精神疾患の親をもつ子は、もしかしたら同じように精神疾患になるの?
答えは「もしかしたら」です。
なぜなら、人はだれもが精神的な問題をもつ可能性があるからです。
親が精神疾患をもっている人は、他の人よりもストレスからの影響を受けやすいことはあるかもしれません。
でもそれは、必ず子どもも精神疾患をもったり、そのことに対して何もできないということではありません。
引用:Familien-Selbsthilfe Psychiatrie(BApk e. V.) und BKK, 田野中恭子訳, lnformationen für Jugendliche, die Psychisch kranke Eltern haben, ドイツ, 2009
人間が精神疾患をもつことはとても普通のこと。
だれにでもおこりうること。どんな年代でも、世界のどこに住んでいても、あなたのお母さんやお父さん、きょうだい、いとこ、おじいちゃんやおばあちゃん、友達や先生も。だれにでも。
引用:The Children of Parents with a Mental Illness national initiative (COPMI),田野中恭子訳,’When your parent has a mental illness’, オーストラリア, 2015
先日、精神疾患のある親の子どもへの支援をとりあげた番組の中で、以下のような情報が提示されました。
テロップ:「うつ病や不安障害の可能性が高い子ども 63.9%」
(出典)「精神障がい者の自立した地域生活の推進と家族が安心して生活できるための効果的な家族支援等のあり方に関する全国調査」
コメント:「精神疾患の親をもつ子どもの6割が、成人したあと、うつ病や不安障害になっている可能性が高いことが調査でわかりました。」
実際に精神疾患のある方にとっては、子どもを産み、育てることに不安を持たれたかもしれません。親が精神疾患をかかえている、子どもの立場の方にとっては、自分もこの先病気になるのでは、という不安を持たれたかもしれません。
番組でも取り上げられていたとおり、子どもさんたちが、支援が少ない中で、さまざまなしんどさを抱えていることは、成人後のインタビューでも明らかになっています。
しかし、この数字について… 放送時から気になり、このテーマに取り組んでおられる研究者の方々の協力のもと、検証、検討しました。
検証内容については、本ページの後半で詳しく説明していますがが…
「調査結果の表現が妥当ではなく、実際よりも多い印象を与える表現だった」と考えられます。
放送時の数字が一人歩きして、親が病気だと子どもも病気になる、といった印象を与えてしまったのではないかと心配しています。
番組は、まだ社会的に知られていない「親が精神疾患の子どもの支援」をとりあげた、画期的なものでした。
調査からも、健康問題をかかえている人の割合が、親が病気ではない人よりも高く、支援の必要性が高いことが示されています。番組では子どものサポートのための情報や、取り組みについてふれられていました。
多くの方が子どもたちの存在や支援について考えるきっかけとなったと思います。
病気をかかえた親御さんの子育てを応援する取り組みもあります。決して十分ではありませんが、子どもの応援、親、配偶者、家族の応援が、少しずつですが広がってきました。世の中には、親が病気をかかえているけれど、病気になっていない子どももたくさんいます。どんなサポートが役立ったのか、少しずつ研究で明らかになってきています。
病気はだれのせいでもないです。
人間が精神疾患をもつことはとても普通のこと。だれにでもおこりうること。
親も子も、だれもが、病気になっても安心して生活できる。安心して子育てのサポートを得られる。そのために実際にサポート体制が充実していくことが必要です。
精神疾患の親をもつ子どもへの影響に関するデータについて、これまでに調べられているものについて、発信していくつもりです。
さまざまな情報、支援情報も、サイトの中で、これまで、そしてこれからも発信していきます。
支援団体の情報
》精神障がいをかかえた親と子の支援団体
検証内容と結果
データは「精神障がい者の自立した地域生活の推進と家族が安心して生活できるための効果的な家族支援等のあり方に関する全国調査(みんなねっと・2018年3月)」より。うつなどの気分障害のスクリーニングテスト「K6日本語版」を用いたところ、「5点」以上の子どもの割合は63.9%だったという結果より引用とのこと。(番組製作者への問い合わせより)
データを読み込み、番組内のテロップ・コメントについて以下のように考えました。
テロップ「うつ病や不安障害の可能性が高い子ども 63.9%」・コメントについて
1. 調査結果についての表現が妥当ではなかったと考えます
「K6日本語版」の判定については、各項目の合計得点を計算し、5点以上の者を「陽性」とした場合、うつ病を含む気分・不安障害のスクリーニングにおいて感度100%、特異度69.3%、陽性反応的中率25% との研究結果があります。(川上憲人,近藤恭子.うつ病・不安障害のスクリーニング調査票(K 6 /10)の信頼性・妥当性の検証 自殺の実態に基づく予防対策の推進に関する研究.平成16年度厚生労働科学研究費補助金(こころの 健康科学研究事業)分担研究報告書.厚生労働省ホームページ https://jssc.ncnp.go.jp/archive/old_csp/report/ueda16/ueda16-8.pdf)
本調査にあてはめると、陽性とでた<63.9×25%=16%>がうつ病ないしは不安障害と考えられる、となります。この結果をもってして、「63.9%がうつ病や不安障害の可能性が高い」と表現することは妥当ではなかったと考えます。
2. 調査対象に偏りがあるデータであることの説明が不足していました
調査は家族会の全国会員調査ですので、そこに参加するお子さんは、困難感が強い、親と離れられずに悩んでいる、ケア役割を積極的に担っているなど、何らかの偏りのあるサンプルであることが予想されます。
この調査での精神障がい者ご本人の主な病名は、統合失調症80.3%、うつ病3.4%とあり、これを「精神疾患」とくくって表現することにも疑問が残ります。H26年の患者調査では、認知症をのぞく精神疾患の患者数324万人のうち、統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害は23%に過ぎません。なお、気分障害(躁うつ病を含む) が34%です。
この調査に回答した「子ども」の立場の方は、50名とあります。
まとめますと、50名のかたよったサンプルの調査である点の説明がなく、番組においては、あたかも「一般人口を対象とした親が精神疾患の子ども」の統計のように受け取れる提示の仕方でした。
3. 比較対象の提示がないため、発病率について誤解を与えるおそれがありました
親が病気でない子どもも精神疾患になる人がいます。
今回の説明では、病気ではない親の子どもの発病率は一切触れられていませんでした。そのため、まるで病気ではない親の子どもはだれも発病しない、一方、精神疾患の親の子どもは64%程が発病する、と受けとめられるようにも感じました。
上述の「K6日本語版」は、国民生活基礎調査に用いられていて、平成28年度調査で、5点以上は<17.4+7.2+2.5=27.1%>です。つまり、一般国民対象の調査でも5点以上の人は27.1%いるのです。
(ちなみに、ここでは、気分障害・不安障害に相当する心理的苦痛を感じている者は、10点以上となっています。)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/04.pdf
したがって、先の調査報告書の結果を一般国民調査と比較すれば<63.9÷27.1=2.358> で約2.4倍にあたる、ということです。
まとめ
本調査からのデータとしては、以下のような表現が妥当だったのではないかと考えます。
家族会の調査で、親が精神疾患の子どもの立場の方の63.9%に、うつ病や不安障害の可能性も考えられるという結果がでており、これは国民を対象とした調査の2.4倍の値です
「精神障がい者の自立した地域生活の推進と家族が安心して生活できるための効果的な家庭支援等のあり方に関する調査」より。子どもの立場の方50名。主な病名は80.3%が統合失調症)」
番組で今回このテーマを放送してくださったことに感謝しています。
今後も、精神疾患の親とその子ども、家族が安心して生活していけるように共に考え、発信していきたいと思います。
2018年9月20日
北野陽子(ぷるすあるは 代表)
土田幸子(鈴鹿医療科学大学・親&子どものサポートを考える会 世話人代表)
田野中恭子(佛教大学)
長沼葉月(首都大学東京)
上原美子(埼玉県立大学)
吉岡幸子(帝京科学大学)
*精神疾患の親をもつ子どもへの影響に関するデータについて、これまでに調べられてることについて、さらに発信していく予定です。