メンタルクリニック、精神科の病院や診療所での、患者さんの子育て支援について考える特集コラム。
親&子どものサポートを考える会、精神保健福祉士の牛塲さんからの寄稿です。
精神保健福祉士(PSW)による親子の支援ー「医療機関における精神障がいを抱えた親の子育て支援と子ども支援について」
親&子どものサポートを考える会 精神保健福祉士 牛塲裕治(総合心療センターひなが)
精神保健福祉士って?
私は精神科病院の相談室で精神保健福祉士として働いています。精神保健福祉士ってみなさんご存知でしょうか・・・。
PSW、ソーシャルワーカー、ケースワーカー、相談員・・・、いろいろな呼ばれ方がありますが、精神保健福祉士は国家資格の名前なのでここではこれに統一します。
精神保健福祉士はどこにいるのか。
私のように精神科病院にいることもあれば、精神科のクリニック(メンタルクリニック)、精神障がいがある人が通う事業所(作業所やグループホームなど)、最近では市役所の障害福祉の係や学校などでも(スクールソーシャルワーカーとして)働いています。
精神保健福祉士は何をする職種か。
精神保健福祉士は、精神に障がいのある人の暮らしを支えるために存在しています。
一言に暮らしと言っても人それぞれ、暮らしで困ることも人それぞれです。例えば、お金のことや仕事のこと、学校のこと、家族関係、子育てのことなどです。
そのため支え方もさまざま。その人やその人が属する集団、地域に適した形で精神保健福祉士は働きかけていきます。
例えば…
ある人が、精神疾患・障がいがあることを、自分の家族や住んでいる地域など周りに理解してもらえなくて困っていたとしましょう。
そうしたとき精神保健福祉士は、その人本人と直接相談をして、どうやったら病気のことがきちんと周りに伝わるか、一緒に考えます。
一方で、周りの家族、地域の人に精神疾患や障がいのことを説明して、理解してもらいやすくなるよう働きかけたりします。時には、自分よりも地域への伝え方を知っていそうな人(例えば自治会長さんや民生委員さん)に説明をしてもらうようにお願いしてみたりします。
困っているご本人だけではなく、その人の周りに対しても働きかけるという点で、病院の他の職種(医師や看護師)とは少し異なる動きをします。
長々と前置きを書きましたが、精神保健福祉士は病院の中にいて、精神障害を抱えた親と子どもの支援にいろいろな形でかかわれる立場にあると思っています。
障がいを持っている患者さんとそのお子さんが、いきいきと地域で暮らしていくために、精神保健福祉士が医療機関にいるからこそできるかかわりがあると思います。
今まさに子育て中の患者さんやご家族、そして医療機関で働く精神保健福祉士にこそ読んでほしいと思って、この文章を書きました。
親子の支援をつなぐ ~医療機関から発信することの意義~
ある時、医師からこんな依頼がありました。
「担当している患者さん(お母さん)が1歳の子どもと2人暮らしで、おじいちゃんおばあちゃんは近くにいないらしい。生活困っていないか心配だから、相談にのってあげて」と。
相談室でお母さんと面談したところ、子育てで困ることもあるようです。そして、市の母子保健の保健師さんの訪問を受けたこと、市役所の子育て支援の係の保健師さんに相談したこともあるようでしたが、どこの誰に何を相談すればよいのかが良くわかっていないようでした。
私は、お母さんに許可を得て、それぞれの保健師さんに連絡をしました。保健師さんたちも、お母さんが精神科にかかっていることは知っていましたが、病気の細かい状況まではよくわからなかったため、どのようにかかわってよいかわからず、心配していたようです。
精神保健福祉士が関係機関との調整役になることで、お母さんの病気による子育てのしにくさを具体的に地域の支援者に伝えることができ、お母さんが困ったときすぐに相談できて、困りそうなときに周りが気づき手助けすることができる「見守りのネットワーク」を作ることができました。このように…
病院から発信して、精神保健福祉士が動くことで、その親子が必要とする支援体制を地域で作ることが可能になります。
子どもさんの年齢によっては、学校など教育機関とネットワークを作ることもあるでしょう。
病院の中にいるとあまり感じませんが、病院というところは外部からはなかなか声をかけづらい(かけても答えてもらえないという印象を持たれる)存在のようです。だからこそ、病院から発信することの意義は大きいと思います。
平成30年度の診療報酬改定で「精神疾患を合併した妊産婦への指導管理に係る評価」というものが新設されることになりました。
精神疾患をもった妊婦さんに対して、産科や精神科、そして自治体の子育て支援の担当者や保健師など多職種が連携して支援した場合、病院が診療報酬を得られるというものです(いろいろ条件はありますが)。
これは、精神疾患をもったお母さんが子どもを産む時から関係者みんなで支えていく仕組みを国が作ろうとしていると言えます。しかも、そのためには病院から発信していきましょう、と言っているのです。
このことからも、病院からの発信、そこに関与する精神保健福祉士の役割は重要だと感じます。
子どもの「わからない」を言葉にして整理する
私がいる医療福祉相談室には、患者さんご本人が直接相談にくることもあれば、ご家族が相談にくることもあります。
数は多くないですが患者さんの子どももいます。
子どもが一人で相談室にくることはそうそうできないので、来たとしても親と一緒のほうが多いですが、親が診察に行っているあいだに、相談室で子どもさんとお話ししたこともありました。その時の話題は、学校のことなど子ども本人の話題、時には親の病気の話題になることもありました。
子どもが親の病気について説明を受ける機会は少ないと思います。
病気の説明がないと、親の不調や病気の症状による行動が理解できず、子どもは「わからない」と混乱するばかりか、「私が悪いのではないか・・・」と自分自身を責めてしまうこともあるようです。親が病気のことを周りにかくしていたら、子どもは親のことで困っても周りに話すことすらできません。
相談室が、親の病気のことを安心して話せる場であり、困ったことを言葉にする場として使えたら、子どもの混乱を解きほぐすことができるのではないかと考えます。
「ちょっと私診察行ってくるから、その間この子と話してて、相談員さん」と相談室に子どもを預けていくお母さん(患者さん)もいたりして・・・、そんな精神保健福祉士の使い方があっても良いのかな、と私は思います。
必要なことは親子の支援という視点を持つこと
病院の中にいると患者さんばかりに目が行って、子どもの存在は見過ごしてしまいがちです。
医療機関の中にいる精神保健福祉士として気を付けたいことは、子育て支援、子ども支援という視点を意識して日々患者さんとかかわりを持つこと。そうすることで、困っている親子に気付くことができ、支援につなげることができると思います。
おわりに… 子育て中の患者さんご本人やご家族の方へ
皆さんが受診している医療機関に精神保健福祉士はいますか?
いるのであれば、子育て中に経験する不安など、なんでも話してみてください。即座に解決できないことでも、親である患者さんと一緒に悩み、一緒に子どもの成長を考えていくことはできると思います。
そうやって、障がいをもつ親子の支援に精神保健福祉士を上手に活用していただけたら嬉しいです。