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アルコール依存症患者の子どもをサポートする取り組み─成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター【後編】

アルコール依存症患者の子どもをサポートする取り組み─成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター【後編】
2016年11月27日 pulusu

病気と子育て子どもの生活─声をきいてください

取材記②─by Suzuki Yo & pulusualuha


子どものもつ回復力をサポートする――成増厚生病院 東京アルコール医療総合センター「こどもプログラム」「思春期プログラム」の取り組みから【後編】


目次


【前編】 》前編へ

1.アルコール依存症の親をもつ子どもたちの叫び
2.「こどもプログラム」を開始 ─本来、子どもがもつ回復力を生かす
3.「思春期プログラム」の立ち上げ ─同じ境遇の仲間と安心して語れる場

【後編】

4.子どもへのサポートが、親の回復へとつながり、スタッフを変えていく
5.プログラムが継続していることの大切さ--いつでも相談できる場として
6.取り組みを発信し、共有していきたい

4.子どもへのサポートが、親の回復へとつながり、スタッフを変えていく

 

子どもがプログラムに参加して真剣に話を聞いたり、治療や相談に来ている様子を見て、患者さん(親)自身の治療への意欲に結びつき、回復するケースも多いそうです。
子どもの不登校や万引きなどの行動を依存症の影響と結びつけて考えていなかった家族も、プログラムに参加して依存症との関連に気づくなど、子どもへの理解を深めていきます。

スタッフも、思春期プログラムで子どもが語る言葉を実際に聞き、子どもに影響が出ていることを痛感して日頃から家族の視点でアプローチするようになったり、児童思春期相談につなげるようになっていくそうです。
望月さんは「一度プログラムが軌道に乗ると、スタッフの治療に対するモチベーションが上がるんですよね。プログラムへの参加を希望するスタッフも増えています」と話します。

 

5.プログラムが継続していることの大切さ--いつでも相談できる場として

 

子どもにとって、定期的にプログラムが継続していることは、いつでも相談できるという安心感や心の支えになります。
アルコール依存症は、回復までに長い時間がかかる病気です。以前、プログラムや相談でつながっていた子どもや家族が、何年後かに助けを求めてくることがあります。また何年もたってから患者さんが自殺したという報告を子どもから受けて、家族と一緒にグリーフワークをしたこともあったそうです。

冒頭で紹介した円形脱毛症だった少女は、もう十代後半。何か困ったことや苦しいことがあると、韮澤さんに連絡をくれます。少女が思いどおりに動けないとき、韮澤さんは「いままで必死に走りつづけてきたから、休むのも大事だよ」とメッセージを送ります。

「アルコールの医療現場でできることは、患者さんとの関係性を大切にし、家族一人ひとりのこともきちんと見ていくこと、何かあったときにはすぐ駆けつけられる関係をつくっていくことです。そして、家族も含めて自助グループにつないでいくことですね」(韮澤さん)

医療機関は、患者さんの家族に出会う機会がつくれる、家族にいちばん近い場所かもしれません。だからこそ、患者さんと同じように家族のことも見ていて、時には家族の避難場所ともなる*。家族にとっても退院後につながれる場を増やしていく――。東京アルコール医療総合センターが、こうした役割を果たしつづけてきたことを痛感しました。

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6.取り組みを発信し、共有していきたい

 

とはいえ、現在の精神科や依存症治療の現場では、子どもを支える取り組みはほとんどなく、そして、子どもの支援の現場では依存症への理解が進んでいないのも現状です。田渕さんは「私自身もそうでしたが、以前勤務していた子ども病院では、ネグレクトも含めた虐待の問題は意識していても、依存症の問題があることは意識していませんでした。子どもを支援する専門職にも、依存症の親をもつ子どもの問題を理解してもらうことが課題です」と指摘します。
韮澤さんも「子どもの支援にかかわる人たちで集まって、取り組みを共有したり発信したりする機会をもっとつくりたいです。もっと声を出して子どもへの支援を広めていきたいですね」と語ります。

***

今回、みなさんにお話をお伺いし、このような取り組みが不可欠であることを痛感しました。しかし、実際にはなかなか広がっていません。取り組みを行っていくにはマンパワーやコストが必要ですが、家族や子ども支援に対する診療報酬はありません。また、精神科でも小児や思春期の専門医が少ないなど、引き継いで対応できる機関が少ないのも、大きな壁となっています。

成増厚生病院・東京アルコール医療総合センターでは、患者とその家族を一体ととらえて支援していこうというスタッフの熱意と、それを支えていくセンター長の垣渕洋一さんや経営者の理解。そして、多角的な視点からフラットな関係で話しあっていく多職種のチームワークが、あたりまえのものとして存在しています。長年、積み重ねてきたこのような考え方や文化が、プログラムを継続させる原動力となっていることを感じました。

 

取材では、韮澤さん、田渕さん、望月さんに、大変、貴重なお話を聞かせていただきました。心よりお礼申し上げます。

 


*家族入院:アルコール関連問題により、家族がうつ状態や、慢性的な不安緊張状態などに陥っているとき、心身ともに休息を取り、依存症についての理解を深めることで、家族自身が健康を取り戻すことを目指して、家族入院を行っています。(たいへん稀な取り組みだと思います)

このサイトの教材作成にあたって、NPO法人ぷるすあるはは、平成28年度子どもゆめ基金(独立行政法人国立青少年教育振興機構)の助成金の交付を受けています