳です。2度目のダルクにつながり、それから2年半になります。
生まれは関西で、元々はサッカー少年でした。勉強は好きではないけど、学校も楽しく通っていました。
ただ、明るいけど、ほんとは内向的で人見知り。中学校にあがったときに、自分だけ、入りたかった小学校のときからの友人のグループに入れなくて、すごく傷ついた経験がありました。そこから、みんなに好かれたい、きらわれたくないといつも思っていて、誘われたら断れなくて、大事な用事があってもなんとかして行くみたいなかんじでした。
薬物に出会ったのは16歳です。
部活を引退してから、がんばるもの、目標がなくなって、はっちゃけて遊びたいというかんじで、非行グループにいました。高校に入学すると、同級生が仕事をしてお金が入って遊んでいるのを見て、学校がアホくさくて行かなくなりました。結局退学しました。
夜遊びしている自分を母が心配して夜寝ずに待っていて、情けない、思いどおりの自分ではないと感じるのですが、友達に嫌われたくない、仲間はずれになりたくないという思いで・・・そのうちに薬物を使うようになりました。
一番最初は、友達のすすめです。「大麻はタバコより害ないらしいで」という言葉や、やってると言う別の友達もふつうだったので。薬物の教室は、大人の脅し[おどし]やなと思いました。大麻からいろんな薬物を使うようになりました。金八先生が好きで覚醒剤だけはしない、と思っていたのに、抵抗がなくなっていって、使わないとカッコ悪いしと、覚醒剤も使うようになりました。こんないいものがあったのかと・・・この頃は楽しく使っていた時期です。
最初は休みの日に使っていたのが、仕事中、薬物のことばかりを考えるようになって、薬物がないと精神状態がヤバイ。早く使ってスッキリしたい。何ヶ月かの内にはコントロールを失って、だんだん仕事も行けなくなしました。約束も時間も守れない。
(薬を使いたいという)欲求が入ると、お金をなんとか得るために、親をだましたり、暴れたり、家中を探しまわったり。友達からもお金を借りるようになって、ほんとに返す気で借りるのですが、薬入れてから返す方法を考えようと・・でも仕事もしていないし返せるあてもなくて、友達がみんな、はなれていきました。
1人のときはかなしい。やめるぞと思うけど、いらっとしたりさみしかったりの、ちょっとしたことで欲求が入ります。やめたいけどやめられない。なさけない。友人が泣きながらやめてほしい、自分も泣きながらやめる、と言っているのに次の日にまた使っている自分がいました。
気に入られたいからと友達をいっぱい作ったのに、ひとりぼっちになりました。
19歳で逮捕[たいほ]されたとき、ほっとしました。やっとこれで薬物から離れられると。
ダルクに行けば少年院に行かないでいいと聞いてダルクに行きました。
プログラムは右から左へ話が流れるかんじで・・・1年のクリーン(薬物を使っていないこと)で、やめようと思ったらやめられると思い、退寮して単身生活になりました。1回つかまったらもう使わないと思っていました。
でも、半年後には再使用し、もっとひどい使い方になりました。
お金が入ると残さず全部使う。食べるものもないので、万引き、食い逃げ、ひったくり、もうほんとにみじめな生活で悔しくて。薬物をやめることはあきらめてどうにか薬物とうまくつきあいながら生きていけないか、と試したこともありますが、ダメでした。暴力団に弟子入りして男になれるんじゃないかと思いましたが、兄貴の薬物をぬすんで・・・。
2度目の逮捕をされました。
もうどこにいてもやめられないと思っていました。こんなになってもまだ薬物を使いたい気持ちもあったし。そのとき、両親がもう一度ダルクでやり直さないかと言ってくれて、全く知り合いのいない土地の、今のダルクへきました。あとでわかりましたが、家族の方が先に家族会につながっていたそうです。
2度目のダルクで、仲間の姿に感動的なものを、薬物を止め続けられるのではないかという希望を感じました。
昔の生き方をしないように、今、ミーティングで正直に話しています。薬物を使っていたときは人生捨てていました。死ねるなら死にたいと思っていました。今、当たり前のことが少しずつできています。社会とつながり、しらふの生活を楽しめています。希望や目標を探しながら1日を過ごしています。両親ともふつうの会話ができるようになりました。
ボクはボクの成長を感じています。
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本コラムは、埼玉ダルクの講演(平成28年度埼玉県川口保健所管内 薬物乱用防止指導員協議会 2016.6.9/戸田翔陽高校 2016.7.13)でJさんが話された内容をもとに編集し、Jさんの了承の上で掲載しています。
相談先
- ダルク:薬物依存症のリハビリテーション施設
》全国のダルク(日本ダルクのページ)
- 精神保健福祉センター:こころの健康について 専門的な相談ができる公的機関。各都道府県・政令指定都市ごとに1か所(東京都は 3 か所)
》全国の精神保健福祉センター一覧(全国精神保健福祉センター長会のページへ)
- 保健所:[精神保健担当]でこころの健康についての専門的な相談ができます
》全国の保健所一覧 (全国保健所長会のページより)
- 専門医療機関(本人が受診する場合)
薬物依存症の診療を行っている医療機関の情報は、上記、精神保健福祉センターや保健所へ尋ねます
》ご家族の薬物問題でお困りの方へ(厚生労働省のリーフレット):最後のページに相談先、家族会の一覧があります。薬物依存症についての説明、家族の対応について、Q&Aなどの詳しい冊子です。