精神障がいをかかえた親をもつ子どもの立場の方(今は大人になった方)や、障がいを抱えたご本人の体験をまとめたインタビューコラムです
はじめに
母親である私34歳、夫35歳、息子5歳の現在、三人暮らしです。病名は境界性パーソナリティー障害です。27歳の時に夫と結婚し、29歳で息子を出産しました。息子が3歳のときに、病気について初めて伝えました。
(目次)
・子どもとこんなふうに病気について話しました
・病気について伝えたきっかけや想い、迷ったことなどについて
・お子さんと病気について話すことを考えている方へ
・子どもや家族の安心や工夫につながるようなサポートについて
子どもとこんなふうに病気について話しました
息子が3歳のとき、保育園から一緒に帰ってくる途中、息子から「ママはどうしてお仕事をしていないの?」と質問されました。その時に「ママは病気でお仕事が出来ないんだよ」と初めて伝えました。
以前、息子は、私が体調が悪い時や入院した時に「ママの風邪[かぜ]はいつ治るの?」と聞くことがありました。この時も「なんの病気?いつ治るの?」と聞かれましたが、「ママの病気は治らないんだよ。」と伝えました。振り返ってみると、私自身少しあせって伝えてしまい、説明が足らず、息子はとても不安だったと思います。
その後、「病気は治らないけれど、病院に行って、お薬を飲んで、良くなるようにママがんばっているんだよ」と伝えました。どうしても体調が悪く、症状がつらいとイライラして夫や息子に当たってしまうことがあります。そのことについては、「ママがイライラしているのは息子のせいじゃないんだよ。ママね、病気で具合が悪いとき、イライラして怒ってしまうんだ」と伝えたりもしました。
ある夜のことでしたが、体調が悪くイライラした状態で布団に入った時、突然息子が「思いついた!ママ、明日病院に行って、お薬をもらってきたらいいんじゃない?」と話し始めました。驚いたと同時に、とても反省しました。「…ごめんね、ママがイライラしていたから、心配なんだよね。ママ、ちゃんと病院に行くから大丈夫だよ」と伝えました。
息子が4歳の頃。夜、布団に入って寝る前に息子が「ママの病気の夢を見る」と話したことがありました。息子が3歳の頃、私の症状が悪化し、OD(過量服薬)をして入院したことがありました。とっさに、「…ママが死んじゃうと思ったの?」と聞くと、少し大人びた表情で「いろいろ考えちゃった」と悲しそうな顔をしました。「ママ、少しでも病気がよくなるように頑張ってるからね。」と伝えました。息子の不安を分かっていながらも、「ママは大丈夫だよ」って言えないでいる自分が本当に弱いと思いました。
私が日中通っている地域活動支援センターに連れていったこともあります。スタッフも快く受け入れてくれて、息子には「ママは息子が保育園に行っているときは、ここで過ごしていることが多いんだよ。ママと同じような病気の人たちが通っているところだよ。」と説明しました。息子はセンターが好きになり、「また行きたい!」とよく話をします。どの程度理解しているのか分かりませんが、「ママのお友達」くらいに思っているような気もします。
病気について伝えたきっかけや想い、迷ったことなどについて
私の母親は、私を妊娠中に精神疾患を患い、私が幼い頃から入退院を繰り返していました。
私が母の病気について初めて知ったのは17歳です。父から話がありました。私としては、「もっと早く知りたかった。説明して欲しかった」という気持ちでした。なぜ母は朝起きて来ないのか、部屋に閉じこもって出てこないことがあるのか、母は一体何を考えているんだろう。子どもながらに強い不安を抱えていましたし、それが一般的な母親の姿ではないと知っても誰かに聞くことが出来ませんでした。
私自身が精神疾患を抱え、息子を出産して育てていく上で、病気のことを伝えたいと思いましたし、だれかに伝えてもらうのではなく、私自身の言葉で伝えたいと思いました。子どもだから分からないのではなく、子どもだからこそ親の気持ちにはとても敏感で、分からないからこそ不安を抱えると思います。もちろん今大人になったからこそ言える部分はありますが、母が病気であることも、母自身の不安な気持ちも、私は母から聞くことが出来たら良かったと思っています。
息子に病気を伝える上で迷ったことは、私の病気のことを周りの大人にどこまで伝えるのかを限定した方がよいのか考えていました。精神疾患にはどうしてもまだ偏見[へんけん]が根強い部分がありますし、私は自分を守ることが出来るけれど、息子は自分を守る術を持たないので、とても心配になっていました。しばらく悩みましたが、私自身が病気については周りの人にオープンなのでそのままで行こうと思いました。保育園の先生方は知っていますし、他の保護者の方にも敢えては話しませんが、特に隠してもいません。
息子は3歳から、市の児童発達支援センターに通っています。担当の臨床心理士[りんしょうしんりし]の先生には、息子の発達や気持ちのことももちろんですが、私自身の病気や子育ての不安、息子に対する気持ちを相談しています。幼い頃の私には、家のことも母のことも自分の気持ちも、相談できる大人がいませんでした。息子がこれから成長していく上で、「私」について悩んだときに、息子が自分の気持ちを相談できる大人が一人でも傍にいてくれたらよいと思っています。
お子さんと病気について話すことを考えている方へ
大切なことは「子供が自分の気持ちを伝えられる」ということなんだと思います。今は、息子が寂しい気持ちも悲しい気持ちも不安な気持ちも、私に伝えてくれることで少し安心しています。病気はすぐには良くならないですし、その中で子供はどんどん成長していきます。病気について話すことも大切ですが、毎日子供を抱きしめて「大好きだよ。大切だよ。」と伝えることもとても大事だと感じています。
子どもや家族の安心や工夫につながるようなサポートについて
最近のことですが、保育園のことについての悩みを抱えました。
児童発達支援センターの先生からのアドバイスで、担当の保健師が中心となって、通院している病院のケースワーカー(精神保健福祉士)と市の児童福祉担当の職員と保育園の先生と連携を取っていただけることになりました。また、地域活動支援センターの支援員の方には、児童発達支援センターの先生と担当の保健師のことをきちんと伝え、私の体調に異変[いへん]が起きて、自分でSOSが出せない場合は連絡していただけることになりました。
支援機関は沢山ありますが、体調が悪ければ悪いほど、だれに助けを求めたらよいか分からなくなります。支えてくれる人たちが繋[つな]がっていることが家族の安心に繋がると思います。
※本コラムは、Kさんからの体験談についてのアンケートへの記述もとに、ぷるすあるはがコラムを作成し、Kさんの同意を得て掲載しています。
かんなさん(Kさん)、ご協力ありがとうございました。