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学校MHL教育2─「アニメ教材を活用した教員による授業」サポートしあえるコミュニティ構築をめざして

学校MHL教育2─「アニメ教材を活用した教員による授業」サポートしあえるコミュニティ構築をめざして
2017年5月31日 pulusu

取材記④ -by Suzuki Yo & pulusualuha


 

学校メンタルヘルスリテラシー教育(以下、学校MHL教育)は、こころの不調や精神疾患についての知識を得ることで、病気を予防したり、自分のこころの不調に気づいてまわりの大人や友達、専門相談機関などに相談できる力をつけていくことをめざす教育です。日本では耳にする機会はまだ少ないですが、少しずつ、さまざまな団体によって広がってきています。

 

前回は、コンボ(特定非営利活動法人地域精神保健福祉機構)/学校メンタルヘルスリテラシー教育研究会の取り組みを紹介しました。
》精神保健の専門職による訪問授業で「SOSの大切さ」を伝える

 

今回は、東京大学大学院教育学研究科健康教育学分野と日本学校精神保健研究会が取り組んでいる「学校MHL教育プログラム開発プロジェクト」について紹介します。同研究科(取材当時。現在は国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)の小塩靖崇さん(看護師・保健師)にお話を伺いました。

教育と医療関係者による研究会で、プログラムを開発

 

こころの不調や精神疾患が増えはじめる思春期に、知識を身につけることで、健康で快適な生活を送れるようになってほしい――。

 

その実現に向けて、東京大学大学院教育学研究科教授の佐々木司さんや養護教諭の三木とみ子さん(女子栄養大学名誉教授)が中心となって、2012年に「日本学校精神保健研究会」(以下、研究会)を立ち上げました。それ以降、学校MHL教育プログラムの開発に取り組んでいます。
研究会には養護教諭、精神科医、看護師、心理士などさまざまな方が集まり、プログラムの効果を検証しながら、改善を続けています。授業は中学、高校で実施しはじめましたが、しだいに小学校高学年の授業も増えてきました。現在まで約70校・7,000人の子どもが授業を受けています。

 

このプログラムは、学校の教員(担任・養護教諭、保健体育科の教師)が実施しています。子どもをよく知っている教員がMHLを教え、「不調があったら相談にきてほしい」と子どもに直接伝えることで、子どもが相談に来やすくなるからです。教員自ら行うことが継続につながるということも、大きい理由です。

 

大切なことを、シンプルに、わかりやすく――アニメ教材が伝えるポイント

 

現在の学習指導要領では、精神疾患は教えなければならない内容として定められていませんし、その時間も確保されていません。
そのようななかで、精神医療の専門家ではない教員がMHLを伝えるのは難しいことです。そこで、教員が短時間で大切なポイントが伝えられるように、研究会ではアニメ教材やデジタル紙芝居を作成しました。
どちらも東京藝術大学大学院映像研究科教授の布山タルトさん、アニメーション作家の野中晶史さん、サウンドディレクターの藤口諒太さんらとの共同制作です。

 

アニメ教材の内容の一部を紹介します。

主人公のたすく君は、勉強にも部活にも、一生懸命取り組んでいます。しかし、塾で帰りが遅くなったり、宿題をがんばったり、寝る前にメールをするような生活が続き、しだいに授業に集中できず、部活も楽しめなくなり、学校に行けなくなってしまいます。たすく君の様子を心配して、先生と親友のまもる君はメッセージを送ります。そして、たすく君は勇気を出してお母さんに相談し、クリニックを受診。医師は、たすく君にわかりやすい言葉で、こう伝えます。

「こころの不調は、誰にでも起こる。特別じゃない」「僕もそうだったんだ」
「睡眠など生活習慣を整えることが大事」
「勇気を出して相談に来てくれてありがとう」
「きっとよくなるよ。心配しないで一緒にできることから始めよう」

 

6分の短いアニメですが

①こころの不調や病は身近であること。(約5人に1人がかかる)
②睡眠など生活習慣が影響すること。
③早めに相談すること。

この3つのポイントが、わかりやすい言葉で響いてきます。心配する友達や先生の言葉や行動からは、「人を頼ってもいいんだ」という安心感や心地よさが伝わってきます。

 

小学生の授業では、このアニメを活用しながら、教員が解説を加えたり、グループで話しあっていきます。
中学生、高校生の授業では、これに加えて、デジタル紙芝居を使い、思春期に起こりやすい精神疾患について説明します。
デジタル紙芝居は、こころの不調を感じた生徒が養護教諭のもとに相談に訪れ、養護教諭がうつ病・不安症(パニック症)、そして統合失調症の症状について伝えるというストーリーで、相談することの大切さも実感できる内容です。

また、実際に中高生が相談相手として選ぶのは、主に友達です。そのため、デジタル紙芝居では、「こころの不調を抱えた友達に相談されたときの対応」も伝えます。

対応のポイントは、「相談されても1人で抱え込まず、先生に伝える」「相談されたことを秘密にする必要はない」こと。アニメと同様、大切なことがシンプルに伝わってきます。

 

アニメ教材をつくるプロセス――さまざまなプロフェッショナルによる協同作業

 

「大切なことをシンプルに伝える」。
簡単なようですが、実際はとても難しいことです。アニメ教材作成時、佐々木教授・小塩さんは、精神医療の専門的な視点から、最初はさまざまな内容を盛り込んだストーリーを提案したそうです。しかし、教員に教育者としての視点から「それでは情報が多すぎて、子どもには伝わらない」と指摘され、みんなで議論をしながら伝えたいポイントを絞り、子どもにとってわかりやすい言葉を吟味していきました。
このプログラムでは、現在の学習指導要領に盛り込まれている「生活習慣」に関連させて教えることができるように、「睡眠」に焦点をあてていますが、それも、教員ならではの視点です。
さらに、東京藝術大学との協同作業で、アニメーターの視点から、子どもにメッセージが伝わりやすいようにストーリーをブラッシュアップさせたり、視覚的な工夫をし、作品を完成させました。

 

教員がもっと自信をもって授業ができるように、教員向けの指導書も作成しました。

これも、東京藝術大学大学院映像研究科の協力を得て、カラーのイラストや目立つ手書きふうの文字を満載。具体的な授業のすすめ方(指導案)や子どもに伝えるべきポイントが目に飛び込んできて、印象に残ります。
今後は指導書のアニメ版も作成する予定です。

まずは学校MHL教育を広げていくこと――子どもへの効果と課題

 

このプロジェクトの大きな目的の1つは、根拠にもとづいたプログラムを作成し、多くの学校に普及していくことです。そのため、授業前と授業後、そして3か月後にアンケートを実施していますが、効果が見えはじめています。授業後は、授業前よりも精神疾患とその対処に対する知識が向上。また自分のこころの不調時に助けを求めたり、「友達が不調を感じていた時に援助することが大事だ」という態度が改善し、3か月後もその態度が持続しているという結果が出ています。養護教諭からは相談にくる子どもが増えたという報告も寄せられています。
また、プログラムを実施するなかで、子どもも教員もこころの不調に気づくようになり、「どう相談を受けたらよいのか」「どのタイミングで医療機関に行ったらよいのか」「どう医療機関につないだらよいのか」という声も聞かれるようになりました。

 

小塩さんは、「そうした相談に個別に対応していくことは今後の課題」としたうえで、こう語ります。

 

「いま私たちは、教育の側面で基盤づくりをしているところで、まずは広げることが大事だと考えています。精神疾患への無理解や誤解があり、授業をすると『寝た子を起こすことになるのでは?』という声もありますし、MHL教育を受けていない親世代からは反発もあるかもしれません。でも、授業を受けたり、アニメを見て調子が悪くなったといった報告は、今のところありません」
「みんなが学ぶべき知識として学習指導要領にMHLが位置づけられ、子ども、教師、保護者がこころに病気があることを知り、困ったら相談していいことがわかる。そして、相談された医療側はきちんと受けられるシステムを整える。それがスタンダードになっていけば、多くの人が健康で幸せに生きられるコミュニティの構築につながっていくと考えています」

 

プログラム作成が教育と医療の連携を深めてきた

 

現在、さまざまな学校MHL教育がありますが、このプログラムや教材開発が画期的なのは、特に教育と医療との協同作業でつくられていることです。
小塩さんはこう振り返ります。
「私はずっと医療の現場にいたので、教育の常識や文化を知りませんでした。でも、一緒にプログラムをつくるなかで、『こういう言葉を使うんだ』『こういう考え方ができるんだ』とお互いの文化や価値観の違いを知ることの面白さ、共有することの面白さを知りました。ある程度、時間をかけてお互いのことをわかっていく――。そのためにあったのが、プログラムの作成だったのだと思います」

 

最近、研究会では、さらに連携を深めて、事例検討を行っています。主に養護教諭が子どもの事例を持ち寄り、教育上の問題、医療上の問題、家庭における問題を多角的な視点から話しあっているそうです。
こうした連携の深まりがあるから、プログラムもさらに改善・発展させていけるのだと思います。そして、プログラムが各地に普及していくことで、それぞれの地域で教員と医療関係者が連携をつくっていくきっかけになるのではないかと確信しました。

 


 

おわりに

 

今回、お話を伺い、大切なことをシンプルに伝える大切さ、いろんな立場のプロフェッショナルと協同していくことの大切さや面白さ、生み出されるプログラムや教材の豊かさを考えさせられました。本来だれにとっても身近なはずの「学校MHL教育」を中心にし、それぞれのコミュニティづくりに、さまざまな人が参加していく可能性も感じました。
今回、紹介したプロジェクトは、そのようなモデルの1つだと思います。

 

今回の取材では、お忙しい中、小塩靖崇さんに貴重なお話を聞かせていただきました。心より感謝申し上げます。

 

プログラムについての質問や実施についてのご相談は、以下にご連絡ください。

jsmhlteam@gmail.com

 

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