「子ども情報ステーション by ぷるすあるは」精神障がいやこころの不調、発達凸凹をかかえた親とその’子ども’の情報&応援サイト

『だまりんボク』と『ボクは話せない』 ボクの話さないルールと、話をしてくれてありがとう。

『だまりんボク』と『ボクは話せない』 ボクの話さないルールと、話をしてくれてありがとう。
2016年10月10日 pulusu

1.「だまりんボク」─ボクの話さないルール

 

「だまりんボク」は、言わないけれど、いろんな気持ちを感じているボクの話です。プルスアルハを始めた頃からのオリジナル作品で、手づくりできる豆本としても、じわじわと人気のある一作です。
最初に種明かしをすると、「だまりんボク」は「だまりんチアキ」の話。実体験がベースになっています。小学生のとき、学校で先生の前では一切話をしない、いわゆる「場面かん黙*」の子でした。
チアキのかん黙体験と、お話にまつわるあれこれをまとめました。

 

だまりんボク

だまりんボク[1:27]

──「だまりんチアキ」だったのはいつからいつまでですか?

 

小学校3年生の途中から卒業まで。がんばりました。最初は、大人から見ると些細な(でも自分にとっては一大事な)出来事がきっかけでした。

 

──かん黙しているときは、どんなかんじでだったのでしょう?

 

振り返ると・・・自分を守るための手だてだったのかな、と思います。
もともと吃音を気にしていましたし、例えば家の中のことなど「言ってはいけないことをたくさん抱えている」という感覚があって、いつもビクビク過ごしていたので、あてられない、怒られないことで少し安心できたのかなと思います。まわりの大人が期待する子ども像をいつも考えて行動していて、でも何て言葉を返したらいいんだろう?という状況もあって・・・それも話さなければ悩まずにすみました。

 

──周りの対応はどうでしたか?

 

幸い、誰も話せ話せと言わず、授業であてられることもなく。
自分は決して返事を返さないのですが、毎朝、先生が「チアキおはよう」と、ある日は「おっ今日はすっきりした顔してんな」などと変わらず声をかけてくれて、そういう対応がありがたかったです。
高学年くらいになると、先生に迷惑をかけている感覚が大きくなったり、子ども同士の中でも、話さないことでの不都合が増えてきたりして、葛藤がありましたが、自分の話さないルールの方が強くて、卒業まで一言も発しませんでした。

 

──話さないほかは、学校ではどんな子どもだったのでしょう?

 

仲のよい友達同士の中では話をしていましたし、遊んでいました。高学年の頃、度胸試しが流行っていて、そこで先生には言えないような遊びを通して、仲間の中でのポジションを確立していたと思います。学校は休まず通っていました。同級生が、話をしないことをうまい具合に放っておいてくれたというのもよかったと思います。(例えば「仲間にいれてあげてー」とか大人がいうのはとてもイヤな対応でした。遊びたい子と遊ぶ。自分で決める、と思っていました)

 

──改めて、だまりんボクに戻ります。どんなふうにアイデアがおりてきたのでしょう?

 

プログラムで使うお話づくりのために、診療所で出会った子どもたちや自分の子ども時代を振り返っているうちに生まれました。ストーリーはひらめいた順に書いたものをそのままを採用、タイトルだけ後でつけました。(同じときにアイデアがおりてきたのが「ボクの冒険のはじまり」「ボクのせいかも」です)

 

──気に入っているシーンがありますか?

 

ひとつは「ボクは今嬉しい、もっと笑っちゃおうかな」のシーンです。かん黙なので、大笑いとかできないんです。楽しいことがあって笑いそうになっても、あかんあかんって。もうひとつは「ボクは笑っている、本当はイヤな気分なんだけど」のシーン。これはいつもの乗り切るパターンです。笑顔以外の喜怒哀楽をださないと決めていて、とにかく笑って一日が過ぎるのを待ちました。

 

──「話さないルールが終わったときに何を話そうかな?」という最後のシーンが印象的です

 

私の場合は、中学校になったら話す、と決めていて(これもまた強迫的なルールですね)、入学後は話すようになりました。最初の言葉は、出席確認の「はい」だったと思います。それから少しずつ変化があって、3年生の頃にはよく話す子になっていました。
でも、自分の話やきもちは一切話さないと決めていました。

 

──「だまりんボク」を読んでくださる大人の方へ

 

かん黙の子に限らず、いろんなウラハラな気持ちを抱えています。困っていても言えないとか、我慢したり、周りを気づかったり。言葉足らずの子や、手のかからない子にこそ、ふとしたときに声をかけて欲しいと思います。そして、子どものルールが解けるには、その子のタイミングがあります。

 

──最後にボクへひとこと

 

「ボクのタイミングでいいんやで」と。そして、もしかしたら、ルールを外しても大丈夫な相手もいるかもしれない、きっといるということも、覚えておいてくれたらと思います。

 

***

2.『ボクは話せない』─話をしてくれてありがとう

 

ボクは話せない表紙

 

──数年の時を経て、だまりんボクをベースに新たな作品を作りました

 

だまりんボクのその後、ではないですが。自分だけの世界で完結するお話から、ちょっとだけ、だれか人とのかかわりを描くのもありかもしれないと思い、そこから続きのあるお話を作りました。
これは提案をいただいたのもあります。
話をしても大丈夫な人がいるかもしれない、そして大丈夫な存在でありたいと真剣に思っている人が世の中には結構いるかもしれない・・・と感じるようになったのもあります。

 

──『ボクは話せない』では、クマが登場します

 

信頼できる誰かに置き換えてもらえるように、クマです。ゴマスキー(ぷるすあるはのマスコット)がモデルです。最後にピンクの色を足すことで、温かさと、こころが開く感じを表現しました。

 

ちょっぴり話をしてくれたボクにクマは言います。『話をしてくれてありがとう』

ボクは話せない裏表紙

本コラムは、だまりんボクについての以前のインタビュー記事に、後半部分を付け加えて、リライトしたものです。

*『ボクは話せない…』は埼玉県中央児童相談所の協力で作成しました。前半部分も、順番を入れ替えたり、新たなシーンを書き加えたりしています。
注文受付を再開しました!

》詳細・注文方法ページへ

*だまりんボクは 》ぷるす工房 から手づくりキットをダウンロードして作れます

 

***

*かん黙は、言葉を話したり理解する能力はほぼ正常であるにもかかわらず、幼稚園・保育園や学校などの社会的な状況で声を出したり話したりすることができない状態を言います。このコラムではチアキの場合をとりあげました.背景や経過はひとりひとり違いますので、そのお子さんにあわせた関わりが必要です。

*後日談として、かんもく当時の小学校の先生と、大人になってから会う機会がありました。「ようしゃべるようになったなあ~」と暖かく迎えてくれました。