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薬物依存症インタビュー『ありのままの自分を受け入れ、いま回復への道なかば』

薬物依存症インタビュー『ありのままの自分を受け入れ、いま回復への道なかば』
2016年4月8日 pulusu

依存症インタビューイラスト

薬物依存症の当事者であるAさんにお話をお聞きしました。

Aさんは、30代前半の女性、現在、回復の道を歩んでおられ、事務のお仕事をされています。

***

─今日はありがとうございます。1時間程度のお話になりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

ー最初に、ドラッグを始めたきっかけと、その後の経過について、教えてください。

 

中学3年生のとき、友人に誘われて、断りきれずにシンナーを吸ったのが一番最初です。このときは一度だけで、高校は部活に励んで、周りに薬物やっている人がいても、「バカだなあ」くらいに思ってました。

本格的にドラッグにはまるきっかけは、専門学校生の頃に、当時の彼氏にすすめられたことです。彼は、仕事もしていたし、ドラッグをやっていても「ふつう」だったので、あまり抵抗感なく、すすめられるままにマリファナを吸うようになりました。それから、マヒしていくかんじで、だんだん怖さが薄れていきました。他のドラッグも試しました。嫌なことから・・・スッキリするというか、ちょっと元気になるというか。「自分を変えてくれる」魔法のくすりのようでした。

 

ー「自分を変えてくれる」とは?

 

「前向きに人づき合いできる自分になる」というかんじでしょうか。私は、ずっといわゆるいい子だったですけど、心のどこかで、ずっと、自分なんかいない方が・・・と感じていました。そんな、本当は消極的な自分を、ドラックで、積極的な自分に変えられたような気がしていました。ドラッグをやっていると、人が寄って来たというのもあります。これは後になって気がついたんですけれど、それはドラッグが目当てだったわけですが。

 

ーどれくらいの期間ではまっていきましたか?具体的にはどんな状態になりましたか?

 

・・・実は、きちんとした記憶がなくて、気がついたら頭の中はドラッグのことだけでした。それまでに、たぶん、1−2年だったと思います。例えば、1人でいて、夜寝る前だとか、学校に行きたくないときとか、気持ちを切り替えたいときに、ドラッグのことが浮かんでくるんです。自分を奮い立たせたいときだとか。本当に、ひとときも、ドラッグのことが頭から離れなくなります。自分が全く気づかない間に、そんな状態になっていました。

私は元々、マンガを描いたり、日記を書いたりして、気持ちを発散させていましたが、ドラッグと出会って、当時は、スゴイ発散方法を見つけちゃった、というような感覚だったかもしれません。他の方法がなくなっていきました。

実は今でも、気持ちを奮い立たせたいときには、ドラッグのことが頭をよぎります.後遺症ですね。

ドラッグをやめてから10年近く経ちますけど、それは今も同じです。

 

ードラッグは、強力に気分を変えられるものだったんですね。だから、気づかない内にはまってしまう。ヤバいという感覚はありましたか?

 

ありました。バレたら退学になる、親も悲しむ、警察につかまる・・・と。

それは病気の症状だったかもと後で教えてもらいましたが、警察につかまる気がして、こそこそしたり。家から出なければ、ドラッグを使わなくて済むと思って、食料品をたくさん買い込んで、家にこもったりしていました。でも、「最後に一服してから」と結局やめることはできませんでした。

 

ー転機になったことは?

 

一緒にドラッグをやっていた人が、事故死する出来事がありました。

衝撃的でした。ドラッグで命を落とすことがある、それもこんなに身近なところで。とても悲しいお葬式で・・・誰も何も言えなかった。私も、他の人も、みんながその場から逃げ出したい気持ちだったと思います。

 

ーそれが、ドラッグをやめるきっかけに?

 

それでもやめられなかったんです。それでもドラッグを追い出せなかった自分を責めて、そして、すごく悲しくなって。正直、やめるのは簡単だと思っていました。意思は強い方だと思いますし、その気になればいつだってやめられる、と。

 

 

ー意思の強さに関わらず、知人の死という出来事でも、やめられなかったドラッグ。本当の回復の契機になったものはなんだったんですか?

 

・・・1つは、ドラッグを使わない仲間との出会い。・・・もう1つは、自助グループの仲間との出会い、でしょうか。

ドラッグを使わない仲間は、ドラッグを使っていないのに、すごく楽しそうにしているんです。ドラッグを使ってないときの自分って、人前ですごく緊張して、消極的な自分だけど、そういうのを全く気にしない。それが嬉しくて、ドラッグとは違う「居心地のよさ」を感じました。この仲間たちといたい、と思ったときに、ドラッグを使ってる自分を本当になんとかしたいと思いました。ネットで薬物依存症のことを調べて、たどり着いたのが、自助グループでした。

 

ー「居心地のよさ」という言葉がでてきました。それまで、ありのままの自分で居心地よくいられる場所は?

 

小学生の頃は、すごく緊張しやすいタイプの子どもでした.それが、中学生になって、スイッチを切り替えて、今度は「がんばる自分」にメーターを振り切って、とにかく、期待に応えよう応えようと頑張りました。

 

ー今で言うキャラ作りをして、頑張っていたわけですね。

 

そうそう。キャラ作り。どこかで、居場所のなさをずっと感じていました。学校にも、家庭にも。

高校を卒業して家を出て、それまでの(一見)健康的な人間関係は全部、自分から断って、これからは好きに生きようというか・・・ぽっかりしたときに、身近にドラッグがありました。

 

ードラッグを始めたきっかけも、やめるきっかけも、人、だったんですね。ドラッグを使わない仲間、自助グループの仲間との出会い。最初に自助グループに足を運ぶのは、とても勇気のいることだったと思います。

 

ええ、なかなか入れなくて、会場に行っては帰ることを何度か繰り返しました。受け入れてもらえるか不安でした。それで、ウロウロしてたら、握手の手を差し伸べてくれるお姉さんが現れたんです。歓迎してもらえたんです。ハグされたり・・・照れくさいやら、恥ずかしいやら、嬉しいやら。3回目くらいのときに、ドラッグが頭から離れないことを勇気を出していったら、共感してもらえた。自分たちもそうよって、気楽なかんじで。ドラッグだから、話したら怒られるかも、てどっかで思ってるわけです。言っても怒られない、怒られるどころか共感してもらえる。自助グループの仲間に出会う中で、あー今生きてるんだなあ、って感じました。初めて、生きてみようと思いました。ひとまず、30歳を目標に(笑)。

今になって、そうですねー、生きてたらいいこともあるかもよって、やっと感じられます。

 

ー振り返ってみて、Aさんにとって、ドラッグってどういうものだったと思いますか?

 

こんな言い方は誤解を招くかもしれないけど・・・死んじゃってたかもと思います。ドラッグがなかったら。自分の、ぽっかりとあいた穴を、埋めてくれていたのかもと思います。本当の自分を出せていたら、違っていたかもしれない。

 

ーその時期を、生き抜くために、必要なものだったという一面もあったのかもと。今、ドラッグの入り口にいるかもしれない子どもたちへ、Aさんから何か伝えるとしたら?

 

ドラッグに出会って欲しくないと思う。危険だし、死ぬ子もいるし、やめるのもほんとに大変だし。ドラッグでつながる人は、くすり欲しさの人間関係だし。ドラッグは本当に、進行していくこと。自分も、全然気がつかないうちに、どっぷり依存症になってました。そういう怖さは、やっぱり知っておいて欲しいです。

 

そして、「いつ出会うのかわからないけど、いつか、素の自分を受け入れてくれる場所や人が必ずどこかにあるよ」ということを伝えたいです。無理にドラッグに走らなくてもいいし、そんなにいい子じゃなくてもいい。

 

振り返ってみて、自分の意思で、断るポイントっていっぱいあったと思うんです。これは、ドラッグだけじゃなくて。嫌なときは、たとえ口には出せなくっても、嫌だってこと、思ってもよかったんだなあーなんて。ちょっと頑張りすぎてたかなあって。

頑張ることは悪いことじゃないけど、ちょっと頑張り過ぎてたというか、誰かを信用して、しんどいって言ってもよかったかなあ。

 

ー信用できる誰か・・・難しいけど、周りにいる大人の人には、そういう子どもの気持ちを大切にして欲しいですね。

 

先生方へ。先生だけでなく周りの大人の人へお願いです。子どもが、何かドラッグにしても、それ以外のことでも、打ち明けにくいことを話しれくれたら、怒らないでいて欲しいと思います。自分は、相談できなかったけど。怒らないで、むしろ「よく話してくれたね」って褒めて欲しい。そういう大人の人が、子どもの周りに1人でも多くいたら、たとえ、ドラッグにはまりそうになっても、はまっても、早く立ち直れる気がします。

 

ー今でも、ドラッグが頭をよぎることがあると、先ほどおっしゃっていました。ドラッグをやめ続けているAさんの支えになっているものは?

 

人とのつながり.ドラッグ使いたいなあと感じるときは、電話できる人がいたりして、切れずに、ほどよく繋がれる人間関係があって、そんなみんなのサポートがあって、今の自分があると思います。真面目に話してちょっと照れくさくなったんですが、本当にみんなに助けられて、今があるとあらためて感じました。

 

ー今日は、お会いできて、お話できてよかったです.話しにくいこともあったかと思いますが、丁寧にお話をしていただき、どうもありがとうございました。

 

***

 

Aさん、とても穏やかな表情で、ちょっぴり照れくさそうに、お話をして下さいました。

ダメ!絶対!の薬物乱用防止教室だけでなく、生きづらさを感じて頑張っている子に、気がつける大人の存在や、打ち明けにくいことを話してくれた時に、しっかり受け止めて褒めてあげること。とても大切なキーワードだと思います。人とのつながりが希薄になりがちだけど・・・やはり、人とのつながりってなくてはならないものだと再認識しました。

今日はいろんな気づきのあるインタビューでした.Aさん、本当にありがとうございました。そして最後まで読んで下さったみなさま、ありがとうございました。

(※2012.07.25 プルスアルハのサイトに掲載した記事を改編して再掲載)

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